8 『普通』
それからの日々はごくごく普通に過ぎてゆき、彼女があの日言いかけた言葉を聞くこともなく、またありふれた日常の繰り返しを営んでいた。
毎日同じ時間に起きて朝食を摂り、決まった時刻に学校へ向かい、深空と笑い合って冗談言い合ってケンカして仲直りして。
毎日楽しく過ごしたさ。
変わりばえのない教室。変わりばえのないクラスメイトたち。変わりばえのない日常。
そんな当たり前がこのままずっと続くものと、あの頃の俺は信じて疑わなかった。
それがどれほど大切で貴重なことかも知らずに。
「……私さぁ」
いつものあの場所で一番星を見上げながら深空が言う。
「うん」
俺も何気ない会話を楽しもうと、いつものように相づちを打つ。
だけどそれは『普通』でない始まりだった。
いや、もう既に始まっていたのかもしれないが、そのことに俺は気づかずにいたんだ。
「私、死んだら星になれるかなぁ?」
え、どういう意味だ。
「何言ってんだよ。小学生じゃあるまいし」
俺はハハハと笑い飛ばした。
「んでも」
彼女は少々の困り顔を覗かせ、空を見上げている。
深空。深い空に似合う星。
確かに。
だけど。
声も出せずにいる俺に、彼女は続ける。
「世界で一番きれいな星に。あなたのために、……親友のために、キラキラ輝く星に。
そしたらいつでも空の上から、みんなを見つめていられる。あなたが悲しい時には、一緒に悲しみ半分に。あなたが淋しい時には、もっとキラキラ輝いて、その光でそっと包み込んであげる」
そう言うと、優しさを顔に浮かべて彼女は微笑んだ。そして小さく呟いた。
「私、死んだら、星になれるかな? そしたらいつも一緒にいられるのに……」
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