とある一族の話。
闇夜の森。
背の高い木に一羽の影。
その影は闇夜も切り裂く鋭い翼を持ち
その影の眼は赤く揺らめいていた。
まるで獲物を狙うカラスのように
ギラギラと揺らめいている。
「モクヒョウ、カクニン。」
と呟くと影は狙撃銃のスコープを覗いた。
その一里先には、炎一族の集落
そして、窓越しに映る村長の遜炎。
クロスバーを遜炎の頭に合わし、引き金を引いた。
『ズパーーーーーーン』
風ひとつない静かな森に銃声が鳴り響いた。
すると、
『バサバサ、バァサッバサ』
『カァーァー、カァーカァー』と
木から大群のカラスが飛び立った。
「襲撃だぁー」
『ダン』
勢いよく開かれる扉
「何事だ!」
「族長、焔魔様!村長が撃たれ、空からカラスの大群が」
「何!?村長が?くそっ!カラスどもを焼き払え!!」
「炎術操炎砲起動!標的確認!」
「起動率…100%!」
「操炎砲発射!」
『シューーーン』
操炎砲は闇夜のカラスに向け横一線に撃ち放った。
『ゴオォォーォオォー!』
地面が揺るぐ木々が揺れる
「やったか!?」
「確認します。」
………
……
『ァーァーカァーカアァー』
「ダメです…黒煙の奥から次々と」
「…操炎防護壁を張れ!」
「了解!」
「防護システム展開!」
「操炎防護壁作動!」
「来るぞ!!」
『ドン ドン ドン ドンドン ドドドドドドオドドドドォドドドォ!!!!』
狂ったかのようにカラスが防護壁に突撃する。
『ドドドドドォドドドオオォドドドド!!!!』
やがて疎らだったカラスの群れが一点に集中し始めた。
『ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!』
「焔魔様このままでは、操炎防護壁が破られカラスが侵入してきます!」
「…私が出る!」
「焔魔さま!?」
「大丈夫だ!心配するな!」
「しっ!しかし!!」
「このままでは全員死ぬぞ!」
「では、私も!!」
「ダメだ!お前は烈火を守り、安全の確保を優先せよ!」
「…クッ…了解…」
「豪炎!」
「はい!?」
「……烈火を頼んだぞ」
「了解!」
豪炎は焔魔を背に部屋を後にした。
長い廊下の先に烈火の部屋はあった。
『ガチャ』
「烈火様お逃げください!!」
「何があったんだ!?」
「敵襲です!」
「なんだって!!」
「敵はカラスを操り相当の手練かと、ここは危険です!私と一緒にお逃げ下さい!」
「イヤだ!!俺も戦う!!」
「いけません!烈火様は私と一緒に逃げるのです!」
「でも……そうだ!父さんは!?」
「今必死で戦ってます!」
「だったら、俺も!!」
「駄目です!!」
「焔魔様は村人のため、そして烈火様、あなたのために戦われております!」
「…お…俺は……………」
長い沈黙の後
「烈火様!!」
「……分かった」
烈火は涙をグッとこらえ豪炎と共に、部屋を出た。
「焔魔式操炎術、双炎龍」
焔魔の両腕から炎の龍が繰り出された。
『ゴァーアァーオン』
ゴオゴオと燃盛る龍はカラスに喰らいついた
『グシャグシャ ボォーボォーオー』
焔魔の双炎龍はカラスを食らいつき焼き尽くした。
「皆、大丈夫か!!」
「へっ!これくらい余裕っすよ!」
「カラスなんぞ、炎一族も舐められたもんじゃな!」
「皆、気を抜くな!!」
と隊長が喝を入れた瞬間
『パン パン パン』
「な…何だ…と…グハッ」
「隊長!!!?」
「ス…スナイパーだ!」
「隊長がやられたぞ!!」
「狼狽えるな!操炎遮弾気を纏え、打ち抜かれるぞ!!」
炎一族は実弾を遮断するオーラ、操炎遮弾気を纏い影に対抗した。
だが・・・
『カアァーカアアァァー』
「何!」
四方から夥しいカラスの群れが炎一族の集落を取り囲んでいた。
そして、瞬く間に集落はカラスの群れに覆われた。
空はカラスの群れに遮られ、集落に闇が訪れた。
『シュン』
闇を切り裂くような鋭い一撃
