チートスキル
王様たちが叫び声をあげた後、辺りはザワザワと辺りが騒がしくなる。
”収納”のどこが驚くことがあるのだろうか?
異世界転移でよくある”アイテムボックス”と同じもしくは似たようなものだと思うが違うのだろうか?
「あのー、すみません。”収納”ってそんなにすごいスキルなのですか?」
宰相におずおずと尋ねるのはサッカー部のマネージャーの”時雨 有”。
ショートカットのかわいいい系の女子だ。彼女目当てにサッカー部に入った者がいるとかいないとか言われている。
「”収納”とはその名の通り”収納”するためのスキルだ。」
「?」
宰相の言葉に時雨さんはちょっと首をかしげた。意味のない説明に疑問を持つしぐさだ。
時雨さんと同じように僕たちが知りたいのは”収納”スキルでどんなことが出来るかだ。
「収納できるものにはさまざまな制限が付く。スキルにとっては”鉄以外の物は収納できない”や、”生物のみ”と言う制限だ。」
今のところ限定的なアイテムボックスとしか思えない。
ただ、生物しか入らないアイテムボックスはあまり記憶にない。(異世界物の小説内である。)
「スキルの効果を受けるのは”一定の範囲”であったり”手に触れた物”であったり様々だ。」
やはり”アイテムボックス”と変わらない気がする。
そんな僕の考えは宰相の次の言葉で打ち破られた。
「”収納”の最大の特徴は”問答無用に収納”が出来ることだ。」
「!」
アイテムボックスと変わらないと考えた少し前の僕を叱ってやりたい。問答無用つまり抵抗不可と言うことだ。これは正にチートな能力だと言える。
例えば限定的な収納でも”水”とか、いや宰相の言っていた”鉄”でも即死級の威力がある。
人間の体から鉄を全て抜くということは体のすべての赤血球を破壊する。赤血球が無いと酸素が全くない状態になり、人間は体から酸素が供給出来ないと昏倒し死亡する。
「先ほどの鉄のみを収納できる者は魔族を一瞬で屠ることが出来た。倒された魔族は皆うす黄色い血を流していた。見ていたものは魔族の血は黄色いと勘違いするほどだった。他にも、武器を収納できる者は、我が国に入り込み反乱を先導した魔族たちの武器を全て取り上げることが出来た。」
……僕はここで頭に引っかかることが出来てしまった。
鉄のみを収納できる一体その人物はどうなったのだろう?それに、反乱を先導した魔族たちとも言っていた。
国に入り込んだだけで反乱を先導できるのだろうか?
それに宰相の言葉からするとどちらの人物も宰相が知っている人物の様に思える。そのような人物がいるのに異世界召喚するのはなぜだろう?
どうも嫌な予感しかしない。早く逃げた方がいいのかもしれない。
「詳しいことは詳細に鑑定できる識別の大水晶を使うしかないが、悪い結果にはならないだろう。おめでとう。君は我がヨブ王国期待の星だよ。」
そういうと宰相は僕の考えを見透かしたように僕の肩に手を置いた。肩に置かれた宰相の手には力が籠められ絶対に逃がさないという意志が感じられる。
どうやら逃げることはできないらしい。
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その後僕らはスキルによって四つのグループに分けられ順次に移動するようだ。
最初は”清掃”や”振動感知”など戦闘の役に立たなさそうなスキルを持つ人たちだ。彼らを連れて行く騎士はガラが悪く騎士と言うより傭兵の様に思える。僕たちの扱いが雑で彼らに連れて行かれる姿は何処かへ引かれて行く家畜の様に見えた。ただ、このグループは数が一番多く全部で十七人いた。
その次が”バックアップ”や”幻影”などのサポート系らしいスキルのグルーブだ。このグループの数は少なく四人しかいない。
彼らの扱いはさっきのグループより少しましの様に見える。と言うのも、彼らを連れて行く騎士の装備が先ほどの騎士よりも手入れされている装備だからだ。
その次が”拳闘術”の様な一般的な戦闘系スキルのグループで数は九人。このタイプのユニークスキルは異世界の人たちの中にもそれなりの数がいるらしい。
彼らを連れてゆくのは宰相の補佐をしていた人を先頭にした騎士達。手入れの良い装備をつけた連中だ。
最後は僕たちのグループ。全部で五人。
所属するグループには”嵐を齎す剣”、”一人軍隊”、”波浪氣闘法”、”戦闘総司令官”のユニークスキルを持つ人がいるグループだ。
