46.LV99vsLV99
信じられない…。
気が狂いそうだ。
私はギリギリと奥歯を噛み締めた。
ー理想の女性?
ーー彼女と共に楽しく暮らしたい?
…ふざけるな。
ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!…ふざけるな!
そんなことの為に私はこの数日間は不眠不休で…。
毎日毎日、上層部に問題解決が出来ないことに怒鳴られ何もしていない連中に頭を下げ…。
私も時には救出チームメンバーに辛くあたり…。
その救出メンバーや関係各者が私と同じく苦労してこの子の為に一生懸命、この子を助ける。ただそれだけを報いだと信じ努力して…。
それでもマスコミやSNSに私達は無能、人殺しと叩かれ…。
御両親は涙し、この子をどうにか助けて下さいと私達に懇願し毎日毎日私に頭を下げて…。
そのプレッシャーに精神を擦り減らして…。
何も出来ない自分の無力さに絶望して…。
毎日眠れず…毎日泣いて…毎日吐いて…。
それが、この子のそんなくだらない唯のわがままで起きていた事だったなんて…。
「はは、くだらない…。」
私はくしゃくしゃの顔で泣いていた。
私は彼の話を聞いて全てが馬鹿馬鹿しくなってしまった。
どうでもいい。
…さっさと終わらせよう。
モコ(LV99):『魔法』⇒『爆熱魔法(極大)』
私はそのバグの元凶を滅する為、問題の駆除を即断即決した。
後ろで彼がナニカ喚いていたが黙殺した。
消えろ。
死ね。
所詮この断絶された仮想世界で生きるNPCなど全部まやかしなのだから。
私の掌から発動した超高熱の最上級位階の爆熱魔法は真っ直ぐに観客席にて具現化した。
この場にいる全てのNPCは即時蒸発して死滅するであろう術式が展開された。
最初の輝きが瞬く瞬間
目標のNPCの横にいたウイバ…いや、ネロ?だったか?が足を組みイヤホンを耳に当て不敵な笑みを称えて私を見下ろしているのが見えた。
カッ
音が爆発し何も聞こえない
熱が爆ぜて光が視界の何もかもを呑み込んだ。
「あ、あああああああああああああああ…」
しばらくして聞こえたきた音は彼の呻き声だった。
まだ朦々(もうもう)と爆発で熱せられた蒸気が大気中に立ち込め視界はまるで無いがこの状態で着弾地点にいるNPCが生きているとは思えない。
「「!?」」
気付いたのは同時だった。
いや私の方が若干遅い。
気が付いたのは出しっぱなしで宙に浮いていた
彼のコンソールウィンドウ。
未だ選択不可のままのログアウトの文字色。
ライト(LV99):「聖剣(雷)」⇒「使う」
抜刀した瞬間。光。刹那、雷音。
感知、感応、反応、反射
「パリイ!」
私はその光を薙ぎ払った。
パリパリと紫電が私の払った右腕に纏わり付くも
受け流された雷撃は受け流された観客席へと吸い込まれて観客達に直撃する直前で爆ぜるように掻き消えた。
その爆ぜた雷撃がバリバリと音を立てドーム上に広がる結界のような不可視のバリアーの存在を私に視認させた。
『「古代遺産による結界だよ。モコさん。そこのライトくんが1回戦で上級結界を破壊してくれちゃってね。父上に進言してオーバースペックかも知れないが宝物庫から完全防御結界を引っ張り出して今は張らしてもらっている。…やれやれ、危なく死ぬところだったよ」』
第6王子ネロが放送席のマイクを使い状況を説明した。
爆熱による蒸気もすでに晴れ、観客席への被害が全く無い事、無事な姉御の姿の確認が出来た。
「モコ。…そして今のパリイ。
…パリィジェンヌのモコ?」
…馬鹿な。聖剣(雷)のアイテム効果だぞ?
パリイ判定なんてあるのかよ?…滅茶苦茶だ。
…つまり、本物だ。
伝説の近接職人パリィジェンヌのモコ。
かつて、『穴沢』において最強ランキング近接部門1位を3年連続で受賞し殿堂入りを果たし伝説となったプレイヤーがいた。
そのプレイヤーは近接戦闘に特化した『壁役』でどんな攻撃でもその全てを。
成功確率の低い技術である『パリイ』で弾くという。
そのプレイヤーは『パリィジェンヌのモコ』という二つ名を持っていた。
殿堂入りした1年前から『穴沢』から姿を消した筈だったのだが。こんなところで、こんな姿で現れるなんて。
『穴沢』だと女戦士然としたアバターだったから全然わからなかった。
…世界ランカー級かよ。
…勝ち筋は…見えない。
「頼人くん。もう足掻くのは辞めて。帰りましょう。」
パリィジェンヌのモコはアイテムボックスからその小さなカラダに見合わぬ大槌を取り出し装備してオレに向かって声を張り上げた。
「…嫌です。足掻きます。僕はココに残ります。
…お引き取りを」
オレは聖剣をモコに向け構えた。
それを見たモコは何かを思い出したかの様にプッと笑い心底飽きれた顔をして言った。
「…じゃあ殺して帰るから。
貴方が私に勝てると思っているの?
『ラグ使いのライト』!」