12.新らしき世界
いやぁぁぁああああ怖い怖い怖い怖い!
なんかめっちゃニコニコしながらペン握らせてくるんですけどぉこのヒトぉ。
オレがしっかりペン握らないと
「ん?」「ナニ?」「どったの?」「書かないの?」みたいなおとぼけフェイスで、すっげぇグイグイくるんですけどぉ!近い近い近い近い!!鼻息荒い!!!もう熱っちい!!!!
…エアルがどうにか『仮入隊届』にオレの名前を書かせようと、逃すまいと、もうすんごい必死に面着密着してきてさっきからくんずほぐれずの大変な絵面になっている。
「大丈夫だから、名前だけ、ね。名前だけで大丈夫だから。あくまで受取(受付)のサインだから。」
「…あのぉ、でもコレ、『仮入隊届』って書いてあるんですけどぉ?」……
………うんわぁー、すんごい「アチャ顔」。
「え?気付いたん?マジで?うせやろ?」みたいなジェスチャー辞めろ!普通気付くわ!
「…もうね。今日までなのよ。約束の期限。あとひとりなのよ。…もうね。しのごの言わず頼むわ。」
コイツほんとに大丈夫か!?ほんとに新世界のヒロインで大丈夫なのか!?とイチ『穴沢』ファンとして心配になるほど残念なコなんだが!?あんだけ世界ageさせといてこのsageはもうあれか?コロニー落としか!?高低差コロニー落としか!?
宇宙世紀なら1年戦争勃発すんでコレ!?
「…づくな。チカ…ブツブツ…」
「ん?」
「・・・・・ぼ、ボクのだ。」
「ボクのエアルたんに近くなぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」
うわぁまーた急に
なんかキタあぁぁあああああああああああああ!!!
さっきエアルにとっ捕まった汚ったねえドMのおっさんが連行中の警ら隊を振りほどき後ろ手に手錠を括られたまま、まるで狂おしく身をよじるように急にこちらに突っ込んできた!
「ッ!?」
エアルは?ダメだ!ビックリしてアホみたいなツラして固まっとる!
お!バトルモード入った!
オレは密着して固まってるエアルを抱えると思っ切りその場でジャンプした。LV MAXで。
その瞬間
・・・おっさんはぶつかる対象物を失いそのまま顔面から地面に着地した…ようだな。もう見えんけど。
「うっひょーー!気ん持ちいーーーーー!」
バタバタと外套をはためかせる風切り音の中
オレとエアルは落下していた
…王都アバンティアの遥か遥か上空を。
「ははは見たかーお姫様ぁ!コレが最強の姫プよー!ハハハハハハハッ!!!!」
エアルは放心した顔でオレの腕の中で固まっていた。
…お姫様抱っこで。
「おお!上からだとアジト丸見えじゃん!『始まりの村』も見えるぜ!いやーコレが『穴沢2』の世界!『新しい世界』かー!!」
オレは目の前に広がる見たことのない地形の世界を見てようやく『穴沢2』をやってんだと実感しわくわくしてきた。
・・・・・・
・・不思議と空に投げ出された恐怖はなかった…。
このまま地面に激突すれば死んでしまうというのに。
目の前にいる男の子があまりにリラックスして楽しそうに笑っているので放心から覚め、王都以外の世界を知らない私は初めて空から見える景色を、世界の広さを、驚きの表情で見つめていた。
…いつの間にか男の子がずっと目深にかぶっていたフードは脱げ、キラキラした笑顔が眼下に広がる世界を見つめていた。
不思議と私も笑顔になっていた。・・
・・・・・・
しばらく自由落下を楽しんだ後、アバンティアの街、城が大きく見えてきたところで風魔法を使いフワフワと城のバルコニーに着地した。
オレは抱えたエアルをふわりと立たせるとペンを取り出し、エアルの前で『仮入隊届』にさらさらとサインしてポーっとしてるエアルに渡した。
「コレが欲しかったんでしょ?」
なんか気分が良かったので『ピアス』のお礼として
オレは『王立警ら隊』に(仮)入隊した。