第16話 長と不思議な少年
遅くなって申し訳ありません。今回、視点は主人公ではありません。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
一瞬、耳がおかしくなったのではないかと思った。それもそのはずだ。鳥類の長であり、四霊の一角であらせられる鳳凰様が、人、それもまだ幼い少年を主と呼んだのだ。それを見た常識のある者は、皆そうなるだろう。
強者に従うのは当然。そう考えるロック鳥ではあるが、この者からはそれほどの力を感じとることはできない。確かに、人の子ということで見れば、それなりのものだろう。しかしそれだけだ。では何故、鳳凰様はこの者を主と呼ぶのだろう。その答えは簡単だ。自分にはわからない、しかし鳳凰様を魅せることのできる何かが、この者にはあるのだろう。
そんなことを考えていると、ここへ来て、初めてその少年が口を開いた。
「いや、僕たちが勝手に来たんだから、こっちが出向くのが普通でしょ。」
「畏まりました。そこの者、我が主様の御言葉を聞いていただろう。我々をお前たちの長のところへ案内しろ。」
それを聞いた、仲間の1人が鳳凰様の発言を受け、行動を開始すべく動き始めていた。
「鳳凰様、それと皆様方。こちらでございます。」
いち早く動くことができたのは、いつも一緒に行動している我々3体のまとめ役的存在の、ノーガだった。もう1体のフーガや自分は、まだ動くことができずにいた。頭を動かすことは何とかできたが、それ以外の身体は言うことを聞かなかった。絶対的存在を前にし、動くことができたノーガはさすがだ。
ノーガが鳳凰様方の案内を始めようとしたところで、ようやく身体が動いた。自分がそんな状態の時に、ノーガは平然と鳳凰様方と会話している。いや、平然としているのは表だけのようだ。彼の尾が僅かにだが動いている。あれは、長年の付き合いで分かった彼の緊張している時の癖だ。それもそうだ。鳳凰様を目にすることすら一生に1度あるかないかだというのに、会話をし、更には隣を歩いているのだ。緊張しないはずがない。その感情を表に出さない彼はかなり立派だ。
普通、目上の者の前や隣を歩くことは、側近や護衛でない限り許されることではない。だから、フーガと自分は最後尾にいる。今の隊列は、ノーガと少年と鳳凰様、次に5体の三足烏、最後に自分達だ。ノーガは最初、「自分が鳳凰様方の隣を歩くなど、滅相もございません」など、色々言っていたが、鳳凰様の「良い」という一言で、この状況になっている。
そんな事を考えている内に、洞窟に着いた。入口の穴は半楕円状の高さ10ⅿ、幅12ⅿ程と小さいが、この洞窟が、この辺りで一番大きなものだった。自分達で大きくしても良いのだが、崩落する危険性などを考えて、そのままにしている。だが、この洞窟を使う者は長くらいなので、さして問題はない。それに、我々からすれば小さいが、鳳凰様方が出入りするのには十分な大きさである。
中に入ることは滅多にないのだが、別に入ることが禁止されているわけではない。長と仲の良い者達は、よく出入りしている。自分達は長とそれほど仲が良いわけではないので、入るのはこれで3度目くらいだ。
洞窟内は、入口から徐々に広くなっており、20ⅿも進めば、自分達でも普通に行動できる広さになっている。この洞窟は開けた場所が5か所あり、最奥の一番広い場所を長が住処としている。
やがて、1つ目の広場に出た。そこには、警備の役割を長より与えられている2体の同胞がいた。その2体は鳳凰様を見るなり、驚いた様子で頭を下げた。彼らもやはり、鳳凰様を目にしたのは初めてだったのだろう。かなり動揺しているようだ。
自分もそうだが、同胞の多くは、鳳凰様を実際に見たことがある、という者は少ない。しかし、長は鳳凰様と仲が良いようなので、鳳凰様の外見は長から教えられたことがあった。それも理由の一つだろう。だが、この絶対的存在を目の前にすれば、それが何者なのかは、たとえ外見を知らなくともわかることだろう。