「うわわぁぁぁー」…ドサッ
「何をしている!早く火を灯せ!」
『ボワッ』
「なっ!」
火を灯した兵士の前には、闇に浮かぶ黒い人影
閉じた翼を勢いよく広げ真空波を走らせた。
『キューーーン』
真空波は目の前の兵士を木端微塵に切り刻み、次々兵士を切り倒して行った。
「炎術、参天火焔砲。構え!」
「発射!!!」
『ドゴオォォォォォォォォォン ドッヴォアァァァァン!!!!』
「標的に命中しました!」
「やったか!?」
「…………」
「…何…だと!?」
黒い影は漆黒の翼に体を包ませ、炎一族の渾身の一撃を防いでいた。
そして、煙を纏った翼は煙を薙ぎ払うように開かれた。
『キィイイイイィィィン!!』
すると、黒い真空波が数百と発生し
周りにいた兵士30人を瞬時に跡形もなく消し去ったであった。
「火炎弾構え…発射!!!」
25人の兵士が焔魔の命令で一斉射撃。
『ダダダダダダダァァン!!』
「続いて、蒼炎弾構え、……発射!!」
後続の兵士15人が上級炎術を繰り出す。
『ザザザザザザザザァァァン!!!』
「操蒼炎、龍ノ陣!全員持ち場に着け!!」
焔魔を中心に40人の兵士が円形にならび、召喚呪文を唱えた。
「蒼き炎龍よ、我らの前に姿を現しこの漆黒の天空を焼き払い、黒い影を焼き消せ!」
円陣に紋章が浮かび上がり、漆黒の天空に一筋の光が差し込んだ。
次の瞬間、『ドゴオオォォオォン!!!』カラスの群れで出来た天井は焼け落ち
そこから蒼き龍が現れた。円陣に向け一直線に降りて行く。
神々しく煌く蒼炎の龍の名は、
「蒼炎龍・法燈、光臨!」
法燈の蒼炎が天空を焦がし闇が晴れていく。法燈は狙いを黒い影に定め突き進む。
一瞬黒い影の眼が赤く光った。そして片手を龍の方に突き出した。
すると龍の突進を片手一本で食い止めた。
『グゴオォオォォオォォ』法燈は喰い殺そうと喰らいつく、…が
「法燈が押されているだと!?それも片手でだと!ックこのままでは、
仕方がないあれを使うしか、呪いの禁術。紫炎術を…」
「はあああぁぁぁあぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
焔魔の呪われた右腕から紫色の炎が滲み出る。
「があぁあぁぁぁあぁあぁぁああぁあぁああぁああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっはぁっ!!!!!」
紫炎の力を法燈に流し込む。すると蒼かった炎が徐々に紫に変わっていく。
法燈は紫炎の力により火力が増していた。
黒い影はもう片方の手を突き出した。
「フンムゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
力は互角、が呪いの力は格段に火力が上がるが、体力の消耗が激しく、長期戦には向かない。
「一気に決める!!」
「うぐっぅぅぅぅぅうぅぅううぅううぅううぉぉぉおぉおおぉおあぁぁぁ!!!!」
余りにも強大な火力に焔魔の右腕は焦げ付いていた。
「この右腕が無くなろうともお前だけは倒す!!」
「はぁああぁあぁぁはっ!!!!!!」
「紫炎龍・焔魔燈衝咬!!!」
『ギャオォォオォオォン グチャグシャ…ボト…ボト、ボト…グシャン!!!!!』
紫色の法燈は影の腕を二本を食い千切った所で息絶えた。
「ガァァァァアァァアッァアアァァァ!!!!!!!」
黒い影の耳を劈くような鳴声が響き渡った。
『バサバサッバサッバサッッバサバサッバサァアァバサァア』
両腕を失った黒い影は天に舞、闇夜へと消え去って行った。
「…闇の暗殺者…鴉…一族……これほどの力だったと…は」
『バタッ!!』
「焔魔様!!!」
「ッ!!」
「どうしました!?烈火様?」
暗い森の道を立ち止まる、烈火。
「……ぅ……ぅんっぐ……と……父さ…んっぐがぁ……父…さんがぁ!!」
突然泣き出し、そのまま泣き崩れてしまった。
