第18話 トーガと魔王
「ここみたいだな。」
僕達は<気配察知>によって現れた光の柱の場所まで来ていた。と言っても、光の柱は使用者しか見えておらず、それでさっき紅葉達はいきなり場所を特定したことに驚いていたようだ。
「あれみたいだね。」
「はい。少し妙なオーラが出ているようですが。」
今は上空150ⅿ程に浮かんでおり、下には1体のロック鳥がいた。しかしそのロック鳥から、何やら禍々しいオーラが出ていた。僕も初めて天蠍と紅葉達に会ってから、オーラの制御、視認ができるようになっていた。苦労して修行した甲斐があった。家の書庫で本を見つけて、独学だけど問題ないようだな。
しかし...あれは...
「んー。」
「どうかなさいましたか、主様。」
おっと、いかんいかん。紅葉達に心配をかけてしまったようだな。
「大丈夫、問題ないよ。」
「でしたら、良いのですが。」
心配してもらえるのは嬉しいな。でも、今はロック鳥に集中しないと。
「それで、どうする?一度話してみようか?」
「そうですね。話をして解決できるのでしたら、そのままにするのも一つの手です。ルフには倒してくれと言われはしましたが、判断は主様がご自身でなさるのが良いと思います。」
取り敢えずは、一度話してみることに決まった。
ロック鳥の目の前まで移動すると、
「お前が同胞を手にかけた裏切り者のロック鳥か?」
そう聞くと、目の前のロック鳥は目を細めこちらを睨んできた。
「何者だ。」
「質問に答えろ。お前が裏切り者か?」
こちらも負けじと睨め返し、口調を改め、再度質問をする。
「ああ。その通りだ。その質問からして、ガ族のところへ行ってきたのか。」
「ガ族?」
「主様、先程のロック鳥達の部族名が「ガ」なのです。」
「なるほど。」
紅葉に教えてもらい、再度ロック鳥へ向き直り答える。
「そうだが。お前が同胞を殺めたことは本当なのか?」
すると、ロック鳥は少し考えるような素振りをしてから、その答えを口にした。
「その...通りだ。」
「何故そのようなことをしたんだ?」
ロック鳥は思い出すように語り始めた。
「俺、トーガは生まれつき身体が弱かった。その所為で、あまり狩りなどもできなかった。しかし、ガ族の者達はそんな事関係なく、皆と変わらないよう接してくれた。だが、それが長く続くことはなかった。ハーガが生まれたのだ。奴は明るく、元気で、瞬く間に部族一番の人気者になった。それだけなら問題はなかった。だが彼奴は、人気者になったことで調子に乗って来ていたんだ。その内彼奴は裏で色々とするようになっていた。俺は彼奴を元に戻そうと努力した。体が弱い俺にでもできそうだったからな。しかし、彼奴は俺の言うことに耳を貸さなかった。」
「だから殺したのか?」
「いや違う。そんなことで殺すわけないだろう。元々ガ族には表と裏の2グループがあった。表のグループはこの森林で穏やかに暮らしている。この森林には人間は滅多に入ってこないし、森林に住まう種族も、ロック鳥の縄張りには他の種族は近寄りもしないからな。基本的に自分達に害をなす者以外は、他の種族に危害は与えていない。食事も食える魔獣などを狩っている。一方裏のグループは、自分たちが圧倒的強者ということで、他の種族に色々な迷惑をかけていた。俺は前者のグループだった。彼奴も初めは同じだったが、調子に乗り始めたのは裏のグループに入ってからだったか。俺は裏のグループの奴等が憎かった。体の弱い俺は日々努力しているのに、彼奴等は何の努力もせず、剰え他種族に迷惑をかけている。そんな奴等許せるはずがない。だから、昔は仲が良かったから彼奴を元に戻そうと色々試した。だが彼奴には届かなかった。」
「その裏のグループってのは、ルフは知っているのか?」
「いや、知らないだろう。長は最年長の奴がなるものだ。裏のグループは比較的若い者が多かった。年長の者はそんなものがあることさえ知らないだろう。」
「裏のグループはどの位いるんだ?」
「正確な数は知らないが、ガ族は表と裏で4:1ってところじゃないか。」
4:1ってことは、裏の奴等は6体位ってことか。
