7 一番星
あれから俺たちは幾度となくこの場所を、子供の頃によく通った高台の公園を訪れるようになっていた。
あの夕陽を、心に刻んでおきたいと願ったからだ。
その日もいつものようにベンチに腰かけ、夕間暮れの空を眺めていた。
「あっ! 一番星!」
眼を輝かせて深空が声を上げる。
「金星だな」
うん、と頷き彼女は言う。
「一番星に願い事を唱えると、叶うらしいよ」
深空は嬉しそうにそう言いながら両手を胸の前で組み、何かを一生懸命願っている。
その姿が微笑ましく、「じゃあ」と俺も願い事をすることにした。
しばらくして、俺たちは満足げにまた目の前に広がる晩景を眺めた。
「ねえ、何をお願いしたの?」
不意に深空が問う。
「深空は?」
俺は返答に困り、質問で返した。
「言わな~い」
笑いながらそう答える深空に、俺も言う。
「じゃあ、俺も言わなーい」
言えるわけがない。
ふふふと笑い合って、俺たちはもう一度景色に目をやる。
宵の明星が輝きだして、また俺たちに心地良い沈黙を連れてくる。
それからどの位経ったのだろうか。
いつの間にか、夜空の瞬きが、キラキラと光をちりばめて、2人の頭上に降りそそいでいる。
「あの」
2人の声が重なった。
「何?」
「いや、お前の方こそ何だ?」
「うん、大したことじゃないんだけど……」
少し、はにかんだ彼女に微笑んだ。
「言ってみ」
彼女は少し躊躇いがちに俯いて小さく呼吸をして「ううん。やっぱいい」と返した。
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