「烈火様!?烈火様!?」
豪炎に肩を揺さぶられる烈火。しかし烈火は
「父さんがぁ…父さんがぁぁぁああ!!」
「ま…まさか焔魔様が!??」
「うぐ…ぅっぐ…ひっ……し…ひっく…し…死んじゃったぁぁよおおぉぉお!!!」
命の灯火がひとつ消えた。あれほど燃え盛っていた命の灯火が熄えた。
『ポツ……ポツ…ポツポツ…ザアァーーーアァー』
暗い森に冷たい雨が降る。
「うわぁぁああぁぁん」
「烈火様…」
豪炎は小さく蹲る烈火を抱きしめた。
「大丈夫です。烈火様は…烈火様は私がお守りします。
烈火様の命は、焔魔様との約束は…この命に代えても、この豪炎がお守りします。」
この日を境に俺は泣く事は無かった。
あの日俺は、父さんを亡くした。
それは十年前の話だ。
今、俺は復讐の為に命を燃やしている。
豪炎と共にあのカラスを追って、父の仇を取るために、
町を転々とし、情報を掻き集めた、が何ひとつ奴等に関する情報が無い。
何一つもだ、この十年間調べ歩いたが、何ひとつ情報が無い。
炎一族がカラスに襲われたあの日ことは、
「炎一族、謎の失踪。炎一族全滅か!?」
と当時は騒がれたが半年もすれば皆そんな事は忘れ、
今となっては、「炎一族?何それ、おいしいの〜?」っといった感じだ。
炎一族は忘れられていた。まるで元々存在いなかったかのように。
父が死んで三ヶ月後、当時同盟を組んでいた雷一族の街に寄ったとき、
「炎一族の豪炎だ、雷一族族長にお会いしたい。」
「すみません。アポの無い方とは、」
「いやそんなはずは!我々は炎一族はあなた方と同盟を組み、」
「しつこいぞ!我らは雷一族は炎一族など知らんし、同盟を組んだ覚えは無い!おい!衛兵!」
「もういい、帰ろう豪炎。」
「…了解。」
「雷一族なら何か知っているかと思ったが、まさか門前払いを食らうとは」
いったいどうしてだ、どうして誰も炎一族を憶えいないのだ。
おかしい、何かおかしい。一般人が知らなくても、雷一族が我々を知らないのは、おかしい
あやしい、何かあやしい。雷一族は何か隠している。カラスとの関連性も無いとは言い切れない。
くやしい、何かくやしい。誰も炎一族知らないし。カラスに関する情報もゼロだ。
そう思っても今となっては十年近く前の出来事だった。もう炎一族など、いないに等しい。
「俺ら二人では炎一族を名乗っても誰も信用しないし、誰も憶えていない…滅びたも当然だな」フッと笑う烈火であった。
「そんな事はありませんよ!烈火様!私達が生きている限り炎一族は滅びません!」
「…そうだな。すまないな、豪炎。」
「そんな、私はただ、」
「いや、豪炎には感謝をしているんだ。あの日家族を失って俺の心は今にも消えそうでいた、その心に
再び火を灯してくれたんだ。俺には父さん以外家族はいなかったけど、
お姉さんとはこういうものかなと思えたんだ。いままで、本当にありがとう!豪炎!」
「そそそそんな事言われちゃったら、照れちゃいますよ。」
「ハハハッ」
烈火たちは街の寂れた居酒屋で豪炎と立ち話をしていた。
烈火は時計を凝視していた。『チッチッチ…ゴーン…ゴーン』午前零時に鐘がなった。
「あれから、十年かぁ…皮肉なもんだな、誕生日が父さんの死んだ日と同じなんて…」
「そんなこと言われちゃあ、素直に誕生日おめでとうって言えないじゃ、ありませんか!烈火様!」
「そうだよな、すまないな。」
っとそのとき、厨房の奥から
「おいバイト!!サボってんじゃない!真面目にやれ!」
「…すみません。」
頭を下げる二人だった。
『ガラガラ』
「いらっしゃいませ!こちらのお席へどうぞ!」
豪炎が席を案内する。
「ご注文の方お決まりになりましたら、お呼びください。」
と言い放ち、カウンターにもどる。
「…すいませーん!生三つ下さい。」
注文を言う客に烈火と豪炎は声を合わせて言った。
「はいっ!!よろこんでぇぇーー!!!」
終