第1話 転生と過去
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目を覚ました時、初めに聞こえたのは赤子の泣き声と、それに歓喜する聞き覚えの無い幾人かの泣き声にも似た笑い声だった。
ある程度の時間を要し、初めて自分が置かれている状況を理解した。僕は誰かに抱きかかえられていたのだ。そして、聞こえていた泣き声は自分のものであるとも気付いた。心を落ち着かせていると、どこからか足音が聞こえてきた。その音は次第に大きくなって僕の近くで止まった。扉の開く音がして、その声は聞こえてきた。今までも話し声はしていたが、状況を理解するのに精一杯でそれどころではなかったのだ。
「ようやく生まれたか。待ちわびていたぞ。心配で心配で執務どころではなかったぞ。」
「旦那様、ご心配なさるのはわかりますが、お仕事はしっかりとなさってください。」
「わかっている。それより息子であったか、娘であったか。」
「元気な男の子にございます。」
「そうかそうか。男の子であったか。我が家の跡取りの誕生だな。」
そう聞こえた後に自分を抱きかかえている人物が変わったことに気が付いた。僕を抱えているその手は、先ほどまでとは違い、力強くとてもたくましいものへと変わった。
会話の内容から、今僕を持ち上げてはしゃいでいるのは、多分父親なのだろう。そして、その前の人物は家政婦、メイドといったところだろう。ということは、この家は使用人を雇えるほどお金持ちということか。大分落ち着いてそんなことを考えることのできる余裕が生まれていた。
すると、父だと思われる人物がまた口を開いた。
「シルビアの調子はどうだ。」
「はい。奥様ならお疲れにはなっていらっしゃいますが、それ以外は全く問題ありません。」
メイドらしき人物がそう答えた。奥様と言っていることから、シルビアとは母親の名前だろう。しばらくして、母シルビアが落ち着いたということで、父に抱えられて母のいるところに来た。まだ、しっかりと目が見えないのでどのような容姿なのかわからないが、父と母は色々と紹介をしてくれた。
「私は君のパパのスモーツ・ベリル・アドルクスだ。」
「私はママのシルビア・べリアン・アドルクスよ。」
「そして、こちらが右から、執事長のカール・バッカス、メイド長のパーシャ・アルマス、警備隊長のケヴァン・ハーゲン、料理長のジェスト・バッチェリだ。」
生まれたての赤子にそんなにたくさん言われても覚えられないだろ。そう心の中でツッコミながらも記憶力はあるようなのでしっかり全員の名前を覚えた。先ほどから僕のことを抱えている父が「ベロベロ...バー」などとうるさいが、やはり少しは笑ってやったほうがいいのかとニコニコすると、とても嬉しそうに笑っていた。まあ、生理的微笑なのかもしれないが。そうこうしていると隣から、
「ねぇ、この子の名前はもう決めたの?」
母が父にそう尋ねてきた。すると、父は「あぁ、もう決めてある。」と答え、僕に向き直り、
「君の名前はライルだ。ライル・ベリル・アドルクス。」
「ライルかぁ。いいんじゃない。」
父も母も嬉しそうにニコニコしながら僕を抱きかかえていたが、僕は睡魔に襲われていつの間にか眠りについていた。
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翌日、目が覚めた時には僕はベビーベットらしきものの上にいた。とりあえず状況整理だ。僕はどうしてこんなところにいるんだろうか。昨日は確か......
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僕は、昨日まで普通の中学生として生きていた。ほかの人と何も変わらない平凡な男子中学生だった。ある1点を除いては...
