1.『穴沢2』解禁!
タイトルがエロそうな雰囲気出てますが
非エロ注意です。
馬車が目的地近くの森に入ったところで
盗賊に襲われた。
「へいへいへーい!ちょ、オラぁ!
全員武器捨てて地面はいつくばれ。ひゃっはー!!」
御者だった。出発前からフードを目深にカブり
言葉数も少なかったのがいきなり豹変した。
止まった馬車の周囲には時はまさに世紀末な
雰囲気の輩が30人は取り囲んでいた。
「ひゃっはー!!ツイテねーな兄ちゃん。
おっと物騒なモンに手をかけんじゃあねーよ?
…ってをい!?」
ライト(LV1):「聖剣(雷)」⇒「使う」
抜刀した瞬間。光。刹那、雷音。
「このイベ、毎回見ないとダメなんか?
ダルいんだけど...。」
聖剣エフェクトで馬車回りの雑魚約30人が黒コゲスタンしているのを確認したオレは目の前の御者?に話しかけた。
「な、何言ってやがる!キサマよくも!」
「ふーん、会話は成立。修正も問題無し」
(…もういちど、試してみるか?)
話しは遡る
「穴沢2のベータ版デバッカーの仕事ねー。」
『Another world 』略して『穴沢』
世界的にヒットした VRMMORPGだ。
今回その続編として先日製作発表されたのが
安易だが『穴沢2』こと『Another world 2』となる。
『穴沢』自体も未だ人気が衰えずアップロードを繰り返し今年で10周年を迎えた中、10周年記念イベントでの『2』の発表は世界を騒がせた。
今や意識をヘッドセットからゲーム世界に飛ばすVRMMORPGは名作、駄作問わず数多存在するが
『穴沢』がここまでヒットしている理由を挙げるならばNPCの自然さ、人間くささに尽きるだろう。
他の作品に比べそれらのAI分野で群を抜いた完成度を誇り、VR(仮想世界)を感じさせない世界観、現実感がプレイヤーを異世界『Another world 』に埋没させる。
そして、オレ自体も古参の穴沢プレイヤーだったりする。小1の誕プレに『穴沢』を買って貰って以来、毎日ログインは当たり前。10年間の半分くらいは『Another world 』で過ごしていた。
振り返ると自分でも心配になるほどの少年時代を過ごしたものだと思うが不思議と両親からはそれほどゲームにのめり込んでも注意されなかった。放任主義の親に感謝だぜ!
まあ、おかげで『穴沢』では名の知れたプレイヤーとして運営サイドからこういったお誘いもあるわけだ。
運営から『2』製作にあたりベータ版のデバック作業を依頼したいというDMが届き、あれよコレよで夏休みを利用して現在『2』の初期イベントの繰り返しデバック作業をしているといった状況なのだ。
ゲーム廃人といって差し支えない自分にとってこんなバイト飛び付くしかないだろう。
しかも誰より早く『穴沢2』をプレイできる魅力には抗えない。
所詮バイトで時給はお世辞にも高くはないが生まれて初めて自分でお金を稼ぐことにワクワクしている自分もいる。
初バイト代で親になんか買ってあげようかなーなんて親孝行なことを思ってたりするのだがなんだかこっぱずかしいなぁなんて思ってたり...
「おい!オレを誰だと思ってる?
こんなことしてタダで済むと思ってねーだろうな?」
目の前で御者?だった盗賊頭?だったかが(こちらの狙った通りの)定型文をわめき始めた。なるほど。やっぱバグだな。コレ。
「さて、えーっと、お前が誰だかは大体知ってるよ…」
そろそろ、マジメにデバック作業しよう。
もう今日だけで80回はこのイベントの確認作業を行なっているのでもう正直言ってダレダレでこっちのモチベは極めて低いがイベント毎1000回のデバックという鬼ノルマを満たすために、いや、もう正直バイト代のためだけに頑張るしかないのである。頑張ろうオレ!
