26.ダンジョン攻略
「はーい次の方ぁギルドカードの御提示おねがいしまっす!」
ボーイッシュで元気なお姉さんがひらひらほらほらと手をふりふりしてカードを見せてと催促している。
我々スプリントパーティは王都アバンティアから一番近いダンジョンにやって来ていた。
王都から見てアジトと真逆の北。壁の様にそびえ立つ険しい山。その中腹辺りの大きな洞穴がダンジョン入り口になっていた。
入り口周辺は冒険者村になっており宿屋やダンジョンに挑む為の必要品が買える店が数店立ち並んでいる。
入り口に一番近い場所は関所のような冒険者ギルドの出張所があり、ダンジョン内に入るにはココでの受付が必要となっている。
「はいはーい、3人パーティっすねー。カードお返ししまっす!でわでわ、お気をつけて〜!!」
「どーもー!」
ダンジョンに入るには冒険者カードが必要でこれさえあれば基本どこの国のダンジョンでも入場可能となっている。
我々はサクサクとダンジョン内に踏み込んでいった。
「ダンジョンって結局、魔王に関係するんすよ。ダンジョンマスター=魔王って図式で。」
…まあ、これは多分今回の穴沢2でもそうだと思う。
無印穴沢の世界観を2も踏襲していればだが。
まあ、基本王道RPGなのでコレはよっぽど変えてこないと思う。
「で、今日はダンジョン攻略、つまりここのダンジョンの魔王を倒そうと思います。」
「「ふぁっ!?」」
ナニ言ってんだコイツ?って顔してんな2人とも。
「あのぅ、ちょっと質問していいですか?」
どーぞと促すとエアルは話し始めた。
「魔王って強くないですか?私LV3ですけど倒せますか?ちなみにプリンちゃんはLV2だそうですが。」
「無理ですね。秒で死にます。…今の2人では。」
「…ですよね。らいとくんはLV99だそうですが。倒せるものなんでしょうか?魔王?」
「…ソロで勝つのは多分回復に追われて厳しいです。」
「え?じゃあ、どーすんだよ?」
姉御は聞いていて腑に落ちない顔をしていた。
「まあ、任せて下さい!今日中にこのメンバーで魔王を倒してみせますから!まあ、まずは2人が簡単に死なないようにレベルをサクっと上げましょう!」
それからはかなり地味作業が続いたので端折るがオレの引率で一気にダンジョン中層まで行き聖剣(雷)効果でHP1桁スタンのモンスターのトドメを2人が刺すというLV上げ作業をひたすら繰り返していた。
「うにょぉをぉおお、アバンティアストラーーシュッ!!!」
ポコ
『オーク(豚)に1のダメージをあたえた』
『オーク(豚)は目を覚ました』
プギ、プギィィィィィィイイいいいぃぃいいい!!!
「ぎゃぁあああああああああああ!!!らいとくんっはよ!はよお!犯されるっ!オーくっコロ!マヂ!
無理!デカイ!丸太ん棒やん!あんなん!頼むて!
