迷宮登攀
迷宮奈落
深淵の上層にある迷宮で奈落と呼ばれている。かつては最難関と言われていた迷宮だ。
(現在の最難関は深淵)
迷宮にでる魔物は奈落の名前にふさわしく不死者が主に出現する魔物になっている。
迷宮の途中にアンデットナイト×3とアンデットジェネラルの中ボス、最下層にはこの迷宮のボスであるアンデットロードが配置されている。
この世界では超一流の冒険者でさえ攻略は困難な迷宮であるとされていた。
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「いててててて」
朝起きると固い洞窟の床に寝ていた為か体の節々が痛んだ。体を伸ばすとバキバキと音がする。
そんな状況でも十分な睡眠はとることが出来た。何処でも寝ることが出来るのは、ある種、僕の特技でもある。
昨日は和食で泣いていた?忘れてくれたまえ、それは幻影だ。しかし、一晩寝たらすっきりしたのは事実だ。
「今日は外を目指して迷宮を探索する訳だが…この迷宮、上に行くべきなのか下に行くべきなのか?それが問題だ。」
ここは迷宮について考えてみよう。
宰相に騙されてこの迷宮に転移したが、最初は転移させる前に迷宮の名前を言っていた様な記憶がある。
たしか、宰相が言ったのは“誰も攻略したことの無い迷宮。深淵の迷宮”だったか。
深淵……確か英語で地の底と言う意味があった。という事は、ここは地下で外へ出る為には上に行けばいいという事だ。
安全地帯であるこの場所を拠点にして、次の安全地帯までの道を確保しよう。
最悪、この場所でしばらくとどまる可能性があるが食料は手に入るし、服や体の汚れもスキルで何とかなる。
寝る場所だけが問題だが、それほど時間を掛けなければ何とかなるだろう。
中ボス部屋の状態を確認したいが、部屋を開けた途端、強制的に中に取り込まれるかもしれない為やめておく。
「そうと決まれば早速出発……の前に腹ごしらえ。今日は何が出るか?」
本日のメニューはハニートーストとスクランブルエッグ、シーザーサラダとコーヒーである。
僕の体調や空腹状態、時間によって適切な食事が出るのは流石魔道具という所だろうか。
手早く朝食を済ませると、地上へ向けての探索を開始した。
取り敢えず収納スキルの対象を“危険な物”としておけば罠を感知できることを期待して進んでみよう。
最初は真直ぐに十分ほど進み、その後は到着した場所によって変えよう。
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探索を開始して10分もたたないうちに上への階段を見つけてしまった。と言うのも、この階段まで一直線だったからだ。
途中に隠し通路があるかもしれないが、それらを発見する技能を持たない僕にはさっぱりわからなかった。
通路の途中で魔物にも会わなかったし罠も無い。
「階段にたどり着いたが階段は安全地帯になっているだろうか?」
その疑問はすぐ晴れた。階段の途中にもキャンプ跡があったのだ。だとすれば別の疑問が出る。
ここで何故キャンプを行ったのだろうか?
僕は今まで来た道を確認する意味で後ろに振り向いた。しかし、振り向いた僕の視線の先に道はなく洞窟の壁があるだけだった。
「一方通行……。」
罠ではないが、ある意味罠みたいなものである。10分ぐらいの間だから振り返らずにまっすぐ歩いていたことが仇となった。
「“行きはよいよい帰りはこわい“の反対で行きは恐くて帰りは楽々か?」
僕は後々知ることになったのだが、ヨブ王国では迷宮奈落を兵士の訓練で使用している。
他の国家でも兵士の訓練に迷宮を使うことはあるのだがヨブ王国ほどではない。
迷宮によって一度はいると何日も出ることが出来ない迷宮もあるのだ。そのような迷宮は兵の訓練には向かない。
しかし、迷宮奈落は進むのは困難だが撤退するのは楽な構造になっている為、兵士の訓練に最適なのだ。
その為、他の迷宮では多い冒険者たちよりもヨブ王国の兵士を多数探索しているらしい。
とは言え、ここはまだ奈落の下の方の階層である。流石にここまで来られるのは、超一流の冒険者パーティしかいないと思える。
「まぁ、楽に上がれるなら越したことはない。一方通行の境目に気を付けて進むとするか。」
その後、一層、二層と注意深く階段を上るが魔物とは出会わない。やはり階段は安全地帯になっている様だ。
振り向くと階段が消えている場所を次の層と仮定すると、一層分の階段の段数は二百段ある。
階段の一段の高さが20cmとすると、この迷宮の一層目は40mもあるようだ。それが少なくとも7層はある。
僕は間に休憩を二回ほど挟みながら、どうにか280mほどの高さを登ってきた。
休憩中もただ休んでいたわけではない。
収納スキルを再確認していた。そのおかげもあってレベルが上がっていることが分かった。
発動までの距離が長くなり収納の口である銀の円盤の大きさが大きくなった。
それと同時に、円盤の色を変えることが出来るようになったみたいだ。
残念な事に無色はなかったが、工夫次第では効果的に使えるだろう。
ここまで登ればあと少しだ。気のせいか迷宮も少し明るくなってきた……!?
(違う、迷宮が明るくなったのではなく誰かが灯で照らしている。)
見上げた階段の上には、僕と同じように召喚された見覚えのある連中が休んでいた。
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