22.みこすり半激情
田宮 頼人 (たみや らいと) 17 歳
彼が仮想世界『Another World 2』に囚われて
1週間が過ぎた。
上層部からはいつ彼は回復するのか?
問題点は何で今何をしていつどう進展するのか?
結果を出せ!何のために専門家を雇っているのか?と
毎回口説くど口説くどと無駄に何度も開かれる報告会のたびに追い込まれ総責任者の私は精神的に参ってきている。
御両親は毎日のように頼人くんに面会に来る。
立ち会っている私に涙ながらどうか頼人の意識を取り戻して下さい。助けてやって下さいと頭を深々と下げられ、まったく進展していないこの状況に返す言葉もなく申し訳無さと無力さで私自身も涙が出てくる。
今の状況だが結論から言えば
外部からのアクセスが現状出来ていない。
完全に頼人くんの意識がこの現実世界から隔絶された仮想世界へ深くダイブしてその深層へのアクセスが届かない。
おそらくだが、何かしらのシステム上のバグがこの状況を発生させているという予測は立てられているが詳細な原因・要因の断定にまでは至っていない。
現在急ピッチで様々な救出作戦が立てられている。
この仮想世界へ意識を移すという科学分野はここ10年で急速に発達した技術だ。
コンピュータと脳科学の融合が夢に似た共有仮想世界を実現させている。
私自身は脳科学の専門家で、この技術をいち早く実現させた『Another World』というゲーム名と同じ社名の企業に1年前から開発チームの一員として雇われている。
今回の事故後、私は脳科学の知見、開発業務の関わり、医療、看護の資格を有することから現在は救出チームの総責任者として専任され働いている。
もう丸1週間ずっとこの同企業傘下の電脳医療専門機関に缶詰めで家にも帰れていない。
守秘義務の為、企業と契約書を交わした人間、つまり現状私しか彼、頼人くんの看護も含めたケアが出来ないからだ。
「頼人くん、どうしたら君を助けられるんだ?」
私は溜息をつき、未だ昏睡状態の頼人くんを見つめた。
頼人くんの健康状態としては意識が戻らないという1点を除けばすこぶる健康で生命維持装置で栄養補給を行っており現在のところ身体的な衰弱の傾向はなかった。
私は看護として身体のケアも行うためこうして頼人くんの様子を適宜確認している。
のだが、
うっ、…またか。
「…しかし思春期男子ゆえの生理的反応とはいえ、元気過ぎるだろ…。ソレ。」
ソレはギンギンだった。ソレはもうギンギンだった。
頼人くんは仰向けに寝た状態であったが一部は仁王立ちであった。そっちの方はバッチリお目覚めであった。
…ゴクリッ。
いや、べ、別に変な意味じゃないぞ。
というかそもそもそこまで免疫がないのだ。私は。コレに。
看護自体、学生時代の実修経験しかないし、あまり言うのも憚られるが男性とお付き合いをしたことがないのだ私は。大学院生までの学生時代は勉強、研究に明け暮れ社会へ出ても研究、開発の日々。なんだかんだでコレといった出会いも無く、もう30歳を迎えようとしている。というか本日でとうとう30歳を迎えてしまった。ハッピーバースデイトゥミーだ。チクショウ!人間関係が希薄過ぎて誰も祝ってくれない。親から気を遣った文面の当たり障りのないメールは来たけども。
…あー、誕生日くらい家で過ごしたかったー。
…いや、それも寂しいか。ハァ。
なんか残念なバースデイだなぁと思いながら
怒髪天を突くソレをジト目で眺めながら
彼のカラダを拭く為の準備を始めた。
「…頼むから今日は暴発しないでくれよ。」
…そう、前に介護で彼のカラダを拭いた時には本当に酷い目にあった。…まったく。
その時は彼の母親もいて一緒に彼のカラダを濡れタオルで拭いていたのだが、まあその手前も有り事務的に淡々と腕やら足やらを拭いていった。
まあ、それでいよいよあの部分も。不衛生だし。
しゃーなし。やるか。と拭いた。雑に。サササっサと。
…彼にとってそれがその刺激があかんかったんでしょーなぁ。
もーうパーンですわ。……顔に。
もーう大惨事ですわ。
メガネメガネですわ。
いやかけてるっちゅーねん。
いや逆にかけられてるっちゅーねん。
もーう、お母さん慌てちゃって半泣きで平謝りされて
「ウチの息子のムスコがすいません!」とか言っちゃててもう私はどう返せばええっちゅーねん!という
もう
…ホントにアレは地獄のような気不味い状況だった。
相手は思春期真っ盛りの男子でコレは生理現象なので、しょうがないとは割り切っていても今日は今日だけは勘弁してもらいたい。
うぅ、コッチは誕生日なんだぞ!
しかも30thアニバーサリーの。
だから今日はそんなサプライズはやめてくれ。
頼むから。
ハァ、また思い出した。30歳か。
…なんか30歳過ぎても童貞だと魔法使いになるらしい。という定説を知り、くだらないと思いつつ
では、処女は?と気になって調べたらなんとエルフになるらしい。
はは、くだらない。
現実に疲れくだらない妄想でから笑いをしていると
救出チームメンバーから連絡が入った。
『駿河さん!今、頼人君のそばにいますか?大変です!すぐに応答願います!』
只事ではない緊急性を感じすぐに応答すると
『頼人君の脳波に変化がありました!先日も検知した数値に近い状態です!おそらくナニかしらの要因で頼人君の意識、感情が激しく昂り現実へ意識を近づけているようです!あの時は間に合いませんでしたが今なら彼の隔絶された仮想世界へ侵入出来る可能性が高いです!』
「アクセス出来るっていうの!?」
『ええ、ただこちらでも遠隔で侵入を試みますが少しでも可能性を上げる為、駿河さんも直接ソコにあるデバイスから侵入して下さい!』
私は急いで頼人君の装着しているヘッドセットから分岐させているデバイスを装着した。
「今、付けたました!どうすれば?」
『強制ログインします!プレイヤーアバターでは間に合わないか拒絶される可能性が高いので彼のログイン先のNPCへ意識をランダム移送します!転移先の環境に何が起こっているのか不明なのでLVだけはMAX状態の設定で送ります!』
「わかりました!お願いします!」
そう、返事をした瞬間、意識は現実から離れ
目を開けると目の前はもはや頼人君のいる病室ではなかった。
どこか中世ヨーロッパの街並みに似た世界が広がっていた。
私は転移したアバターを確認するため近くの建物の窓ガラスで自分の姿を確認して
から笑いと涙が出てきた。
「はは、くだらない…。」
…しっかりエルフだった。
ただ、何故か幼女だった。