徒花【春の詩企画】
彼の名は、タンゴ
出逢ったのは、春の大型連休最終日
新聞紙の兜をかぶり、小さな鯉のぼりを手にしていた
彼女の名は、モモカ
引っ越してきたのは、こどもの日
可愛かったから、竿の中に入ってた金平糖を半分あげた
タンゴくんは、泳ぎが上手だった
クラスで一番、クロールが早かった
でも、刈上げた髪が帽子からはみ出してるのは可笑しかった
モモカちゃんは、絵が上手だった
市のコンクールでは、毎年のように入賞していた
だけど、いつも二つ結びの位置が微妙にズレてて変だった
タンゴくんは、お隣さん。
でも、それだけの関係では終わらなかった。
クリスマスが来るたびに、私はあの日のことを思い出す
モモカちゃんは、ご近所さん。
だけど、ただの幼馴染とは言い切れなかった。
十度目の聖なる夜に、俺が一歩踏み出したせいだ
卒業式が間近に迫った、雛祭りの日
私は、お引越しの準備をしていた
転校することを、とうとう切り出せないままだった
俺が家に上がった時、すでに雛人形は片付けられていた
黙って居なくなろうとしたことが許せなくて、ついカッとなってしまった
今にして思えば、馬鹿なことをしたものだ
自分に芽生えた心と向き合うだけで、精いっぱい
相手の気持ちを慮る余裕なんて、どこにもない
初めての恋は、成就しないもの
自分のことだけで、いっぱいいっぱい
相手のことを気遣うゆとりなんて、あるわけない
初めての恋は、実らないもの
本作は「春の詩企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1423845/blogkey/2230859/(志茂塚ゆり様の活動報告)