25.魂のルフラン
「はいぃ⤵︎、あなたも御新規様ぁ⤴︎ですねぇ⤵︎。こちらのぉ⤵︎プレートにぃ⤴︎手のひらをぉ⤵︎お願いしますぅ⤵︎。」
喋り方のクセが強ぇ⤴︎ギルド受付嬢からオレやエアルの時と同じく手慣れた手順で差し出された手型プレートに姉御らしき髭オヤジは右手を載せていた。
「スプリントさん?⤴︎でぇ→宜かったですかぁ?⤴︎」
「お、おう!そうだ。」
いつものエンジェルボイスを
頑張ってガラついた声に変えて答えていた。
「はいぃ⤵︎皆さん⤵︎受付完了致しましたぁ⤴︎カードをお渡ししますぅ⤴︎冒険者についてのぉ⤵︎御説明はぁ⤴︎必要でしょうかぁ?⤴︎」
「…いえ、大丈夫です。」
「ではぁ⤵︎そちらのクエストのぉ⤵︎受付もぉ⤴︎併せて行いましたのでぇ⤵︎依頼のクリアぁ⤴︎頑張ってくださいぃ!⤴︎」
「…ども」
言葉数も少なめに我々は受付をあとにして
そのまま冒険者ギルドを速やかに脱出した。
…さっきから震えが止まらない。
ギルドの受付の話など、うわの空だった。
…変な想像をして。
…その可能性があったかと…。
姉御から断片的に聞いた固有スキル。
見ればわかるように『変身』するスキルのようだ。
…あのデフォルト髭オヤジに…。
俺は考えていた。
俺だけが知っている事実と照らし合わせて。
…逆なんじゃあないか?と…。
…実は姉御の姿がユニークスキルで化けていた姿で
実はこの髭オヤジのほうが『本体』だったとしたら?
…俺は今までこのオヤジに惚れて色々浮かれた行動をしていたのではないか?と
…ずっと、オッサンずLOVEだったのでわ?…と。
うw aあああああぁぁあぁぁああAあああぁああああぁぁああぁあぁああAああぁぁぁああっぁあぁあっぁぁぁああAaあああああああぁっぁあああっぁああああAああああああぁAぁぁっぁぁぁっぁぁっっぁぁっぁAっぁあああああああああaaaaaa・・・
「…死のう。」
オレは今までの姉御とのふれあいを
脳内でこの髭オヤジに置き換えて想像していた。
● 豚になって森で強姦しそうになったこと
⇒ 木々を掻き分けおれは髭オヤジをなるべく柔らかそうな草の生い茂る場所に放り投げるとガチャガチャと自分の装備を外し始めたところで「あっ」ってなった。出来んわっと。
● 一緒に馬車強盗したこと
⇒ もう、いろんなパターンでオレを呼ぶ髭オヤジが欲しくてワザと間違えたり、ふざけたり、上手いことやったりして、あーーもー楽しいなー盗賊稼業。
●慈しみながら顔に触れ、互いのピアスを交換したこと
⇒ オレは髭オヤジの頬を両手で包むように触れ、慈いつくしむ様に優しく撫でた。髭オヤジは一瞬びくりとしたがライトの好きなようにさせた。
オレはそのまま髭オヤジの耳たぶに触れ、ピアスを交換した。髭オヤジの赤みがかった髭によく似合う小さな赤い宝石が付いたピアスに。
●そしてキスしてくれそうになったことを振り返り…
「目を瞑れ!」オレは言われるがまま即座に目を瞑った。…なんか…長いな?…ん?
なんか良い匂いが顔に近づいてきた。
えっ?
うそっ?
マジで!?
髭オヤジ?!
…それらが全てこの髭オヤジ相手だった映像と共に
走馬灯のように思い起こされ…
にぎぃやぁぁあうううわぁああああいぎぎぎぎにぃがぁああああああああああうぎぃいいいいいいううううううがぎぃぐぅいいぅうううわぁああぁあああうぐぅふぅううううっひぃぃぃいいいいにぎょぉおおおおおおおうりぃぃぃいいいいいがががあばばばばばば!!!!!
…ココロがコワレタ。
バシィッ!!
「遺影みたいに泣きながらオレの手配書抱えて持つな!」
頭に強い衝撃が走り振り返るとそこには天使がいた。
「安心しろ!オレが『本体』だ!」
そこには既に『変身』を解いたスプリントの姉御がいた。
…天使がお迎えに来たわけではなかった…。
「…信じて…いいん…スね?…ウソだったら…イマ、今…舌噛み切って死にます…。」
「おう!オレはオレだ!」
ドン!と手のひらで胸を叩いて真っ直ぐオレを見つめ
その後、姉御は安堵したように言った。
「ホント危なかったなぁ?あのユニークスキル3分しか持たないからギリギリだったぞ!」
「…すいません。この手配書見て慌てちゃって…。」
ホントはオレも違う意味で本当に安堵して
姉御に抱きついてハグしてほっぺしゅりしゅりチュッチュペロペロしたかったが、
髭オヤジが頭によぎりオレはただただその場でわんわんと号泣していた。ヨカッタ。…ホントウにヨカッタ。ウッ、ウウ…。
…だがオレが号泣している横で姉御の変身が解けたことでようやくナニが起きていたのか理解したバカ、いや、クソバカエアルはこの状況下で爆笑していた。…腹を抱えて。姉御を指差して。地面転がって。地面ダンダン叩いて。
「ナニナニ?プリンちゃん!?ナニそのスキル?超ウケるんですけどぉ?プクククww」
「ふぁっ!?だからやりたくなかったんだ!
このしょーもないクソスキルだけわ!」
姉御をバカにしたバカをとりあえずオレTUEEEで黙らせて聞いてみると姉御のスキルはあの髭オヤジにしかなれないらしく、しかも姿が変わるだけで特に強くなるわけでも無いというハズレスキルで姉御本人も使う度に周りから馬鹿にされるので極力使わなかった固有スキルだったらしい。
「あー、ゴメンゴメンw、で?
どーすんの?このクエスト?受注しちゃったけど?
…あっ!さっそく討伐しちゃう?ww。ぷひーwww」
頭ん中も草が生えてんじゃねーか?と思われるバカが懲りずに姉御を指差し笑いながら聞いてきたのでオレはLVMAXで締め上げもう二度と笑えなくしてから答えてやった。
「…このクエストの達成期限は記載されてないから、とりあえず放置で。」
オレは懐に手配書を丁寧に折り畳みしまいながら続けた
「オレ達は冒険者になったばかりのFランク冒険者だからクエストも『F』しか今は受注出来ない。それだと目的のお金も全然稼げないから、別にクエストは最初からやるつもりはない。」
それを聞いた姉御は不思議そうな顔をしていた。
「・・・」
「?それじゃあどーすんだ?ライト?」
気持ちを持ち直したオレは
ふっふっふっと笑い
ビシッっと街の外を指差し高らかに宣言した。
「ダンジョンを攻略します!」
…と。