9 一条の雫
深空の言葉に、なんとも言えない不安が過る。
「えっ」
思わずそう発した俺に、彼女は震える声で続けた。
「私、死んだら、どこに行くのかな? 遠い故郷に帰って行くのかな? それともどこか、どこか知らないところに行くの? 一度も行ったことのないところに?」
「さあ、それは誰にも解らないよ」
「それなら私……星になりたい」
そう言うと彼女の目から、一条の雫が零れた。
「お前、何言ってんだ? どうした、ヘンだぞ」
以前にも感じたあの怪しい胸騒ぎが全身を駆け巡る。
深空は冗談で言っているわけではない。
でなきゃ涙が零れるわけがない。
段々と速度を増す鼓動。
彼女の口からその真意を聞きたいけれど、でも聞きたくない。
理由の解らないもやもやが俺の心を支配してゆく。
深空。その名前の通り、彼女は深い空に輝く星が好きだった。
だから星になりたいと?
違う。そうじゃない。
彼女がそう言うには、何か理由があるはずだ。
だけど彼女はわざと明るく振る舞った。
「大きな大きな宇宙の隅で、ひっそり輝くかわいい星に。暗く寂しい夜には、キラキラキラキラ輝いて、皆に幸せ運んであげる」
そう言って微笑む彼女をこれ以上放っておけなかった。
彼女を、深空を守りたい。そう思った。
「おい!」
俺はたまらず彼女の両肩を掴み、正面から瞳を見据えた。
だが彼女は何も言わない。
俺は小さく息を吐き、優しく聞いてみた。
「何かあったのか?」
すると彼女から意外な言葉が返ってくる。
「私……もうすぐ星になる」
意味も解らず聞き返すことしかできなかった。
「え、何言ってんだ?」
「私……もうすぐ星になる」
彼女は繰り返す。
そのあまりに真剣な眼差しに、俺は絶句した。
すると彼女は、今度は屈託の無い笑みを浮かべ、明るく俺に言う。
「……あと3ヶ月、私の一番の親友でいてくれる?」
「何で3ヶ月限定なんだ?」
素朴な疑問。
あと3ヶ月限定だなんて。
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次話「10 嘘だ!」もよろしくお願いします!