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宝物庫

 一通りキマイラの皮素材や体毛、鬣に収納スキルを使いべっとりと付いた血や汚れを取り去る。

 収納スキルは収納する対象を間違わない限り大変使い勝手の良いスキルだ。

 対象にならない物は何の影響もなく銀の円盤を素通りする。反動も無いため、どんなに頑固な汚れでも簡単に落ちるのだ。


 僕は綺麗になったキマイラの皮を丁寧に折りたたみタオルで作った紐で縛った。

 ファンタジーでよくあるアイテムボックスのスキルや収納袋があれば問題は無いのだが、そんな便利な物は持っていない。

 今は出来るだけ嵩張らない様に折りたたんで担ぐしかない。流石にこの大きさでは鞄に入れることは出来ないのだ。


「キマイラの皮を何とか折り畳んだけど、けっこう嵩張るな。重さは居間の絨毯を巻き取った重さがこの位か?」。


 僕は折り畳んだキマイラの皮を背負い出口を探す。電源が無くなる可能性は有るがこう薄暗いと何かを見落とす。

 スマホのライトを点け辺りを探すと丁度入って来た通路の反対側に扉があった。


 この扉はヘルハウンドやファイアジャイアントがいる部屋にある武骨な鋼鉄の扉とは明らかに違う扉だ。

 赤っぽい金色の金属製、両開きの扉で高さも広間の天井近くの高さがあり一枚の幅も広い。

 しかもこの扉はドアノブが無い。向こうから入れば戻ることの出来ない一方通行の扉だ。

 この扉自体はどのぐらいの硬さだろうか?キマイラの爪で扉自体を引っ掻いてみると傷一つつかない。


 だが僕は慌てない。


「収納、扉」


 そう念じて出た銀の円盤で扉を人が一人通れるように長方形になぞる。そして軽く押してやると……


 スーッ、ゴガァァァァァン!ゴン!ガラン!ボン!ガラン!ガラン!ガラン!


 扉に人が通れるぐらいの長方形の穴が綺麗に開いた。

 収納スキルで空けた穴の角は少し鋭い。試しに先ほどのキマイラの爪を上下に動かしてみると簡単に切れた。

 この扉は武器に出来るかもしれない。うまく削れば刃に出来るかもしれない。

 向こう側に倒れた扉から切り取ればよいだろう。


 扉に空いた穴から足を踏み入れると扉が少し宙に浮いた状態で倒れていた。

 そう言えば扉が倒れた時、妙に大きな音がしたが扉が倒れた音だけでは無かったかもしれない。

 宙に浮いたところを見ると何かを下敷きにした様だ。重い扉であまり潰れていない所を見ると結構固い物の様だ。

 刃を削りだすついでに何か判るだろう。まず扉は長方形のブロック状に切り出そうか。


 扉の切り取りは縦方向に切り取るか横方向に切り取るか?

 最初は短剣のような物を作るべきだろう。という事は横方向、短い方向に切り取るか。

 幅は少し広めの短剣、グラディウスのような物にしよう。


 収納のスキルを使い扉の一部を長方形に切り取る……む!?少し歪んだ。

 定規のような物が無いから真っすぐ切り取ることが難しい。円盤状になっているのも原因だろうか?

 どうせなら先にいくつか作っておけば、多少失敗しても問題は無いだろう。

 そうと決まれば、同じ様に扉を切り取ってゆく。


 スィーッ、カラン

 スィーッ、カラン

 スィーッ、カラン


 三つほど切り取ると扉の下敷きにした物が見えてきた。四隅をがっちり強化された箱の様な物が下敷きになっている。

 箱の上の方は扉の取手で潰されたらしく大きく凹んでいる。箱もかなり頑丈そうに見えるが取手の方には傷一つついていない。

 取手は50cmほどのコの字型で両端が扉に接続されている。ただ接続している境目を判別することは出来ない。

 扉と一体になっている様だ。


「扉を利用すればすぐに使える武器を作れるかもしれない。それに下敷きになった箱は宝箱に見える。という事はこの部屋は宝物庫か?だけど宝物庫を抜けるとキマイラがいるのはどう言うわけだろうか?」


 考えてみても判らない。


「取り敢えず今は武器に使える様に取手を残しつつ扉を切り取る。加工は後だ。まずは宝箱を確認しよう。」


 取手の周囲を残しつつ扉を切り取る。扉は半分ほどの大きさになったが宝箱の中身を確認できそうだ。

 やはりどう見てもこれは宝箱だ。宝箱のアーチ状になった山形部分に取手部分が当たったためか大きく凹んでいる。

 鍵も壊れているみたいだ。宝箱に仕掛けられた罠も発動しているらしく一部が黒焦げになっていた。

 どうやら爆発系の罠の様だ。この罠が仕掛けられている宝箱を解除せずに開けた場合、爆弾が爆発し燃えやすいものが燃える。

 いやな予感がするが僕は宝箱の蝶番部分をスキルで切断し蓋を取り除いた。


 宝箱の中には白く灰になった紙の束と真っ黒に焼けこげた本があった。


「紙の束……はお札では無いな。スクロールだろうな。本は魔法書かスキルブックと言ったところだろう。」


 紙の束は触るとバラバラと崩れ、焼けこげた本は真っ黒になって中身が判別できない。

 どちらも爆発によって駄目になっている様だ。


「お、これは!」


 幸いなことに焼けこげた本の下に十枚の銀のトレイが置かれていた。その横には銀のコップが十人分ある。どちらも金属らしくすべて消失を免れている(煤がついて薄らと黒くなっているが後で拭いておこう)。

さらに銀のトレイの下には水袋ぐらいの大きさの小さな袋が二つあった。この二つはトレイが盾になったおかげで焼失を免れたらしい。


「宝箱にあるアイテムは大抵便利アイテム。魔道具だ。何とかして安全に使えないものだろうか?せめて呪いが掛かっているかが判ればいいが……。スキルは攻撃を弾くことが出来るが流石に呪いなどは……。」


 本当にそうだろうか?

