俺だけが強い世界
俺の名前はユウヒ。冴えない高校3年生。受験にも落ちて、未来など無い。やりたい事もなければ、ただ過ぎていく日々の繰り返し。
周りのヤツからは生きてるのが楽しいかなどと毎日のように蔑まれ、毎日のように昼ご飯をぱしらされ、毎日のように悪い噂をクラスに流され、悪質ないじめを3年間続けられている。
そして今、いわゆるクラスの底辺をうろついていて、この日常に嫌気がさしていた。
「くそっ、俺にもっと力があれば…!いっそゲームみたいにクソみたいな連中を捩じ伏せる力があれば…!」
学校の帰り道、俺は前を見ずに、叶いもしない連中への復讐を妄想していた。
俺は横から来るトラックに全く気付かなかった。赤信号で横断していることに気づいた時には、もう遅かった。
「_____ここはどこだ?」
全く見知らぬ景色。ファンタジーな世界でよくある街並み。視界の左上の端にはよくある体力ゲージ。
「俺もしかして…異世界転生してる!?」
そう、これは俺が思い描いていた異世界。こんな世界で俺は自由に生き、俺だけの持てる力でありとあらゆる悪を蹂躙し、やつらを完膚なきまでに破壊する。しかし俺だけこの世界に来てしまったのでは意味が無いではないか。そう思った矢先だった。
「おい、ここどこだよ」
「しらねーよ、早く帰ろうぜ」
「帰るってどこにだよ」
そう、奴らがいる。3年間俺を散々コケにしたあいつらが…!
街並みの人通りに紛れていたが俺は見逃さなかった。奴らは俺の目の敵、なんとしても討ち取らなければ。
ひとまず俺は自分の力を知る必要がある。この世界に来ても最弱、なんてことがあったら最悪だ。しかも俺の運ではそれもありえるような気がした。
通る人々が、指でゲームウィンドウのようなものを開いている。俺もそれに習うように指を縦に空中へスライドした。俺のステータスらしきものが表示された。
ユウヒ
LV:1
攻撃力:9979
防御力:9999
魔法攻撃力:9940
魔法防御力:9999
知力:6
特殊能力:
絶対防御lv.99
防御不可攻撃lv.99
魔法無詠唱
神の目
最後の審判
「はっ…ハハっ、やったぞ!!とうとう俺はやったんだ!!」
夢にまで見た異世界転生。そしてそれに答えた俺のステータス。俺の考えた最強のオレがそこにはいた。
とうとう奴らに復讐する時がきたんだ!!
そう思うとにやけが止まらなかった。通りすがる人々がこちらを見ては細い目をするが、そんな事はもうお構い無しだった。
「おいお前ら」
「おっなんだユウヒじゃねえか」
「おいなんだその言葉遣いは?ちょっと最近なってねーんじゃねーかオイ?」
「やめとけよ、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
「うるせえ、俺はコイツが調子乗ってるのが許せねーんだよ、死ねや」
拳が飛んでくる、が、俺には比喩表現無しに止まって見えた。
「______遅いな」
俺は最小限の動きでそれをぎりぎりでかわす。
「…!? なんだこいつ、いつものノロマじゃねえ!!」
「特殊能力: 神の目」で見た彼らのステータスは哀れなものだった。全てが1桁台で特殊能力は一切無し。
「っは、悪いがそろそろこれまでの仕返しをさせてもらおうか」
「なんだと! お前にできるわけないだろう!!」
「周りをよく見た方がいいぞ、お前ら」
「なに…!」
道を行き交っていた人々は誰一人一切歩く素振りを見せず、俺を見た人間からおののいてひれ伏していった。
「どういうことなんだよこれ…!」
「なんかやばいぜこの世界…!」
俺の特殊能力、最後の審判が働いたのだ。人々は皆、俺の事を神だと信じ込んでいる。いいや、俺は既にこの世界では神なのだ。それは揺るがない事実だった。
「お前達は今から裁かれるんだ。散々馬鹿にしてきた、この俺にな。 さあどう血祭りにあげてやろうか…?楽しみだなあお前らの泣き叫ぶ声がよお!!」
奴らは泣き叫んでいた。今から彼らの腕が吹き飛ぶのだろう。それはなんとも楽しい光景になるだろう、そう、俺はこのときを待ち続けていたんだ______
「息子さん、残念です。最早意識の回復は見込めないでしょう」
無機質な病院の一室で医者はそう告げた。
「なんで…ユウヒは何も悪いことをしていないのに!」
「命があっただけでも奇跡と言えるでしょう。なにしろ何トンもあるトラックに引かれたのです。植物状態ではありますが、心臓はまだ奇跡的に動いています。ものを考える力はほとんど残されていないと思われますが…」
「では、何故ユウヒは今こんなに安らかな表情で眠っているんですか!! いい子だったのに…」
「さあ、夢でも見ているんでしょう…報われなかった彼なりに、最後くらい良い夢を神様が見せても良いのではないでしょうか…」
三日後、彼は息を引き取った。
教訓:結局は夢。都合良いことなんて大抵は起きない。自分に都合のいいことが沢山回って来た時は警戒してみよう。彼もそれに気づければ安らかにそのまま息を引き取れたかもしれない。中途半端に夢を見ることほど辛いことも無い。