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#3 人族・魔族

あれから、1時間が経った。


僕は今、艦内の診療室にいる。目の前には、あの女騎士がベッドに横たわっている。


「……ううーん……」


ようやくその人物は、目を覚ます。しばらく辺りを見回していたが、僕の姿を見つけるとガバッと起き上がり、背中に手を伸ばす。が、鎧も剣もないことに気づく。


「悪いが、武装は全て没収させていただいた。」


僕は、その女騎士に告げる。するとそいつは、僕に向かって叫ぶ。


「くそっ!殺せっ!」


いきなり物騒なことを言い出すこの女騎士。だが僕は応える。


「そうはいかない。我々は、不要な殺生などしない。」

「生きて魔族から辱めを受けるなど、我が身の恥!いっそ、この場にて殺せ!」

「だから!我々は魔族などではない!どう見ても人だ、何を言っているんだ!」

「何を言うか!どこからどう見ても魔族だろうが!そっちこそ、何を言い出すか!」

「だ・か・ら!どこをどう見たら僕が魔族なんだ!人の話を聞け!」

「人ではない、魔族だろう!」


ダメだ。まるで話が噛み合わない。どうしてこいつは、僕やエリク少尉のことを「魔族」と決めてかかるのか。

と、その騒ぎの中、ザッと音を立ててカーテンが開く。現れたのは、女医のクレール先生だ。


「ちょっと!あなた達、何騒いでるのよ!ここをどこだと思ってるの!うるさいわよ、静かにしなさい!」


診療室で大声をあげる僕と女騎士に向かって、不機嫌そうに注意する。


「あ……クレール先生、失礼しました。」


僕は立ち上がり、敬礼しながら応える。


「はぁ……にしても、アルフォンス中尉が大声をあげるなんて珍しいわね。何があったの?」

「はい、彼女が私のことを魔族だなどと決めつけて譲らないものですから……」

「魔族?中尉が?」

「はい。」

「あははははっ!ちゅ、中尉が、このヌートリアの毛が抜けたような顔をした、この人畜無害そうなアルフォンス中尉に向かって、魔族だなんて……」


腹を抱えて笑い出すクレール先生。おそらくはこれでもフォローしているつもりなのだろうが、何という例えだ。ちょっと僕はムッとする。

ところがこの女騎士は突然、妙なことを口走る。


「おい!どうしてここに、人族がいる!?」


それを聞いたクレール先生は、女騎士に尋ねる。


「ねえ、ちょっと、まさか人族って、私のこと?」

「そうだ。他に誰がいる。」

「私が人族ねぇ……どう見たって、私の方がこっちの中尉よりも悪魔に近いわよ?」

「何を言っている、誰がどう見ても、お前は人族であろう。」


この女騎士は、よりにもよって男を手玉に取ることで有名なクレール先生のことを人族だといい、僕を魔族だと断定する。それを聞いた僕は少し、冷静になって考えてみた。

どうも、さっきから話が噛み合わない。だが、もしかすると……

と、ちょうどそこに、主計科所属の女性士官のリゼット准尉と、男性士官のフェリクス少尉が現れた。


「あの、クレール先生。頼まれていた医療品一式、ここに置いておきますね。」

「ああ、ご苦労様。悪いわね、この非常時に。」

「いえ、どんな状況だろうと、我々は自身の任務をこなすだけですから。」


ちなみにこの2人は、仲がいい。同じ主計科と言うこともあるが、いつも一緒に行動している。哨戒艦11番艦の皆が公認済みのカップルだ。

その2人を見た僕は、ふとその女騎士に尋ねる。


「ちょっと尋ねたいのだが、こっちの人物は、人族か、魔族か?」


そう言って僕は、リゼット准尉を指差す。


「ああ、人族だな。」

「では、その隣は?」

「魔族ではないか。見れば分かるだろう、何を言っている?」


ああやはりそうか。ようやくここで僕は、全てを納得する。僕はその女騎士に向かって尋ねる。


「あの、今一つ尋ねたいのだが、あなた方には男と女という概念はないのか?」

