冒険者達その2
ジャッキー達の“ジェームス・ファミリー”はワイバーンの卵を囲んでいる。
「おい、おい、おい、本物かこれ?タイタス?」
ジャメインさんがタイタスさんにワイバーンの卵が本物かどうか尋ねた。タイタスさんは魔法を使って鑑定を行っている様だ。
「ほ、本物だよ。これは、わ、ワイバーンの卵だ。」
「ホントかよ。なぁソウジ君。これを俺達に売ってくれないか?いくらなら売ってくれる?二千か?三千か?」
「待て!ジャーメイ!そんな事よりも索敵だ!ランディ!」
「えーっと。周囲に魔物は……いないみたいだ。でも?妙だな……。」
黒っぽいローブを着たランディさんが魔法を使っている。どうやら周囲の様子を探る魔法の様だ。ただ何か疑問に思う事がある様だった。
「何か問題があるのか?……。ソウジくん、今はその卵をしまっておいてくれないか。」
ジャッキーさんがワイバーンの卵を収納袋にしまう様に頼んできた。卵を欲しがってきたのにしまわなければいけないのは何か理由があるのだろう。
僕は卵を収納袋に戻す。そうやって卵を収納袋に戻しているとジャメインさんがしきりにワイバーンの卵を売ってくれと迫り、ジャネットが僕の首にかかった収納袋を手に取り眺めていた。
「なぁ、なぁ、三千でダメならいくらならいいんだ……おわっ!」
「すっごーい。収納袋を持ってるなんて!……ちょっと!これイニシャライズしてないじゃん!」
僕に迫るジャーメイさんをはねのけてジャネットがすごい剣幕で僕に怒鳴ってきた。イニシャライズとは何だろう?
「イニシャライズ?」
「……まさかイニシャライズを知らないの?それなのにこんな秘宝を持って馬鹿なの?あほなの?」
実に酷い言われようである。どうもそのイニシャライズとやらは収納袋に使うべきものらしい。ここは恥を忍んで教えてもらうべきだろう。
「はぁー。仕方がない。ほら、手を出して。」
僕はジャネットに言われたまま手を出した。
するとジャネットは腰に差したダガーを抜き僕の親指を軽く刺した。ダガーで刺された親指からは血が丸くにじみ出す。
「で、血の付いた指で収納袋の魔法陣に触れる。」
言われた通りに収納袋に描かれた魔法陣に血の付いた親指で触れると紋章が青く輝いた。
「よし、イニシャライズ完了よ。これでその袋はあなた以外の人が開けることは出来なくなった。」
どうやら今までの収納袋は誰でも中身を引き出せる状態だったらしい。それを僕だけが中身を引き出せるようにしてくれたのだ。彼女はとてもいい人だ。
「なによ、急にニヤニヤして。言っとくけどね、あなたも冒険者だったらこの位の事キチンと知っておくべきよ。まぁ、収納袋を肌身離さずに持っているのは良い事だけど懐はいただけないわね。別の場所にしなさい。後は……鞄に貴重な物を入れ忘れていないでしょうね?ちょっと見せてみなさい。」
僕はジャネットさんに言われた通りに鞄を開けて中の物を取り出す。ジャネットさんと言っているけどおそらく彼女は年下だ。だけど冒険者としてはかなり活動しているみたいだ。
冒険者になることを視野に入れる僕としては“さん”付けで呼ぶことに抵抗はない。
「えーと、タオルに紙束に……これは皮?何かを包んでいるのね。何これ?爪のような?」
「あ、その爪は先が鋭すぎて皮で包んでおかないと怪我をするんだ。」
「へぇ、その爪を通さない皮もかなりの物よね。ねぇ、タイタス兄?これ何の爪?」
ジャネットは鑑定の出来るタイタスさんに鑑定をさせる気だ。キマイラの爪とは判っているのだが、鑑定の魔法でその様な鑑定結果が出るのか興味があった。
「どれどれ?えーっと……」
爪を手に持ちしげしげと眺めるタイタスさんの動きがピタッと止まった。そしてギリギリと首を動かすおもちゃみたいに首をこちらに向けた。
「ソ、ソウジくん。これをどこで……。」
流石に持ってきた場所を言うのは拙いだろう。ヨブ王国に僕が外に出た事を知られるべきではないと思う。
「そ、それは秘密という事で。」
そんな僕の返事を聞いたタイタスさんは少しため息をつく。
「まぁ、仕方がないね。冒険者が自分の穴場を言うわけは無いか……。」