 僕の持つ収納スキルは収納対象に制限はない。なら、呪いも収納できると見るべきだ。


「“呪いのアイテム”を……」


 おっといけない。危うく何も考えずにスキルを使うところだった。収納スキルは亜空間に物を送るスキルである。

 亜空間の中に亜空間への入り口を開くと相乗効果で周囲の物を吸い込んで壊れると聞いたことがある(あくまでもゲーム知識だが。)。

 収納袋の口は亜空間の入り口である。もしこの袋が収納袋ならうっかり袋の口にスキルを使ってしまうと亜空間が重なって大惨事になりかねない。


 僕は袋の口を避けながら収納スキルの銀の円盤を慎重に当ててみた。

 一つの袋は何の反応もないが、もう一方の袋に円盤を当てると弾かれてしまった。

 どうやらは呪いのアイテムらしい。もう一方は呪いのアイテムではないが魔法のアイテムかどうか判らない。

 弾かれなかった呪いのアイテムでは無い方の袋の中身を確認しよう。僕は袋の口を開いて手を入れる。

 袋の口は思いの外大きく開くことができるようだ。


 !!


 手がするすると入って行く!これは収納袋だ!僕は思わず飛び上がって喜んだ。

 袋の容量によって、大きく重かったキマイラの皮を全て収納袋に入れることが出来る。


 それだけでは無い。


 切り落とした扉の破片や加工の際の金属も収納袋に入れることが出来るだろう。

 今はありあわせの武器を作れば良く、本格的な加工は専門家に任せた方が良いだろう。


 僕は最初にキマイラの皮を収納袋に入れる。収納袋の容量に余裕はかなり大きい様だ。

 続いて入れた扉や扉のインゴットも問題なく入る。

 僕は収納袋にほぼ全てのアイテムを入れ、袋を首からぶら下げる事にする。

 こうすれば袋を取られる可能性は低いだろう。


 そして銀のトレイ、これも魔道具だった。トレイにスキルを使って判定したわけではない。袋と同じように呪いの品物でない事を確認したがそれだけである。

 銀のトレイの効果が判ったのは、僕が収納袋に入れるためにスキルで汚れを弾いていた時だった。

 一枚々丁寧にトレイの汚れを取り去り床に置いた。


 「そういえばお腹がすいたし喉も乾いたな……。」


 そう言った瞬間、銀のトレイが輝きトレイの上に豪華な食べ物が出現したのである。同じように並べていた銀のコップの一つには飲み物がなみなみと注がれている。

 そして、えも言われぬ様ないい匂いが漂ってきた次の瞬間、食べ物に手を伸ばし貪り食っていた。

 今を思えば迂闊なことだと思うが、やはり極度の空腹状態だったのだろう。それまでは緊張状態だったため空腹を忘れていただけなのだ。

 

 すべての食べ物を食べ、飲み物を飲み、人心地つくとトレイとカップ以外の食器は消えてしまった。

 今後の為に多少は残しておくべきだったかもしれないが空腹のあまりその考えが浮かばなかった。

 それに食器が消えたところから考えると残すことはできないのかもしれない。とりあえず、トレイとカップの汚れを落とし収納袋に入れる。

 入れる前にトレイを床に置いてみたが何も起こらなかった。魔道具であることは変わりない為、何かの条件があるのだろう。

 

 僕は宝箱のある宝物庫と思える場所で仮眠をとる事にした。

 扉の穴も人しか通れない大きさだし開いていても問題はないだろう。この場所なら魔物もやってこないように思えた。

おまけ、宝箱の中にあった物


マジックエンハンスブック:魔法を幾つか習得できる上、魔力にボーナスが付く魔法の品

マジックスクロール:おなじみのファイアーボールやアイスストーム、あと地上脱出用のスクロール。

収納袋:いわゆる収納袋。容量は家一軒分以上。内部の時間は停止している。生きている大きな生物は入らない(死骸は入る)が小さな生物ウサギぐらいは入る。

呪いの収納袋:収納袋と同じだが、入れた物はランダムで別の亜空間に送られる。一応、収納袋としても使えるので質の悪い品物だと言える。

銀のトレイ:マジックテーブルウェア、一人当たり一日最大三回、空腹の者が合言葉を言うことで食事を提供する。提供される食事は季節、時間、空腹な物の状態によって様々であるが、最も好ましものが出現する。時と場合によっては焼き魚定食や納豆定食も出る事もある。

銀のコップ:マックゴブレット。銀のトレイと同じでのどが渇いた者が合言葉を言うと飲み物がなみなみと注がれる。使用制限は一人当たり一日24回。一時間に一回飲み物が飲める。


宝箱の罠は爆発エクスプロジョンの罠。したがって燃えやすい紙類は焼失した。収納袋も直接爆発に巻き込まれれば焼失した可能性が大きい。


なお、主人公は気が付いていないが、この中で一番価値のあるアイテムは銀のトレイ。その次が銀のコップ。

どちらも魔道具ではなく、秘宝アーティファクトです。トレイ一つで子爵になれる価値があります。


本日は2時ごろにも投稿予定です。

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