脱出!
しばらく様子を見ていると、霧笛先輩は気合を入れ直し迷宮の奥へと進んでいった。
ちらりと見えた霧笛先輩達の目には炎が宿っているかの様に気合に満ちていた。あれならばあの変な王女に操られることはないだろう。
彼らが迷宮の奥へ消えたことを確認すると僕は階段の登りを再開した。霧笛先輩たちの話の内容から判断すると、ここは初層にあたり少し登れば地上に出ることが出来そうである。ただ、地上には王国の兵士が残っている可能性があるから注意しなくてはいけない。
注意深く階段を上ってゆくと、周りの洞窟らしい鋭い岩が平たい石組に変わった。その先にはきれいに切りそろえた石で作られた階段が五段ほどあり、最上段には鉄の扉が大きくあけ放たれていた。
「む?何だ?お前、もう上がって来たのか?」
注意深く上がってきたつもりだったが扉の影に立つ兵士には気づかなかった。これは仕方がないことだ。僕は武術の達人ではないし気配感知の様なスキルは持っていない。どんなに注意深く動いていても扉の向こうの気配を読むことは素人の僕には無理なのだ。
「まぁ、そんな体じゃ仕方がないだろう。今日のところは勘弁してやるが、明日からはちゃんと迷宮で探索しろよ。明日は俺の当番じゃないからな。」
思ったよりも見張りの人がいい人だったみたいだ。だがこの先どこへ進もう?僕が迷っていると先ほどの見張りが声をかけてきた。
「おいどこへ行く?そっちじゃない反対方向だ。」
そう言って僕たちに与えられたであろう宿舎の方向を指さした。とりあえず今は指さした方向へ行ってみるか。僕は見張りの兵士には愛想笑いをして通り過ぎることにした。
「どうもすみません。へへへへへ。」
「はぁー。この国もあの豚王……おっとこれは内緒な、じゃなきゃお前さんみたいに無理矢理呼ぶことはなかったんだがなぁ。」
見張りの男は気の毒そうな目を僕に向けていた。
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見張りの目方届かない場所に来ると僕は物影に隠れた。まずは王宮を取り巻く壁を乗り越えなくてはならない。
流石に迷宮に追放した者が王宮内で大手を振って歩いているのはまずいだろう。夜を待って行動すると言う選択もある。だがここは敵地であると言ってもいい。何が災いするかわからない。
僕は人目を避けて王宮の裏の方へ移動していった。どこかに商人達が出入りする通用門があるはずである。その通用門が使えなくても、その付近の壁なら超えることが出来るかもしれない。
うろうろと通用門を探すが見当たらない。どうやら王宮の奥の方に来てしまったようだ。王宮の奥には一面緑の芝生に覆われた人口の庭園があった。庭園の隅々には造られ色とりどりの花や緑豊かな木々が植えられ、さながら桃源郷のような景色になっている。
どうやらここは後宮らしい。後宮の庭園の真ん中には小川が流れ、魚も泳いでいるようだった。
小川か……まてよ、この小川はどこからきてどこへ行っているのだろう?
魔道具で水を流す可能性を考えたが魚が泳いでいる時点でその可能性は低い。ならどこかに水を取り入れる場所があるはずだ。そこから王宮を脱出できるかもしれない。
川を辿ってゆくには、芝生の上を歩かなくてはならない。周りに木々が生えている今の場所は隠れる所があるが、芝生の上は王宮側から丸見えになる。隠れ身のスキルでもあればいいのだがそんな便利スキルは無い。僕の持っているのは収納力のない収納であり精々収納できなかったものを弾くことが出来るだけなのだ。
……そう言えば、光を弾くことも出来るはずだよな……。
試しに光を収納しようとすると、銀の盾が完全鏡面の盾に変わった。
「これなら、日本刀と同じ効果が期待できる。」
日本刀が鏡の様に研がれる理由の一つに間合いを判らせないと言う物がある。これは鏡の様に研ぐことで刀身に周りの景色を映し長さを判り難くするものだ。今回はその応用で、光を弾く銀の盾……いや鏡の盾で周囲にある芝部を映し、そこに何もないように見せる光学迷彩作戦だ。収納スキルで展開できる大きさはレベルが上がったためか僕の体位は隠せる大きさに出来るようになっている。
僕は収納スキルで作った鏡の盾を後宮の方向へ向け小川の流れを辿る。途中、ヒヤッとする場面があったが何とか小川の上流へたどり着いた。
流れは丁度、王宮自体を囲む壁の一角に口が開いていてそこから水を取り入れている様だ。水が出る口の大きさは50cm角の大きさで、その傍に手入れをするための通路があるようだ。幸い通路の扉の前には誰も立っていない。でも衛兵が定期的に見回っているのかもしれないので注意が必要だ。
僕は周囲に誰もいない事を確認すると収納スキルを使い扉の鍵の部分を切断する。鍵の部分を切ると扉は自然に開く様になった。ほっておくと開いたままになって大騒ぎになる。木の枝での挟んでおけば扉が開いたままになることは無いだろう。僕は木の枝を挟んで扉を閉めると通路の奥へ進んだ。
通路は少し薄暗く小川に沿ってまっすぐ伸びている。水路を手入れする為のものらしく人一人がやっと通るくらいの幅しかない。長さも20mぐらいで短く所々に枝道があるようだ。
通路を真っ直ぐ進と突当りには金属製の扉があった。こちらの扉は入口の扉より厚く頑丈そうだが問題は無い。先ほどと同じ様に鍵を切断し扉を開ける。
扉を開けた目の前には大きな川が流れており、小川の水はその川から引き入れている様だ。この場所は既に王都の城壁の外に当たるらしく左右を大きく見渡しても兵士らしい人影はない。
「よし!早い所ここから立ち去ろう!」
僕は急いでこの場所から立ち去る。
しかし僕は知らなかった。僕が出てきたこの扉を遠くから見る目がある事を……。
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