秘密の道
僕はラスタクの町を出るとジャーマイさんに教えてもらった通りに真っ直ぐ森を目指していた。
遠目に見ても鬱蒼とした深い森だが、秘密の道を通れば楽に隣の国へ行けるらしい。王国の兵士とあまりかかわりあいたくない僕にとって、絶好のルートだ。
隣国へ通り抜ける為の森は鬱蒼と木々が生い茂り黒々としていた。森の中から水の綺麗な小川が流れてきているのが見える。
ジャーマイさんによると、この小川沿いの道をしばらく行くと石畳の道(どうやら古い遺跡があるらしい)になっていてすぐ判ると言っていた。
その石畳の道を遺跡に立ち寄らずにまっすぐ進めばいいそうだ。
「よし!何とか森の入り口にたどり着けたぞ。明日からの行軍に備えて今日はこの辺りで休んだ方がいいな。暗くなる前にテントを立てた方がいいし、この辺の地面は固いけど近くに小川がある。あと必要なのは動物除けの焚火だな。この辺りの森で薪を拾うか。」
僕は少し森に入り多めに薪や丸太を集めた。丸太は小さく切り、薪と一緒に収納袋の方へ入れておく。こうすれば重い物も数多く運べて楽なのだ。
薪を集め終わるとテントを組み立てる。テントは僕一人しか寝ることが出来ない大きさの物だ。僕には丁度いい大きさと言える。
その後、袋から毛布を取り出す。この袋もジャーマイさんが毛布を運ぶのに邪魔にならない様にと付けてくれたものだ。
ぴよーん。
何だ?今のは?小さな何かが飛び出したぞ。
毛布をよく見て見ると黒い何かが毛布の長い毛の間に潜んでいるのが見える。
……これは、ノミやダニだ!
どうやら毛布はかれらの住処らしい。地球の中世でもノミやダニ、シラミが多かったと聞いた事がある。地球、まして日本で生活している僕には我慢できない。
「虫を収納」
おっと、石の中に……はいないが、この場所で行うのはまずい。弾き出してもテント内部に散らばるだけだ。僕は小川に出ると再度、収納スキルを使った。
スキルの銀の円盤に毛布と袋を通す。銀の円盤を川に向かって操作すると何やら黒い塊が。小川に落ち流れていった。
あんな虫だらけの毛布で寝ることが出来るとは……恐るべし中世(のような世界)。
毛布をテントに敷いた後、薪を組みあげ火を点ける。その際、火が消えない様に小さく切った丸太を使う。
丸太の断面の部分に半分くらいまで十字に切り込みを入れる。十字の中心部分をえぐり、その部分に細い枝や枯葉を詰めて火を点けるのだ。こうすれば数時間は持つだろう。
「あ、そうだ。ダガーは売ってしまったんだ。代わりの物を何か出すか……。」
明日からの行軍の為に必要な武器を収納袋から用意する。
中には様々な大きさの剣、槍、弓が存在するがどれも重すぎて使いこなせない。遠距離用の弓自体も便利なものだと思うが弦が強すぎて引けないので役に立たない。
「という事で、今回も魔法の短剣にしよう。これは売った物よりよく切れる奴だ。」
僕はラスタクの街への旅の間、武器の切れ味を調べておいたのだ。
具体的に言うと、キマイラの皮(切れ端)、キマイラの爪(割れた物)、キマイラの牙(折れた物)に傷をつけることが出来るかどうかである。
キマイラの皮に爪や牙で傷はつくが、キマイラの爪で牙に傷をつけることは出来なかった(牙で爪に傷はつく)。
だから硬さは、キマイラの牙>キマイラの爪>キマイラの皮となる。
ジャーマイに売ったダガーはキマイラの皮にさえ傷をつけることが出来なかった。今持っているダガーはキマイラの爪には傷が付かなかったが皮には傷をつけることは出来た(最も硬いのは扉だったのは意外だった)。
ちなみに削った爪や牙は何かに使えるかもしれないので布で包み鞄の中に入れている。
「何かに使えそうな気はするのだけど、専門家じゃないから判らなかった。ジャーマイさんに鑑定してもらっても良かったけど、売らない物を鑑定させてもなぁ……。」
流石に売らない物をタダで鑑定してもらう気は無い。そして鑑定料を払うとしても、場合によっては売値と同じぐらいになることがある(参考、ボッタクル商店ことボルタ〇ク商店)。
とりあえず明日の準備は出来た。今日は明日に備え早く眠ることにしよう。
テントの横では焚火が蝋燭の様に火を灯し続けている。森では初め魔獣の遠吠えが聞こえていたが徐々に遠くなっていった。
次の日、いつもの様に食事を終えた僕は言われた通りに小川沿いの道を歩く。
日はあまり高くないが周りにある森の緑は美しい。今日は絶好のハイキング日和だ。
道は秘密の道らしくあまり人が通らないのか下草が道にはみ出している場所もあるが問題は無い。
用意しておいた魔法の短剣やキマイラの爪カッターで切り落として進む。
森の中へ入って半日ぐらい過ぎた所で石畳の道が見えてきた。この道がジャーマイさんの言っていた道なのだろう。
石畳の道は幅が3mありかなり広く歩きやすい。道の隣に流れていた小川は両岸を補強された水路になっている。この川自体が遺跡につながるものなのだろう。
さらに進むと石畳の上を通る大きな建物が見えてきた。構物は目の前を大きく横切る形で建っていて、今いる道からその構物へ繋がる通路も見える。
建物の傍まで行くとその大きさに圧倒された。周りの巨木よりもずいぶんと高いのだ。
「この建物はすごく高いな。上に登る道もあるし一度登ってみるか。」
周囲の様子を見る為にも建物の上に登った方がいいだろう。
今いる石畳の道から建物を登るのにはジグザクに繋がる道を登っていくしかない様だ。
そのジグザグの道を登るごとに周囲の様子が覗えるようになる。
建物は少し弧を描いており、森は目の前にある建物で遮られていた。建物は森を越えてさらに先の山々に繋がっている様に見える。
さらに登り続け、一時間ほどで建物の頂上へたどり着いた。この場所からだと周りの様子がよく見える。
ラスタクの街は森の木々に阻まれてよく見えないがラスタクに繋がる道が見える為、およその位置は判る。
今日半日でかなりの距離を進めたようだった。
そして今来た道とは反対側。そこには巨大な湖とその上にある街のような物が見える。どうやらあれが遺跡らしい。
その遺跡をぐるりと囲む様に今僕が上に立っている建物がある。この建物は巨大な壁、万里の長城みたいなものだった。
石畳の道はその建物の端を横切る形で先の方へ続いている様だ。
「うむー。絶景ってやつだな。この先を移動するとあそこに出るのか……まてよ?この建物の上を行けばあっち側の道の先に出ることが出来るじゃないのか?」
真直ぐ進む予定だった石畳の道を行くよりも、この建物の上を進んで降りたほうが早そうだ。それにどうせ降りるなら先の方で降りた方が良いだろう。
「さて今日はこの建物の上で野宿かな。」
僕は収納袋から小さく切った丸太や薪を取り出すと断面に十字の傷を刻んだ。
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