城塞都市一の鍛冶屋
「よぉ。ここだ。」
ジャメインさんが手を振り、僕やジャネットさんに合図を送る。どうやらクエストの査定は思ったより早く終わった様で、ジャメインさん達は軽い食事をとりながら僕たちを待っていたようだ。
「取り敢えず、ここに来てすわりな。おーい、ジェニファ、もう二人分追加だ。」
「はーい。マスター、定食二人分追加。」
僕が席に着くと、ジェニファと呼ばれた給仕の女性が定食をもう運んできた。給仕の女性は少し長い茶色い髪を後ろで纏めて止めてきびきびと動いている。
他に給仕の人が見えない所を見ると彼女一人でここの給仕を切り盛りしている様だ。
「ま、ここの定食は結構いけるから食べてみな。」
ジャメインさんが勧める定食には、少し固い黒パン、豆と謎の肉のスープ、ピクルスのような物、がのった食事だった。
わざわざ食べてみなという事は食べてみた方がいいのだろう。食事のレベルを知る上でも食べるしかないのだ。
……
うん。不味くはない。スープもそれなりに出汁は出ているし豆も入っている、でもそれだけだ。
味付けは塩味しかないのでひどく単調に感じる。やはり香辛料は高いのだろう。でも豆類があるなら味噌や醤油を作ることが出来ると思うが発酵技術が低いのだろうか?
食事の後はジャネットにユーフォニアムの街を案内してもらう。
「ソウジはまずどこに行きたい?」
「そうだな……まず、武器防具が売っている所かな。」
今後の事を考えると、まず防具を手に入れた方がいいだろう。武器は収納袋の中にあるもので何とかなるだろうし、場合によってはスキルで代用できそうだ。
対して防具はスキルが盾の代わりになるが、防具の代わりにはならない。後ろから攻撃されればなすすべもなく倒されるだろう。
その為にも防具は必要である。重量を考えると金属鎧は使う事が無理なので革鎧が良いだろう。幸い収納袋の中には材料もある。
僕がジャネットに案内された武器と防具の店は城塞都市の鍛冶屋街から少し外れた所にある店だった。
外から見ても武器防具の店だとは判らない。雑然と物が積み上げっていて廃品回収業者のように思える店だ。
ジャネットは店の入り口(らしい場所)に立つと中に向かって声をかけた。
「おっちゃん、いる?」
「ん?なんじゃ、ジャネットちゃんか。何か用か?」
のっそりと入り口から出てきたのはジャネットより二回りほど小さい髭もじゃのおっさんだった。うむ、典型的なドワーフだな。
「で、何用かのう?これでもワシ、新作作りで忙しいんじゃよ。」
「お客を連れて来たよ。おっちゃんなら口が堅いし、問題ないと兄ちゃんも言ってたからね。」
「ふうーん。訳アリの客か。」
ジャネットに指を差された俺をドワーフのおっさんはじろじろと見た。
「貧相な体つきじゃのう。その体でワシの武具が操れるとは思えんが……ジャネットちゃんの頼みじゃ、仕方がない。まぁ、中に入ってくれ。」
僕達はドワーフの後に続いて少しの間口が狭く低い入り口の中に入る。家の中は思っていたよりも天井が高く普通の大きさの家だ。
「ま、あのぐらいの大きさの入り口にしておけば盗賊共は入らないからな。ここには客から預かった貴重品も多いからな。」
ドワーフのおっさんは部屋の奥へ置かれたテーブルの前にある丸椅子に腰かけるとこちらの方を向いた。
「適当に腰かけてくれ。俺はドワーフのガンテツ。こう見えても城塞都市一の防具職人だと自負している。で、今日は何の用だ?」
このドワーフ、ガンテツは城塞都市一の腕を持つらしい。という事はガンテツに作れなければこの城塞都市ではだれも作れないという事なのだ。
僕はゴクリとつばを飲み込みながら収納袋からキマイラの皮を出す。
「実はこの皮で鎧を作ってほしいのです。出来れば軽めの奴を……。」
ガンテツは収納袋から出された皮を触るとおもむろに片眼鏡を取り出し、顔を近づけ舐める様に見入っている。
表裏じっくりと三十分ぐらい見入っていたかと思うとフゥ―ッとため息をついた。
「坊主これをどこで?」
「できればそれは聞かないでほしい。」
「そうか……じゃあ、これが何の皮か知っているのか?」
「“キマイラ”の皮と言うのは判る。」
「キマイラの皮……それは正しくは無いな。正しくは“アビス・キマイラ”の皮だ。」
「ちょっと“アビス”って……。」
一緒に付いて来たジャネットは驚きの声を上げる。
「ああ、そうだ。これは難攻不落の迷宮である深淵に生息するキマイラの皮という事だ。残念ながらここの道具では加工できん。柔らかいくせに固すぎて鉄のナイフじゃ傷さえ作れない。ミスリルのナイフがあっても加工するのにどのくらいかかるか見当もつかん。」
結構簡単に巻き取れたから簡単に切断できると思ったが、鉄のナイフでは切ることは出来ないらしい。それでは鎧に加工するのは不可能だろう。ミスリルのナイフでなら加工できそうだが僕の収納袋にその様なナイフは入っていない。
切る為の何か代わりになる物があればいいのだが……流石に爪や牙では鎧の部品を切るのには向いていないだろう。
なら一番固いあの金属ならどうだろう。ガンテツさんに聞いてみるのもいいかもしれない。
「ガンテツさん。これがミスリルのナイフの代わりになりませんか?」
僕が取り出したのは扉の破片である。武器を作るのにドアの金属を削った時に出た破片の一つだ。
偶然にも破片の形が片方刃の様に見える物を取り出し、ガンテツさんの前に置いた。
その途端、ガンテツさんの目の色が変わる。
「こ、この金属は!どこで。どこで拾ったんじゃ!」
キマイラの皮を上回るガンテツさんの食いつきっぷりだ。元は扉なのだがそれほどすごい金属なのだろうか?
「できれば、それも秘密で……敢えて言うなら。キマイラの皮と同じ所でしょうか。」
「そうか、やはりな。坊主、この金属は何か知っているか?」
残念ながら僕には皆目見当もつかない。
「日緋色金、世界で最も硬い金属じゃよ。確かにこのナイフだとこの皮を加工することは出来る。これなら一週間あれば作ることが出来る。鎧づくりを引き受けよう。」
ガンテツさんは胸を叩いて答えた。
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