すれ違い
微妙な変更、中身に変わりはありません。
階段の踊り場には一緒に転移された同級生(先輩もいるが)達がいる。
僕が今立っている階段から彼らが休んでいる踊り場へは一方通行になっている。光は一方通行とは反対に作用するようだ。不思議な事にこちら側からは見えるが向こう側からは見えない。
話しかけようと思ったが同級生に交じってヨブ王国の騎士が見える。状況が判らない以上、迂闊に話しかけることはできない。しばらく情報収集の為に様子を見よう。
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「よし、この階層まで皆無事に来ることが出来た。これもみんなの努力の賜物だ。この結果にアッキマ王女様もお喜びになる事だろう。」
野球部のキャプテンである霧笛先輩が他の男子生徒を率いていた。
霧笛はスキルの判定があまり良くなく低ランクに回されていたとが、持ち前の努力でリーダーの座を勝ち取ったのだ。
「それにしても霧笛先輩、脱走した四人には困りものですね。アッキマ王女の好意を無にするなんて……。」
「うむ、麗しの王女殿下を悩ます不埒な奴らだ。見つけ次第、王女殿下の元へ連れてゆかなくてはならない。その為にも俺たちはこの迷宮で鍛える必要がある!」
「ああ!霧笛の言う通りだ!」
「ああ、そうだ。俺たちの手で王女殿下の憂いを取らなくてはならない。そうだろうみんな!」
「「「「「「応!」」」」」」
王女について語る霧笛の熱い思いが周囲の男子生徒に伝播する。これが無敵のユニークスキル、男魂の力だ。この力によって自分の熱い思いを仲間に伝え自分と同じ精神状態にすることが出来るのだ。
霧笛が思い出されるのは出発前のアッキマ王女の事だ。
「勇者よ。十分な力をつけて迷宮を攻略してほしい。さすれば迷宮の富が手に入りこの国も豊かになる。この国の為にも、そしてあなた方の無事を祈る私の為にも迷宮を攻略してほしい。」
アッキマ王女の真摯な願いにより俺の心は奮い立った。必ず迷宮を攻略しアッキマ王女に吉報をもたらすと。
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……?
アッキマ王女について語る霧笛先輩の熱い思いが周囲の男子生徒に伝播している様にも見える。
だが霧笛先輩はアッキマ王女が好みだっただろうか?たしか女子マネージャーと仲が良かったと聞いたことがある。
何でもデートの人気スポットナンバーワンの”東響デゼニー・シー”へ二人で行ったとか行ってないとか……。
それに他の同級生達の様子を見ると、男子は王女について熱く語り女子はそれを冷ややかに見ている様にみえる。
これはおかしい。やはりあの王女は魅了のスキルで霧笛先輩や男子生徒達を洗脳したのではないか?
魅了スキル。掛かると危険なスキルだが、おそらく収納スキルで弾くことはできる。だが収納スキルの効果範囲が狭い為、精々一人か二人しか弾くことはできない。一体どうすればいいのだろう?
「よし!それでは王女の為にそろそろ出発するぞ!」
「「「「「「応!」」」」」」
霧笛先輩の掛け声に対し男子生徒達が勢いよく答える。
その一連の動作はまるで霧笛先輩の心が男子生徒達に伝わっているように見えた。
(たしか霧笛先輩のユニークスキルは……。)
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俺の名前は”霧笛 闘志”、闘美ヶ丘高校野球部で主将を務めている一学生だ。
ついこの間、朝練に出ようと校門をくぐったところ球に足が動かなくなり見知らぬ世界に連れてこられた。
麗しのアッキマ王女が言うには俺たちは勇者なのだそうだ。
そしてこの国を狙う邪悪な魔族とやらから守ってほしくて俺たちを呼んだのだそうだ。
何でも邪悪な魔族は暴虐の限りを尽くし、国を攻めない代価として王女の身柄を要求している。
それを聞いて俺は是非やらねばと言う気持ちになった。
だってそうだろう。
麗しの王女殿下が心を痛めておられるのだ。これをやらなくて何が男だ。
だが俺たちは魔族と戦うにはまだまだ体が出来ていないらしい。この世界にやってきた時にそれなりの力をもらっているがそれでもまだ足りないとのことだ。
俺たちは魔族を倒すために訓練を行う必要があるらしく王国でも有名な迷宮で訓練することになった。
迷宮と言っても大して歯ごたえはなかった。
一緒についてきた騎士が言うには、”魔物の力が弱まっている”様に思えるのだそうだ。弱いなら弱いで問題はない。さっさと倒して次の階層へ進めばいいだけだ。
途中の階段で少し休憩した後、俺は皆を奮い立たせ、訓練の為に次の階層へ向かおうとした。
そんな俺に挑戦するかのように黒い円盤が目の前に現れた。
この俺に戦いを挑むとは猪口才な。この様な円盤なんて正面から打ち破ってくれる!
俺はその円盤に体当たりをした。
その時、俺の頭の中で何かが弾けた。
?
何故俺は疑問も持たずにここに来ているのだ?
それに先まで”麗しの王女”とか俺自身が言っていたアッキマ王女に何の魅力も感じなくなっている。
と言うより、俺の好みとは正反対である。もっと知的なマネージャーみたいなのが好みだ。
どうなっている?これは何かの罠か?それともいつものあれか?
これは心をしっかり持たなくてはいけない。
気合を入れた俺の心が仲間たちに伝わり、俺と同じように何かが弾けたように見えた。その仲間たちが集まり拳を重ねる。
俺の目の前には気合を入れ直した男たちの目があった。
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