異世界召喚(集団)
突然だが、僕、田辺 総司は強制的に異世界に召喚されたあげく迷宮送りになった。
先ずは事の起こりについて話そう。
その日、僕はめずらしく朝早くに登校していた。と言うのも日直の仕事があるからだ。僕が学校の門をくぐった時、足元に魔法陣が現れた。
この魔法陣という物はかなり大きく同じように登校していた何人もの生徒が魔法陣の上にいる(後で数えたら三十人ぐらいいた)。更に質の悪いことに魔法陣が足をぴったりと吸い付けたように動かせなくなってしまった。
これでは逃げようとしても逃げることはできない。どうにかして逃げようとしていた次の瞬間、見覚えのない場所に来ていたのだ。
どうやら僕たちは大きな石造りの部屋の中に召喚されたようだ。
僕たちがいるのは部屋のちょうど真ん中で足元には先ほど見た魔法陣が描かれていた。そして魔法陣の周りを剣や槍で武装し鎧をつけた者たちが何人も僕たちを取り囲むように立っている。
どうやらこちらを警戒している様だ。中には金銀宝石をあしらった豪華な衣装を身にまとった男や煌びやかなドレスをまとった女性たちがいた。かれらは頭に冠を被っているところを見ると王様とか何とか言うえらい人なのだろう。
その中の豪華な衣装の男がこちらを見て声を発した。
「よく参られた!異界の勇者たちよ!」
”勇者“
その言葉によって僕と同時に召喚された者たちがざわめきだす。
「勇者だって!」
「やった!これは異世界召喚だ!」
「と言う事は剣と魔法の世界?」
「召喚だからな。魔法があるのは確定だ。」
「何々、異世界召喚?なら俺たちすげー能力を持っているってことか?」
「おー、それな!」
以外にも異世界召喚に関しての知識あるようだ。
面倒くさがりな僕でさえこの時。チートな特典があるものだと思っては少しワクワクしていた。
「ふむ。話が早くて助かるのである。私はアッカ・N・ヨブ四世この国の王である。勇者たちよ!迫る邪悪な魔族の手から貧しい我がヨブ王国を救ってくれたまえ!」
「わたくしは王女のアッキマ・H・エン・ヨブ。わたくしからもお願いします。」
「「「「美人王女キター!これで勝つる!」」」」
その二人の話を聞いて何人かの人は奇声を上げている。どうやらほとんどの人間が何やらやる気になっているように見えた。こう言う僕も奇声を上げていた一人だ。
今となってはとても後悔している。
よく考えてみれば貧しいと言っていたけど、国王とか王妃、王女は着飾っているし、王女なんかペットの子犬を連れてきていた。
どう考えても、”あかん方の異世界召喚”なのだが王女(美人)の登場で判断力が低下していた様に思える。
「うむ。……宰相、この後はどうするのじゃ?」
「勇者の方々は鑑定の水晶で能力を調べていただきます。」
「左様か……では鑑定の水晶をここに!」
僕たちの前に騎士たちがえっちらおっちら複雑にカットされた水晶を運んでくる。鑑定の水晶の大きさは人一人が抱えるには大きいぐらいのもので重さもかなりの重い様だ。
「よし!まず俺が使ってみるぜ!」
がっしりとした体格のイケメンが水晶に触れようとしていた。たしか野球部のキャプテンで名前は”霧笛 闘人”だったと思う。その霧笛キャプテンが水晶に触れると水晶に光が渦巻き何やら文字が大きく水晶の上の空間に浮かび上がってくる。
「男魂、棒術Lv7、走術Lv10、投擲術Lv8、捕球術Lv8、弾道予測Lv8、逆境Lv10」
野球部らしいスキルが並んでいる。ただ、よく判らない名前のスキルやレベルの無いスキルも表示されている。あれはなんだろうか?最後のスキルはよくわからないが逆境ってスキルなのか?
水晶の横に立つ書記官らしい人物がスキルとレベルを手に持つ分厚い紙に記入していく。レベルといえばこの数値は高いのだろうか?
「スキルは通常でLv3、最大でLv5。ですが異世界召喚された勇者殿はそれ以上かと……。」
宰相と言われた男がスキルを解説してくれた。
この世界の住人のスキルは最大Lv5。異世界召喚された者はそれ以上の値になるらしい。Lv5の人からするとLv10は驚異的な高さなのだろう。
「それとレベルの無いスキルはユニークスキルというもので、特別な力を持っています。ユニークスキルはこの国の者でも持っているものがいますが数は少ないスキルです。逆にこのスキルは異か、いえ、勇者様方のほとんどの方が1つは所有しているスキルです。」
ユニークスキルと聞いて皆がおぉーッとどよめく。
キャプテンの次に鑑定を行ったのは剣道部部長。外国からの留学生で”エルロード・リチャードソン”通称”エル部長”、そのエル部長が持っていたユニークスキルは”嵐を齎す剣”。試しに部長が使ってみると黒い剣が部長の手の中に出現した。あの黒い剣は見るからにヤバそうな臭いがする。近寄らないでおこう。
我先に鑑定の水晶に集まる。
剣術や弓術、格闘術の高レベル者が続出した。剣道部、弓道部、柔道部などの運動系の部活は朝練があるからかなりの人数が異世界召喚されたのだろう。
逆に文化系のほとんどには朝練が無い。その為、文化系の人間が巻き込まれているのは皆無と言っていい。
残念ながら帰宅部である僕に体育会系の彼らを押し分けるほどの力はない。彼らの後ろでおとなしく待つ。
その後も水晶を使っての鑑定が進められる。鑑定の対象が体育会系の連中だからだろうか?スキルが判明する度に大勢が歓声を上げるのだから実に騒がしい。
水晶に浮かび上がる鑑定結果を見ていると宰相の言葉通り一人に一つはユニークスキルを持っているみたいだ。
中には第七感とか波動氣闘法とかワンマンアーミーとか中二心を揺さぶられるスキルを得ていた。
(あくまで揺さぶられるだけだ。うらやましくなんて無いやい。)
そうこうしている間に僕の番になった。
「よし次の者……?今度は……体が出来ていないな……子供か?」
「一応、彼らと同い年か1,2歳しか変わらないのですけど……。」
「ふむ?だとしたら他の者に比べ鍛え方が足りないな、(これは期待薄か……。)」
帰宅部である僕を日ごろから鍛えている体育会系と比べるのも無理があるというものである。少し生暖かい目で僕を見る書記官の横で気合を入れながら水晶に触れた。
(こい!こい!こい!こい!こい!こい!こい!こい!)
異世界転移は与えられたスキルで決まると言っても過言ではない。良い表示が出るようにと思わず気合が入る。(気合を入れなくても結果は変わらない事は考慮しない。)
「収納、算術Lv6、化学Lv4、物理Lv4、語学Lv3、製作Lv2、料理Lv2、掃除Lv1」
浮き上がる文字を見た連中の話し声がぴたりと止まる。先までの喧騒がうその様だ。
「「「「「「「「「「収納だっ!!!!!」」」」」」」」」」
宰相はおろか国王、王妃、王女、宰相、そして騎士団の人たちの声が同時に響きわたる。
どうやら”収納”のスキルは驚くほどのスキルらしい。
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