僕は【転生者】だった。
最初の人生は、魔物やドラゴンのいる剣と魔法のいわゆるファンタジー世界だ。その世界で僕は、平民の次男として生まれ、育った。この世界では、平民は学校にも行けず、家業に専念することが義務だった。
僕は平民の中でも落ちこぼれで、魔法はほとんど使えず、剣もあまり使えず、体力もなかった。さらに、病弱で村の人はおろか、兄弟、父母までにも見放されていた。兄は剣が得意でいつも父と狩りに出かけていた。弟は僕より2つ年下だったが、魔法が得意であっという間に僕よりも強くなっていた。兄弟には馬鹿にされ、父母は僕をお荷物扱いしていた。
だから、「いつか見返してやるんだ」そう思いながら、必死に勉強をしていた。しかし、この世界では、階級と武力が全てで、どれだけ勉強しようと学術では平民は貴族より上の地位に立つことはできなかった。なので、毎日必死で勉強している僕を家族や村の人は、蔑むような目で見ていた。それでも、僕は一般常識はもちろん、魔物や武術、魔法についてもたくさん勉強した。おかげで、僕の知らないモンスターや流派、魔法はほとんどなかった。
そんなある日、村に魔物が攻めてきた。いつもなら、村の男たちが撃退するのだが、今回は違った。いつもより危険な魔獣が攻めてきたのだ。うちがある村は田舎の中の田舎で、騎士や冒険者はめったに来なかった。そんな村に少しでも強いモンスターが攻めてきたら、村が壊滅してしまうのはどこの村でも同じだった。男たちは必至で抵抗し、その間に家族を逃がした。
しかし僕は、母や兄弟が逃げるための囮として利用された。そして僕は死んだ。家族や村がどうなったかは知らない。知りたいとも思わない。僕のことを毎日のように蔑み、最後には自分たちが生き残るための囮にまでした。そんな奴ら別にどうなったって構わない。そう思えたからだ。でも、なんで僕が死なないといけないんだ。これだけ努力したのに。あれだけ我慢して頑張ったのに。何かが心を真っ黒に染めたような感覚がした。
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死んだあと、初めに目にしたのは、今まで生きていた世界とは違う魔法は無く、【科学】が発達した世界だった。生まれてから何日かしてから、自分が転生したことに気が付いた。この世界では身分差別は無く、学校にも行けたし、友達もできた。いじめられることもなかった。もちろん自分が転生者だということは、誰にも言わなかった。
学校での成績や運動神経は平均的で、容姿も平凡。特に目立つことのないどこにでもいるような少年だった。【転生者】という点を除けばこの世界にある漫画や小説に出てくるモブキャラみたいな存在だった。友達と毎日のように遊び、楽しく過ごしていた。
僕は、前世でとても嫌な思いをしたので、できるだけ人には優しくしようと決めていた。しかし、友達からは「お前は親切すぎる」「お人好し」とよく言われていた。
中学3年になったある日、進路のことを相談しながら友達と帰っていると、歩道橋に座っているお婆さんがいた。僕は、気になったので、みんなに「先に帰ってて」と言ってお婆さんの下に向かった。それを見ていた友達は、呆れたように「ほんと、お人好しだな」と言っていたが、気にしない。
お婆さんに話を聞くと、「家に帰る途中に疲れたから少し休憩していただけ」と話してくれた。我ながら少し迷惑かなと思ったが、「家まで荷物運びましょうか」そういうと、
「いいのかい。じゃあ、お願いしようかね。」
そう、皴の目立つ顔をニコッと笑わせて嬉しそうにしていた。荷物はそれほど重たいものではなかったが、お婆さんの家はこの街にある山の奥と聞き、少し後悔したが、嬉しそうにしているお婆さんを見て、声をかけて良かったと思いながら、頑張ってお婆さんの家まで運んだ。
お婆さんの家に着くとお婆さんは、
「どうもありがとう。お礼にお茶でも出すよ。上がっていきな。」
そう言ってくれたので、お言葉に甘えて上がらせてもらった。出してもらったお茶には茶柱が立っていた。そのお茶を飲みながら、お婆さんの話を聞いてこのお婆さんがここでもう何十年も暮らしていることや、今まで人に親切にされたことがなかったから、今日助けてもらえたことが本当に嬉しかったことなど、いろんな話をしてくれた。
そして、そろそろ帰ろうかと準備していると、お婆さんが今日のお礼にと1つの石をくれた。その石は雫のような形をした、淡い黄緑色のなんとも美しい石だった。その石をありがたく受け取ってお婆さんの家を出た。外はすでに暗くなっていたので、急いで家に帰った。
家に帰ると、いつも通り夕食を食べ、風呂に入り、少し勉強と筋トレをし、寝る前に最近の日課であるお気に入りの小説を読み始めた。この小説は僕の前世とよく似た世界が描かれており、自分もこの物語の主人公のように強かったら、あんなことにはならなかっただろうと、自分を主人公に当てはめて楽しんでいた。ある程度読み終わったところで、眠くなったので、あとは明日と思いながら眠りについた。
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なんだかまぶしいと感じ目を覚ますと、そこは自分の部屋ではなく、辺り一面何もないどこまでも真っ白な世界だった。夢なのか寝ぼけているのかよくわからず、辺りを見渡していると、空?宙から神々しい光と共に一人のお爺さんが現れた。