だが、もうかれこれバイトを始めて1週間。
最初は刷新されたシステムや、よりリアルを追求した環境に感動しっぱなしだったがさすがに慣れて飽きてきた。
なにより同じイベントの周回を毎日繰り返していると正直嫌になってくる。
なまじ現実感が凄いため、何度も繰り返しているとタイムリープでもしてるんじゃないか?と錯覚し精神的にくるものがある。
現実に戻ると頭痛いし。RTAするよりツライわ。マジで。
ちなみに目の前のコイツはゲーム開始直後の「始まりの村」から初めて出発する際に発生する強制イベントのNPCで戦闘チュートリアル用のザコ敵だ。
キャラ設定的には村近くを縄張りにする盗賊団のボスというどうでもいい設定。
そして先程秒殺で手下を全滅させたので盗賊団は壊滅して残るはコイツひとりという状況。
まあ、通常プレイでは手下との攻防も多少は発生するのだが、ある意味チートで端折らせてもらっている。
それが先程使った「聖剣(雷)」というアイテム使用時の効果だ。
今回のデバックでは前作で所有していたアイテムを1つだけ持ち込める権限いわゆる引き継ぎプレイというやつが付与されている。
(製品版ではどうなるかは不明)
ちなみに「聖剣(雷)」 は「穴沢」で 7本しかない「聖剣シリーズ」のうちの1振りで超激レアアイテムだ。
つまり所有しているのはオレだけだったりする。(ドヤぁ)
まあ、入手したのは単なるラッキーでしかないが所持し続ける難易度が結構高い、条件のひとつは「毎日ログイン」で1日でもログインするのを逃すとアイテムBOXから消失して他プレイヤーの争奪戦が始まってしまう。
今回のバイトでログイン出来ずに消失してしまうのでは?と思い運営に確認したところ『2』へのログインでも条件を満たせるとの確認が取れたため今回『2』への持ち込みアイテムは否応なくこの「聖剣(雷)」に決定したわけだ。
そしてここからが重要だ。つまり仕事だ。デバック案件、そう、バグの確認、報告だ。
コイツは手下を倒した後にしか戦闘できない仕様になっていて、手下が全滅した後、会話が3回成立すると戦闘開始となる。そして、戦闘に入るタイミングで目深にカブったフードを外し初めて全身が明らかになる。
今日のデバックで大きなバグだと思われる現象を発見した。
コイツの見た目は『基本的には』細身赤っ鼻でチョビ髭の下卑た「ビックリどっきりメカ」とか乗ってそうなオヤジだ。....『基本的には』。
デバック作業68回目まで、というかもうかれこれこのイベントのデバックは5日目で通算でいえば568回目までは確かに「ポチッとな」とか言いそうな同じおっさんキャラだったのだが本日の作業69回目(通算569回目)に謎現象が発生。
デバック作業ではいろんなことを試してバグを探す「バグ出し」をするわけだがこの『穴沢』、NPCとの自然な会話を売りにしているだけあってこちらの喋る内容に合わせて喋る内容やリアクションがマルチに変化する。場合によってはイベントストーリーも変化することもあったり自由度が高い。
で、本題なのだがこのNPCとの会話のチャンスは先程述べたように3回あるわけだが最初の2回をメタ要素のある発言または無視に近い発言かも知れないが、にすると「おい!オレを誰だと思ってる?こんなことしてタダで済むと思ってねーだろうな?」と必ず言う。
コレに対する回答で先程からバグが発生している。
69回目の回答、オレはこう言った…。
「お前が誰だかは知ってるよ。
....豚野郎だろ?いい加減お前の相手は飽きてんだよコッチゃあよう!もうバグなんてねーよ!もうやめたい。うぅぅ。わーん。(泣)」
…まあ、ねえ。もうホント。嫌になってたんすわ。
チョビ髭狩りの毎日に。
そしていつも通りフードを脱いで襲いかかってくるわけだが
「プギィィィィィいいいいいいい!!!!!!」
…フードを脱いで出てきたのがなぜか
オーク(豚)という現象が発生していた。
…この現象、バグかあるいはマルチイベント類いのネタイベントの一種なのか少し迷ったがバグだと判断した。その理由はオーク(豚)がこの『穴沢』ではDランクモンスター(LV20〜30域)に分類され、序盤の、ましてやチュートリアルではプレイヤーがLV1のため、絶対に倒せないモンスターである点からそう判断した。
「をいをい、LV1でオーク(豚)は無理ゲーだろ?」
RPGでLV20の差は絶望もいいところだと誰でも御理解頂けるだろう。ワンパンでオーバーキル確定。だが、オレは足掻いた。足掻かざるを得ない理由があるからだ。
「こんなことで聖剣失うわけにはいかねーっつーの!…しまったなー。完全舐めプだったわぁ。」
そう、「聖剣(雷)」の高難度所有維持条件その2は
死なない事。
RPGの世界で
死なないって相当難易度高いんですよ?
だって外歩いてるだけですぐにモンスターが殺しにやってくる世界ですよ。普通に人同士も戦争やらPVPやらそこらじゅうでしてますし。それを10年死んでないって凄くないですか?(ドヤあ)
…なんてやってる場合じゃない。(キリっ⭐︎)
おそらくここ『2』世界でも聖剣の毎日ログイン条件が生きてるように失効条件も有効だろう。
…この豚に負けると聖剣は消える。
デバッカー権限でレベリング(レベル調整)して
ログインも出来たんだけどと後悔しても先に立たず。
「プギィィィィィいいいいいいい!!!!!!」
豚野郎が物凄い勢いで突っ込んでくる。
オーク(豚):「スキル」⇒「チョ凸猛進」
スキル:チョ凸猛進、オーク(豚)の固有スキルだ。
もうその名の通りチョット凸ってくる感じがスゲェ。スキル発動の溜め時間を考慮してもLV差で先手は確実に豚くんからという状況でオレの行動選択はもうコレ一択しかないですよ「聖剣(雷)」!キミに決めた!
ライト:「聖剣(雷)」⇒「投げる」