僕たちのユニークスキルは極めて珍しいものらしく、異世界の人々の中に持っている人がいるのか疑わしいスキルの様だ。
僕たちは王様を先頭に宰相、王女、騎士の一団が続く。騎士たちは皆見目麗しく明らかに他の騎士たちとは違う煌びやかで豪華な装備をしている。
どうやら僕たちはVIP待遇らしい。
「では、あなた方にはこの後、王との会食。その後、宿舎に案内いたします。」
僕たち五人が通されたのはシャンデリアによって明るく照らされている大広間。広間の両側には天井まで届くような大きな窓がいくつも並び外の景色を見ることが出来た。
今いる場所は森に囲まれた石造りの屋敷(ひょっとして城か?)らしく背の高い木々が少し下の方に見える。この場所からはさらに遠くにある街並みや幽霊が出そうなボロ屋敷まで見える。
空はオレンジ色になっているところを見ると、今は夕方近くの様だ。
そして広間の中央には長いテーブルが置かれていた。テーブルには金銀の刺繍が施されたテーブルクロスがかかっており、その上にはさまざまな食べ物が置かれていた。
パンだけでもぱっと見為には五種類ぐらい見える。他にも鳥の丸焼きや分厚いステーキ。色とりどりのフルーツが豪勢に並べられていた。
僕たちが座る席のすぐ近くに一人ずつ召使が立っており、テーブルの上には銀の食器類が並べられていている。
「さぁ、勇者殿。今宵はご存分にお楽しみください。」
「「「「見たこともない異世界料理だ!」」」」
各々目の前の料理に手を伸ばす。
「「「「うめぇぇ!!」」」」
「これらの食材は勇者様をねぎらうために国のあらゆるところから取り寄せた物です。」
流石は国王が食べる料理である。あらゆるところから厳選された最上の素材を集めたのだろう。それに料理人の腕も良いのだろう。
僕や他三人が出された料理に舌鼓を打っている中、一人黙っている者がいる。
「……」
たしか”一人軍隊”を引いたやつだ。
イケメンで外見がチャラチャラしているチャラ男の様に見えるのだが、まじめなサッカー部員で、たしか名前は”姿 一二郎”。
「勇者様、食が進まないようですがどうなさいましたか?これなどは我が国が誇る特上級肉であるジェネラルオーク。王族でさえめったに食べることはできない絶品ですよ。」
一人だけ食事に手を付けてない姿くんに気が付いたアッキマ王女が特上肉とやらを勧めている。
(こういう時、イケメンは得だなと感じてしまうのは俺のひがみだろうか?)
そんな僻みにも似た事を考えていると姿くんが口を開いた。
「有は……時雨は今どうしているんだ?」
「時雨?」
「こう、髪の短い背の低い……」
姿くんは時雨さんの行方を気にして食事に手がつかなかったらしい。
「時雨さんなら最初に連れ出されたグループにいたよ。たしかユニークスキルが”天気予知”だから戦闘に関係ないとかでそのグループに入っていたから間違いないよ。」
僕はかわいいと評判の彼女が少し気になったのでどのグループに入ったかを見ていた。他にも女子が一人、一緒にそのグルーブだったのを見ていたから間違いない。
「何!」
大声を上げ姿くんは立ち上がるとそばにいたメイドに詰め寄る。
「どこだ!その場所は!!」
姿くんの怒気に当てられたのかメイドはガタガタと震えだし青い顔で大きな窓から見えるその場所を指さした。
「あ、あそこです……ここから見える離れにある屋敷です。」
メイドが指さした屋敷を見ると、先ほど見た幽霊が出そうなボロ屋敷である。
「あそこかっ!」
姿くんはそう叫ぶと窓を蹴り破り飛び出した。
ガシャーン!!
ガラスが砕ける音とともに窓枠が吹き飛ぶ。
窓をけり破った姿くんは窓の下に立ち並ぶ木の幹を器用に蹴りながら真っ直ぐボロ屋敷の方へ進んでいった。
「すげぇ。あれが一人軍隊の能力か!」
一人で軍隊並みの活躍が出来るチートスキルである。姿くんの動きは至極当然な事のように思えた。
時雨さんは姿くんがスキルを発動してまで助けたい人なのだろう。無事救出できればいいと僕は影ながら思った。
結局、飛び出していった姿くんが戻ってきたのは残った僕が食事を終えて宿舎に戻ってからの事だった。
ワンマンアーミー、ランボーやコマンド―になれるスキルと言えば話が早いでしょうか?
波動→波浪に変更。たいして意味はないです。波〇拳が波浪拳になるぐらいで。
振動感知、100m内の任意の位置の振動を受け取ることができる。見える範囲なので意味がないと判断されゴミスキルとされた。