第15話 ロック鳥と自由飛行
「えーと、じゃあまずは、ここら辺で強い魔獣って何か知ってる?」
「はい。この近辺にいる魔獣で一番強いのは、ロック鳥ですね。」
「ロック鳥...確かかなり大きいよね。」
「そうですねー、大きいのは間違いありませんが、別に攻撃もしていないのに襲ってくる、なんてことはないですよ。空腹のときは多少気が荒くなりますが...生き物とは大体そういうものです。」
遠い目をしながら話していた紅葉がこちらに向き直った。その時にはもう、普通の目に戻っていた。僕は少し疑問に思いながらも、話を続けた。
「それで、ロック鳥はどこにいるのか知ってる?」
「申し訳ありません。どこにいるかまでは存じ上げません。探して参りましょうか?」
「そうだね、お願いするよ。」
「畏まりました。では、黒烏、白烏、赤烏、青烏、黄烏、行きますよ。」
「御意」
そう言うと、皆別々の方向へと飛んで行った。
さて...狩りをしようかなとは思ったけど、ロック鳥が何かしたわけでもないのに、狩るのは少し気が引けるな。ある程度強い魔獣なら、知能がある奴もいるし、人の言葉も喋る奴もいるしな。ロック鳥に長とかがいて、会話できるなら、言うこと聞かない奴とかを教えてもらって屠るか。でも、そんな奴いるのかな。いないならいないで、友好関係を築くのも良いかもな。後で紅葉に聞いてみよう。
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数分後、皆が帰ってきた。
「主様、ロック鳥の縄張りを発見致しました。」
「ありがとう。それで、どこにあるの?」
「はい。約1㎞程先からの森林地帯です。」
「んー...なら、行けそうだね。」
「ところで、どのような目的で行くのでしょう?やはり狩るのですか?」
少し紅葉が不安げに尋ねてくる。知り合いでもいるのかな。
「あぁ、いや、どんな奴らなのか気になってね。知能はあるの?」
「はい。ロック鳥の大抵のものは、会話ができる程度の知能があり、長く生きた者ですと、人族以上の知能を持つ者もいます。長がその内の一体で、かなりの知力を持っています。」
「へぇー、なるほど。それにしても、紅葉詳しいね。その長と知り合いとか?」
「えぇ、仰る通りです。彼と初めて会ったのは、2000年程前で、それから何度か会っています。ですが、最後に会ったのが数百年前だったので、どこにいるかが不明だったのです。」
「わかった。じゃあ、縄張りまで案内よろしく。」
「畏まりました。ところで主様、私の背に乗って行かれますか?」
「えッ、いや、今回は遠慮しとく。自分で飛ぶよ。」
「左様ですか。いやはや、主様は飛行魔法も使えるとは、恐れ入ります。」
「まぁね。じゃぁ、「大地よ、この身を、その重みより解放せよ、風よ、我がもとへと集い、この身を、空へ、宙へと、誘え 十八段魔法〘自由飛行〙」」
魔法を発動すると、重力を感じなくなり、身体が浮き上がった。まるで、無重力空間にいるような感覚に襲われる。過去に、この魔法を発動させたことがなかったため、慣れるのに少し手間取った。だが、数分後には、自由に飛び回ることができるようになっていた。
飛行魔法にも幾つか種類があり、今回使ったのはその中でも高位のものだ。土属性の〘重力操作・全解放〙と、風属性の〘飛行〙を無属性の〘合成〙で合体させた飛行魔法。
普通の〘飛行〙では、高くても10ⅿ程の低空飛行で、速度も遅い。さらに、重力を感じるので、常に押さえつけられるような感覚になる。そういったことで、酔ってしまうものも多い。
しかし、〘重力操作・全解放〙を発動させたことにより、重力を感じることなく、自由に飛ぶことができる。慣れないうちは、浮きすぎたりするが、飛行高度や速度も、自由自在だ。
ちなみに前々世では、八段魔法である〘飛行〙の魔法は、使えるものもそれなりにいた。