はよ!ぎにぃあぁああぁぁぁあああ!!!』
ライト(LV99):「聖剣(雷)」⇒「使う」
抜刀した瞬間。光。刹那、雷音。
逃走途中コケたエアルの足を掴む寸手のところで雷撃が豚を貫きまたも豚はその場で沈黙した。
「ぜぇぜぇはぁーはぁー、ら、らいとくんっ!い、今ワザとちょっとギリギリまで助けなかったような…?あ、いえ、そんな、う、疑って無いんですけどぉぉ」
エアルはニヤニヤしているオレの前まで来て涙目でぜぇはぁ言いながら文句垂れている。
「…ライトちょっといいか?」
姉御は黙々と倒れているオークの群れにトドメを刺したのち、オレに聞いてきた。
「さすがに今日の今日魔王は厳しいんじゃねーか?LVは結構…というか信じられん程上がったが。」
ちなみに現在、LV20〜30のレベル域モンスターが出現するダンジョン中層域で半日ほどLV上げ作業を繰り返し姉御とエアルはそろそろLV20を超えるまで上がっていた。ただ2人共、脆弱な初期装備な為、当たり判定が悪いとカスみたいなダメージが発生し先程のような事故が稀に起こっていた。
「そうですね。じゃあそろそろ魔王のトコ行きますか!」
「「?!」」
「ちょ!えっ?は?」
「はっ?ふっ?ほっ?」
「ちょ待て待て待て待て待ってって!」
オレがスタスタと下層へ繋がる階段を降りようとしたトコロで姉御がオレを引っ張って物理的に止めた。
「なんすか?」
「なんすか?じゃねーよ!さっきから簡単に言ってる魔王を倒すとかがまったくわからないんだが?馬車強盗の変わりの『シノギ』が冒険者で稼ぐってのはわかるが魔王?魔王ってそんなん伝説の勇者とかがやるヤツじゃん!そもそも盗賊団の仕事じゃねーじゃん!てかソレ盗賊団なのに世界救ってんじゃーん!」
「え?あれ?」
「だいたいココにいっぱい落ちてる大量のオーク肉売ったほうが馬車強盗の時より稼げるんだが?…ちょっと拾ってっていいか?」
「え?」
「とにかく説明してくれ!何故に魔王を倒すのか?」
「・・・」
「・・・」
「…えー、えーっと、そ、そこに魔王がいるから?」
「「・・・」」
うっ、2人ともすげぇ残念なモノを見る目なんだが!?
…もしかしてオレ、オレ、ズレてんのか?
…もしかしてお金稼ぐ=魔王倒すって普通じゃないのか?
つい廃ゲーマーの悲しい性質で当然のように何もかも効率よく稼ぐ方法を自然とやっちまってた!2人を、姉御を置いてけぼりで!そんなん姉御に求められてもないのに!
チマチマ雑魚モンスター狩ってるより楽に最短でドカンと身入りの良い報酬を得ようと…
盗賊道を愛する姉御の意に反して、魔王を倒すだなんて…馬鹿な過ちを…。
でも、ココまで勘違いして引っ張ってきてドヤって姉御にLV上げなんて面倒くさいことまでさせて今更、なんて言ったら良い?…どうしよう?でも、誤魔化したりまたウソをつくなんてこと…姉御にはもう出来ない…。うーん。ここは素直に…
「…魔王討伐の報酬って5億スターコインでしたっけ?」
エアルがぽつっと魔王を倒した時の報酬を零した。
「は?…ご、ご、ごおく!?」
姉御の顔がおかしいことになった。…だがかわゆす。
「確か世界の主要各国が各ダンジョンの魔王討伐に懸賞金を掛けていたと思います。ウチ、あ、アバンティア王国もその懸賞金に国家予算を割いてますし。なんか各ダンジョンの魔界の扉がどーたらこーたら世界の危機がうんちゃら言って。」
「…ら、ライト!いや、ライトくん!いや、ライトさん!5億スターコインって馬車強盗で言ったらどのくらいだ?」
「はあ、馬車強盗で、ですか?まあ、一日中やって絶好調の日で2万くらいだったんで……えーっと5億だと、まあざっと2万5千日だからぁ……70年くらいすかね毎日休まず馬車強盗して稼ぐと。」
「…70年。…生涯年収超えてんじゃん。…ソレヲ1日デ…?」
姉御はポケットからゴソゴソ手紙を取り出しそれを見ながら深いため息を吐き出し何か怖い顔して何かブツブツ言いはじめた。
えっ?姉御のそんな顔はじめて見た!?
コレ、怒ってる?もしかして?
…や、やばい!とりあえず土下座だ!
「姉御ぉ!すいません!オレが間違ってました!盗賊道舐めてました!…魔王討伐なんて盗賊道に反してます!もうやめますから!そ、そうだ!帰って村とか襲いましょう!オレ!ココロを入れ替えて種もみとか持ったジジイとか襲います!明日より今日なんじゃあって!…だから、だから、許して下さい!見捨てないで下さい!調子に乗ってすいませんでしたぁ!!」
…ゴオ…アレバ……ルド……シャ…キ…カ…セル…
「へ?」
「…ろう。」
「え?」
「…魔王、やろう。…いや、魔王、殺ろう!」
…スプリントパーティは魔王を殺ることになった。