別話:東の関所
話は少し前まで戻る。
姿たちは今、途中で拝借した一般市民の服装で関所近くの高台から関所の様子をうかがっていた。
降りしきる雨の中を東の方へ逃げて行った姿たちだったが、国境の検問の前で野営せざるを得なかった。黒目黒髪の人間を見たと言ううわさが流れた事が原因らしい。
その噂を頼りに国王が手を回したのか険しい山の谷間に作られた東の国境が閉鎖されて厳しい検問が行われているのだ。
とても二人を連れて突破できるとは思えない厳しい警戒態勢だ。
「どう?雪ちゃん気分は良くなった?」
姿が周囲を警戒する隣で青白い顔になった”雪絵”の背中を”有”がさすっていた。
「平気、平気どす。すこーし気分が悪くなっただけやさかい。」
雪絵は大丈夫だと言うが顔色はまだ青白いままだ。明らかに少しではない。
「さすがにあないに多うの可能性を見るのんは問題ね。少しづつ見ること出来たらよかってんけど、兵隊はんは集団でいるさかいそう言う訳にはいかへんね。」
”風祭 雪絵”の持つユニークスキル道案内は確かに便利で強力なスキルだ。だが、便利で強力なスキルは得てして欠点を持つことが多い。
数人の可能性を見る分には問題ないが、軍隊など多人数の可能性を見た時に処理が追い付かなくなり、脳が悲鳴を上げるのだ。雪絵の気分が悪くなったのもその影響である。
「こないに気分が悪なたんはこの世界に来た時以来やね。あの時はうっかりスキルを使うてもうてえげつのう気分悪なったわ。」
「その割にはすぐにスキルを使いこなしていたわよね?それに田辺くんに会いに行くなんて普段の雪ちゃんからは考えられなかったわよ。」
異世界に来る前の”風祭 雪絵”はそれほど積極的な性格ではなかった。アメリカ人である母親譲りの外見から派手な印象を受けるが本人は極々控えめで慎ましい性格なのだ。
「あら必死やったさかい。それに何とち狂うたのか、”王女様きゃほー”やら言うてるけったいな人の生存の可能性を見たら0%やったのが気になってや。」
「そう?それにしては積極的だったような?」
「そうかなぁ?いっぺん会うて話をしてみようと考えただけでいろいろな可能性上がるんやさかい会わへん言う選択はあらへんともうのだけど?」
「ふぅーん。その割には楽しそうに話をしていたし……。ま、いいか。そう言う事にしておきましょう。」
「もうなんなんよ。有ちゃんはときどきいけずやで。」
女子は二人がそんな会話をしていると関所の様子をうかがっていた姿が二人に警鐘を鳴らした。
「む!関所の様子が何か変だ。今は静かにした方がいいかもしれない。」
雪絵と有の二人は姿の言う通り、声を殺して関所の様子をうかがった。すると一時間も立たないうちに関所から数多くの兵士の集団が出発する。
今のところ姿たちがいる場所に近寄ってくる様子はない。方向からすると真っ直ぐ王都へ向かうようだ。
「次から次へと兵士達が出発するな。これはチャンスか?風祭さん、もう少し休んだら頼めるか?」
「なんなら今すぐでも構わへんよ?」
「いや、今すぐは意味がないだろう。兵士の出発はまだまだ続くようだからそれが終わった時の方がいいだろう。」
「そうなん?ほなそれが終わった時にうちを起こしてや。少し眠っとくわぁ。」
そう言うと雪絵はあっという間に眠りについた。道案内の使用で脳に負担がかかっていた為だろう。体は睡眠を欲していたのだ。
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兵士達が出発して半日が経過した。
どうやらほとんどの兵士が出発したみたいだ。関所に残っている兵士は数えるほどしか見えない。
関所には必要最低限の数しかいない様だ。
「どうやらほとんどの兵士達は移動したようだな。」
「ほなうちらも移動しよか。うちら二人はあそこに見えてる荷馬車に隠れるつもりやで。」
「二人は?じゃあ俺は?」
「姿はんは左の山を登って越えること出来るはずやで。まぁ仕方があらへんかいな。そうする事の方成功率高いさかい」
「まぁ、仕方がない。」
そして半日後、関所を超えて隣の国の王都を目指す姿たち三人の姿があった。
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