鳳凰様方を中へ通した2体の同胞が、大きく息を吐きだしているのが聞こえた。通ってすぐだったので、鳳凰様方にも聞こえていたのだろう。鳳凰様は無反応だったが、少年は苦笑していた。
そのまま何事もなく、他の広場も先程と同様に通過し、最奥の広場に出た。その場所の広さは、今までの4つの広場よりも、圧倒的に広い。先の4つの広場と同様、ここもドーム状になっている。地面の大きさは、先の4つが直径約50ⅿ~60ⅿだったのに対し、ここは直径約100ⅿ程だ。
そんな場所に1体のロック鳥がいる。その御方こそ、我らが長、ルフ様だ。
我々ロック鳥は、明確な体格の差はないに等しい。もちろん、雛と成体では差がある。しかし成体、200歳程になると、それ以上成長しなくなる。
だが、今目の前にいるルフ様は、成体である我々が15ⅿ程なのに対し、20ⅿは超えているだろう。そんな巨体を目の前にして、初対面の者はまず立っていられないだろう。普通のロック鳥であっても、人がその姿を目にすれば、動けなくなるだろう。同じ人という種族でも、強者であれば、逃げる程度であれば動けるかもしれない。
しかし、この少年は立っている。それが恐怖で気絶しているのであれば、納得がいくだろう。が、少年は何の動揺も見せずに立っている。そんな少年を見て、さすがにルフ様も驚いたのだろう。普段は支配者然としたルフ様も目を見開いている。鳳凰様がいたことにも驚いてはいたようだが、それよりも人がここにいることに驚いているようだ。
鳳凰様とルフ様が何やら話をして盛り上がっているようだが、そんな話など耳に入ってこない。それどころか、まるで自分の周りに分厚い壁があるかのように、一切の音も聞こえない。自分の目の前にいる少年が、一体どれ程の力を持っているのか。それが気になって仕方がないのだ。
強者に従うことが当然と考えるロック鳥の中でも自分は、従うべき強者に憧れを抱く、もしくは、その強者を超えてみたいと考える傾向が強い方だ。そういう考えを抱くものは少なくはないが、それほどいるわけでもない。だが、ルフ様もそういう考えを少しはもっているそうだ。
そう考える自分やルフ様にとって、絶対的存在を従えるほどの力を持つ人の子。しかもその者からは、鳳凰様どころか、自分を超える強ささえ感じない。そんな人物に興味が湧かない筈がない。
少年を眺めていると、こちらの視線に気付いたのだろう。いや、もっと前から気が付いていたのかもしれないが、こちらを振り返ってきた。しまった。眺め過ぎていたか。失礼に当たったのなら、自分の首も物理的な意味で危険かもしれない。しかし、そう思ったのは杞憂に終わり、すぐに鳳凰様とルフ様の方へ向き直った。
安心した所為か、やっと周りの音が耳に入ってくるようになった。
「それで鳳凰様、こちらの少年は?」
「あぁ、すまない。紹介が遅れた。先程から気になっていたのであろう。何度か目線がずれていたしな。」
それを聞いたルフ様は頭を下げようとしていたが、鳳凰様がそれを止めていた。目上の者と会話している途中で、目線をずらすなどあってはならないことだ。それだけではなく、目上の者と会話する場合、目線を合わせることは当然だ。しかし、今、ルフ様と鳳凰様は体格上、鳳凰様が見上げる形で会話している。そんなことが許されるのは、ルフ様が鳳凰様と何度も顔を合わせているからだろう。ルフ様が頭を下げるのを止めたのを確認したところで、鳳凰様が先程の質問に答えた。しかしそれは、予想以上の答えだった。
「こちらの御方は私の主人であり、更に白虎の主人でもある。」
△△△△△△△△△△ △△△△△△△△△△
どうでしたか。今回、初めて主人公視点ではなくしてみましたが...初挑戦は何でも難しいものですね。
今回のタイトルの「不思議な少年」は、お気づきの方がほとんどだと思いますが、主人公のことです。ロック鳥視点で、ということですから。
これからも、視点が変わることが何度もあると思います。おかしな点があれば、お気軽にご連絡ください。その都度、修正したいと思います。これからもよろしくお願いします。
ーーー次回更新は1ヶ月以上先になる予定です。申し訳ございません。ーーー