しかし、一部のものを除いて、どのようなものにも長所があれば、短所が存在する。この〘自由飛行〙には、万能ゆえに、致命的な欠点があった。それは、MPを大量に消費することだ。極々平均的なMPでは、1分と持たないだろう。さらに、もう一つ。この魔法を長時間使用し続けると、魔法を解除した時に、重力に押し潰されそうになることだ。
だが、僕は違った。Lvが上がるごとに、HPやMPの回復速度は早まる。つまり、すでに最大LvであるLv999を〖限界突破〗によって、超えている僕の回復速度は尋常ではない。初級どころか、上級魔法を2,3発、放ったところで、MPはほぼ減らないし、数秒で回復する。もう一つの欠点も、毎日の訓練のおかげで、問題なく動けるようになっていた。
そんな僕だからこそ、この魔法を使うことができるのだ。前々世での悔しい思いが、今では嘘のようだ。ほとんど魔法を使うことができなかった自分が、今ではほとんどの者が使うことができない魔法を、簡単に使うことができる。それは、とても喜ばしく、誇らしかった。同時に危険だとも思っていたが、それはまた別の話である。
「ごめん、初めて使う魔法だったから、手間取っちゃって...」
「いえ。それは問題ないのですが、その魔法はかなりの魔力を使うものだった気がするのですが...まぁ、主様であれば問題ないとは思いますが...」
「心配してくれてありがとう。問題ないよ。それよりも、早く行こう。暗くなると面倒だから。」
「仰せのままに。」
そうして、僕は、紅葉に続いて飛び立った。
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それと思しき場所までは、1分も経たない内に着いた。紅葉達の報告通り、真下には森林が広がっていた。
ワーライドの逆には見渡す限り、どこまでも緑が広がっている。上空300ⅿ程にいてもこの景色だ。一体この森林はどこまで続いているのだろう。
「主様、この真下です。」
「了解。ありがとう。ところで、この森林全部がロック鳥の縄張りなの?」
「いえ、どうやらこの地帯には、多数の種族が生息しているようです。もちろん、全ての種族が協力しているわけではないようですが...」
「なるほど。まぁ、とりあえず行ってみるか。」
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目の前に大きな何かがあった。否、あったではなく、いる、である。
僕たち一行は、ロック鳥の縄張りに来ていた。紅葉達に案内された場所へ降りてみると、そこには3体のそれがいた。そう。真っ白な巨体のロック鳥だ。一瞬、壁か何かだと勘違いしてしまうようなそれは、鳥というにはあまりにも大きい。体長は15ⅿ程であり、翼を広げれば優に30ⅿは超えるだろう。
そんな巨体が目の前に3体もいるのである。壁に見えてもおかしくはないだろう。進化した<気配察知>で、いることはわかっていたが、正直、これほどまでに大きいとは予想していなかった。
しかし、それ以上に驚いたのは、その3体が紅葉を見るなり頭を垂れたことだ。もちろん、紅葉のことを軽く見ていたわけではない。だが、自分達よりも5倍も小さい者に、頭を垂れることに値するものを、紅葉は持っているのだ。しかもそれだけではない。それを見た紅葉は平然と、
「面を上げよ。」
と返しているのだ。それが当然のように。慣れていそうな様子なので、これが普通なのだろう。
許可を得た3体は、頭を上げ、こちらを見てきた。当然、こちらの方がかなり小さいので、見下されるような形だが、不思議とそういうものは感じられない。まぁ、鳥類を統べる瑞獣を前にそんなことはできないのだろう。つまりは、強さ=大きさではない。ということだ。
今まで、強者の雰囲気を纏っていた紅葉が、それを消し、こちらに話しかけてきた。
「主様、これがロック鳥です。長を呼びに行かせますか?」
遅くなり申し訳ございません。週一連載を目指しているのですが、先週、先々週は更新できませんでした。