何のことだか判らないジャネットはタイタスさんに不満そうな顔を見せた。
「ちょっと、何御ことか判らないわよ。で、一体何なの?その爪?」
「……これは特殊個体のキマイラの爪だ。かなり危険な魔物だと思う。」
「特殊個体!」
驚きの声を上げるジャネットにジャッキーさんやランディさんが何事かと近づいてきた。
「特殊個体の爪ねぇ……。」
「……」
ジャッキーさんは少し首をかしげながら見ている。しかし、ランディさんはタイタスが手に持つキマイラの爪を見ると感心したように大声を上げた。
「これだ、これが原因だったんだ。」
「「「「「「?」」」」」」
「おいランディ、“これが”と言われても何が“これが”なのかからないぞ。ちゃんと説明しろ。」
「あ、ジャッキー兄さん。魔物が寄ってこない理由がタイタス兄さんの持つ爪にあるんだよ。おそらくかなり上位の魔物の爪だね。だから魔物が寄ってこないんだよ。」
ランディに爪が魔物を遠ざけると言われても半信半疑だ。
「そもそも魔除けの香と言うのは強い魔物の体の一部を香に練り込んだ物なんだよ。だから、香に混じって強い魔物の匂いがするので魔物は警戒し近寄ってこないんだ。ソウジは何処でこれを手に入れたんだい?」
「ええっと……それは秘密という事で?」
「そうね。それは秘密にした方がいいわね。」
「冒険者たるもの穴場は自分で探せ……てやつだな。」
「ま、そんな所だろうな。」
そう言って彼らはそれ以上追及しなかった。“ジェームス・ファミリー”の皆さんも親切な人たちだ。
彼らだったら話してもいいが情報が何処から漏れるか判らない。やはり秘密にせざるを得ないだろう。
「ところでワイバーンの卵の件は考えてくれたかな?」
でもジャーメイさんの交渉は終わらなかった。
結局、ワイバーンの卵は彼らに売ることになった。売る過程で三千GPだったのが二千五百GPまで下がったのはフリューゲル王国やその他の国、冒険者の心得などの情報料を加味した結果だ。
実際、収納袋のイニシャライズについても教えてもらった。知らなければ収納袋を取られて一巻の終わりになっていたかもしれない。
ジェームズさん達はワイバーンの卵を手に入れれば、もうここ“深き魔の森“に用はない。森から近い村へ戻ることになった。
僕は冒険者についての話やフリューゲル王国についての話を聞きながら村へ移動する。
「でも僕は運がいいよ。ジェームズさん達やジャーマイさんとか親切な人に助けられて本当に良かったよ。」
そう言うとジャネットさんが首をかしげて変な顔をした。
「ソウジの言う“ジャーマイ”って小太りの中年の男で気持ちの悪い喋り方をする奴?ラスタクにいるジャーマイはそいつしか知らないから聞くけど?」
意外にジャーマイさんは有名だった。
「多分間違いないと思うよ。ラスタクの道具屋の主だよ。ダガーも良い値段で買ってくれたし……」
「ダガーを良い値段?いったいどんなダガーだったの?」
「命中とダメージに+1%のダガーだよ。それで金貨九枚とテントに毛布。」
「%武器ね。もっと%の値が高ければ価値は高いけど、1%じゃ誤差の範囲だから魔法の武器としての価値しかないわね。金貨九枚は妥当かなぁ……。」
「九枚とテントと毛布だよ。毛布はあのフワフワの奴。」
「まぁ、テントは一人用だから在庫処理としても、あの毛布は結構な高級品なのよね……判らなくなってきたわ。……考えるだけ無駄ね。」
当面実害が無いと考えたのだろう。ジャネットはそれ以上追及するのをやめた。
一方その頃、ヨブ王国の王都では……
「さぁゲイル。オークション会場へ行くまでしっかりと護衛をするのよん。」
小太りの中年男であるジャーマイは念入りに見張る様にゲイルに言った。その隣でゾラがジャーマイと腕を組んでいた。
「ジャーマイ様、早くオークション会場へ行きましょう。」
「そうだわね。ゲイルしっかりと付いて来るのですよ。」
そう言いうとジャーマイ達はオークションが行われている会場へ足を踏み出した。
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