6 距離感
しばらく駆けて、それからは歩いてそこに向かった。
子供の頃、よく2人で見た景色がもう一度見たくなった。
なぜだか、今じゃなきゃダメな気がしたから。
そうして俺たちは、たどり着いた高台にある公園のベンチに座り、ふたりで夕陽を眺める。
「やっぱり、ここから見る夕陽はきれいだね」
沈みゆく大きなかたまりが、深空の横顔を朱く染める。
俺の鼓動が波打った。
言いたいのに言えない言葉を胸の奥にしまい込み、俺は言いたくない言葉をこれから口にする。
「ああ」
だけど、なかなか思うように言葉は出てこず、俺は彼女から夕陽に目線を移した。
もう少し、もう少しこのままでいよう。
そうしたら、俺の口からハッキリと告げよう。
静かに時間が流れてゆく。
このままずっとこうしていたい。それも儚い夢なのか。
「子供の頃は、よく学校の帰りに、ここから夕陽見たよね」
懐かしそうに話す深空。
俺は夢の終わりを言葉にすることにした。
「ああ、あの頃から俺達は、ずっと親友だ。これからもずっと」
言いたくはなかったけれど、言葉にしてしまわないと、俺の中での踏ん切りがつかなかった。
「うん」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
* * *
それからしばらく季節が進んでもなお、俺と深空は相変わらずの親友同士を演じていた。
そう。演じていた。
今から考えるときっとそうだったんだと思う。
多分、親友以上の感情を抱いていたのは俺だけじゃなかったはずだ。
いくら鈍感な俺でも、それぐらいは解るさ。
だけど、敢えてお互い口にするのを拒んだ。
親友……それが丁度良い距離感なのかもしれない。お互い一歩を踏み出すと、壊れてしまうかもしれない。
儚くも、ちょうど心地良い距離。
お読み下さりありがとうございました。
次話「7 一番星」もよろしくお願いします!