「男?女?なんだそれは!」

「いや、先ほどからあなたが魔族と呼んでいるのが男で、人族と呼んでいるのが女と、我々は呼んでいるのだが。」

「はあ!?なんだその呼び名は、聞いたことがないぞ!」


彼女の会話から察っするに、つまり彼女は、男のことを魔族と呼んでいる。女だけが、人なのだ。しかし、それはそれで疑問が湧く。


「では、さらにもうひとつ聞きたいのだが、人族と魔族というのは、共に暮らす存在ではないのか?」

「さっきからしつこいな!そんなわけがないだろう!我がパレアレス王国において魔族と共に暮らすなどありえない!」

「ちょ、ちょっと待て!じゃああなた方は一体、どうやって子孫を残しているの!?」

「はぁ?何を言っている。」

「何をって……だって、男女が別々に暮らしてたら、子供なんてできないだろう。それが世の摂理というものだ。」

「そんなことはない!我々はある年齢以上に達し、寺院で3日間祈りを捧げれば、自然と子供を授かる!」

「はぁ?なんだそりゃ!?」

「何かおかしなことを言ったか!?」

「そ、それじゃあまさか、その魔族もそうなのか!?」

「いや、魔族は子供など作れぬ!だから、人族を襲い連れ帰ったのち、子供を孕ませるのだ!なんというおぞましい種族か……」


恐るべき事実が判明する。少なくとも彼女のいる国では、女は男など必要とせず、子供を授かることができる。

一方で、魔族と呼ばれている男は、どうやら子孫を残すために人族、つまり女を連れ去って、無理やり子供を作らせているようだ。

この女騎士の語る「魔族」の行いは、確かに野蛮だ。およそ人間のやることではない。だが一方で、この星の「人族」は生物学的におかしい。


「……どうなっているんだ、ここは。どっちもおかしいぞ……」

「何を言うか!おかしいのは魔族どもだ!我々人族を、子供を産むための道具にしか考えておらぬ!それゆえに我らは、魔族を滅ぼすために日々、戦っているのだ!」


少し、この世界の社会構造が見えてきた。要するにここは、男と女が分離された世界のようだ。だが一体どうして、こうなった?


「あの、アルフォンス中尉殿。大丈夫ですか?」


頭を抱えている僕に、心配そうに尋ねるのは、魔族……じゃない、フェリクス少尉だ。


「ああ、少尉……あまり大丈夫ではない。」

「一体、何があったのです?それにこの人は、誰なんですか?」

「そうですよ、中尉殿。さっきから魔族だの人族だのと、何の話をしているんです?」


リゼット准尉も心配そうに尋ねる。そのやりとりを見ていた女騎士が、逆にリゼット准尉に聞き返す。


「お前は、人族であろう。」

「えっ!?ええ、そうですけど……」

「なぜ人族が、魔族とともにいる!」

「へ?魔族?誰のことですか?」

「お前の横にいるではないか!それに今、そなたが話しかけているそいつも魔族であろう!」

「いえ、この方はアルフォンス中尉で、私の横にいるのはフェリクス少尉ですよ。」

「なぜお前は人族でありながら、魔族に軽々しく話しかけるのか!?」

「ええーっ!?そ、そんなこと言われても……」


いきなりこの星の価値観を押し付けられて混乱するリゼット准尉。初対面の女に、恋人を悪魔呼ばわりされたのだ。混乱して当然だろう。


ともかく、この一件だけでも、この星が異常なことが分かった。

が、我々はまだ知らない。

この星の非常識さは、これだけではないということを。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クレール先生、軍医だから頭が上がらないのかと思ったら、まじで魔性の女なのね((( ;゜Д゜))) [気になる点] 私だったら、「くそっ、殺せっ!」に「生くっころ、キター!」と歓喜して余計に…
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