「それで、ハーガを元に戻すことができなかったお前は、その後どうしたんだ。」
「俺は身体が弱いことから、他のロック鳥より弱い。裏のグループを潰そうにも、その力がない。」
「ちょっと待て、お前等には、「同胞を殺めるべからず」っていう掟があるんじゃないのか?」
「ああ、あるぞ。だから俺は追放されただけだった。しかし、俺はどうしても許せなかったんだ。力ある者が弱き者を甚振るのが。強者は弱者を守るべき、というのが俺自身の考えだった。だが、俺は変わった。ある日、いつものように自分のできることをしていると、突然、声が聞こえてきた。「誰か助けてくれ」とな。俺は身体は弱いが、ロック鳥だ。幾ら種族内で非力でも、他種族からすれば十分力になる。だから、俺は声のする方へ向かった。するとそこには、以前ガ族が住処としていた洞窟があった。洞窟と言っても崩落しているから、入れなかったが。その崩落した岩の中に1つ光る岩があった。どうやらその中から声が聞こえてきたらしい。声の主は俺に気が付いたようで、「この岩を壊してくれ」と頼んできた。俺はその岩を壊した。すると、砕けた岩から、自信を魔王と名乗る者が出てきた。どうやら、封印されていたようだ。」
それって、不味いのでは。魔王って、確か800年位前に勇者が倒したって、何かで読んだ記憶が。
「ねぇ、紅葉。」
「何でしょうか、主様。」
「魔王って、800年位前に倒されたあれ?」
「いえ、主様が仰っている魔王は魔族大陸のどこかの国の王かと。このロック鳥が言っているのは、恐らくこの【怠惰の森林】魔物や魔獣の王かと思われます。」
「魔王にも色々あるんだね。」
僕達がコソコソ話している間もトーガは話続けていた。その後の話を要約するとこうだ。
【怠惰の森林】の魔王は、自分の封印を解いてくれた礼に何か願いを叶える、と言いだした。トーガは健康な体が欲しい。と願ったそうだ。すると、魔王は自分に魔法か何かを使い、消えたそうだ。実際に体は健康になり、力もついたそうだ。そこで、裏のグループを潰す作戦を実行した。しかし、痛めつけて、今まで自分達がどんなことをしてきたかを、分からせるだけで止まるつもりが、いつの間にか体の自由が利かなくなり、意識も失った。そして気が付くと、そこには横たわった裏のグループのロック鳥達と息絶えたハーガが居たらしい。
「信じてくれ。俺は本当に殺すつもりはなかったんだ。」
信じてくれと言われても、そんなの確認の仕様が...あった。その方法を思い付くと、僕はそれをすぐに発動させた。
「<神眼(極)>」
<神眼(極)>は全てを見通すことができる。当然嘘もわかる。
その結果、トーガは嘘をついていないことが分かった。それと同時に、トーガに何かが憑りついていることも分かった。あれは...魔王?初めに会った時の違和感はこれだったようだ。
「紅葉、どうやらトーガに魔王が憑りついているみたいなんだ。」
「左様ですか。それなら意識を失ったことにも納得がいきます。」
「どういうこと?」
「どうやらこの【怠惰の森林】の魔王は憑依するタイプの魔王だったようです。憑依するタイプのものは少し厄介です。憑りついた者の身体や精神を徐々に蝕んでいき、最終的には乗っ取ってしまいます。倒すには、憑りつかれた者を殺し、次の標的に憑依するまでに攻撃しなければなりません。」
「えッ、ということは、トーガには何の罪もないのに、殺さないといけないの?」
「いえ、何の罪もないことは有りません。魔王を封印から解いてしまったのですから。それがこの者の罪です。」
助けてくれと言われたから助けたのに、それが結果的に悪になってしまうなんて。
「どうにかできないかな?」
「と、言いますと?」
「このロック鳥を助けて、魔王だけ倒す方法だよ。」
「残念ながら不可能です。このまま放置しておく、という方法もありますが、この森林内の種族が根絶やしにされるでしょう。悪ければ、周辺の人の都市にまで影響が出るやもしれません。」
その言葉を聞き、僕は決心をした。そして、トーガともう一度話すことにした。
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