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戒結の儀  作者: 三歩
第一章
9/11

休息と挨拶

 朝が始まってから間もなく、道なりには人や車が行き交っている。朝の通勤、通学、通園、様々な日常を過ごす人々の中に、一際旅荷物を持って歩く2人の少女がいた。


「初めての電車、楽しかったなぁ。」


「出発した駅まで大分歩いて、乗り継ぎを繰り返して3時間よ・・・。よく元気で居られるわね。」


「沢山人がいたから、なんだか嬉しくて。ずっと2人なのも大好きだよ。でも、やっぱりこうやって他の人と会えたり、新しい友達ができるかなーって思うと、安心するなー。」


「・・・。」


「どうしたの凜ちゃん。私の顔ずっとみてるけど。」


「燈香が元気なら、私も元気でいられるよ。それより、荷物重たくない?手伝おうか?」


「大丈夫だよ。それに、お互い制服と寝巻きと下着と、後はタオルとかの日用品の荷物が少し入ってるだけだし。」


 凜と燈香は会話を繰り返し、町並みを眺めながら歩道を歩いていた。

凛は荷物を多く詰めることができるスクエアバッグを背中に担ぎ、燈香はボストンバックを肩に掛けている。制服を着ているところを見れば通学中の女子学生に見える。

既に桜が散って青葉が生い茂る木々の並木道は学校への通学路であり、それと同じくこれから2人が住む場所への道にも繋がっている。


「確かここの角を左だよ、燈香。」


「こっちだね。」


 曲がり角を曲がり、もう1つ角を曲がる。大通りから少し外れただけで、通り過ぎる人は散歩をしているお婆さん1人だけ。2人はまっすぐと歩いていると、その先に見えたアパートに目が留まった。


「あそこかな。」


「うん。場所はあそこで間違いない。」


 2階建てで、それぞれの階に3部屋、合計して6部屋というシンプルなアパートが建っていた。

 見つけたアパートに近づくと、道端で箒を手に道を掃除する人物を見つける。2人が歩いてくるのを見つけた管理人さんが、挨拶をしてきた。


「あらこんにちは。」


「こんにちは。」

「こんにちは。」


 時刻はまだ朝の九時頃だが、互いにお昼の挨拶を交わした3人。


「新しい入居者の方達だね。部屋を案内するから、ちょっとまっててね。」


 管理人さんは箒を塀に立てかけ、敷地内へと入っていった。続いて2人も入り口に立ち、管理人さんをそこで待つことにした。駐輪場のスペースが少しあるだけで、狭い敷地のアパートである。しかし外見は古びた姿というイメージがつきそうだが、鉄筋の錆びはおろか、木製の外装はしっかりと色合いを残しており、建物の年期を感じさせない綺麗さだ。


「綺麗なもんだろう。ここは近くの学園に通う生徒さんが毎年借りてくれるからねえ。在り難いものだよ。」


 ニコニコと笑う管理人さんは2人に向かって「これから、よろしく頼むよ。」と、色々な意味でよろしくと思わせる一言をついでに喋る。それから3人は階段へと足をかけ、コンコンコンと管理人さんのゆったりな足取りに合わせて昇ってくる。


「さあ、ここが部屋だよ。」


 管理人さんの掛け声と合わせて、扉が同時に開く。部屋の間取りの紹介から始まり、設備の使用方法、ベランダからの景色を案内をしていく。



「それじゃあ、困ったことがあれば1階の1号室へおいで。あまり私はで回らないほうだから、夕方のお買い物に出かける時以外、部屋にいるからね。」


「わかりました。」

「どうもありがとうござます。」


 管理人が部屋から出て行くと、凜と燈香は部屋の中へと向き直る。そして、まず部屋に配置された物へ疑問を問いかけたのは、燈香だった。


「箪笥にテレビと、カーテンと照明、冷蔵庫と洗濯機、トイレとお風呂。あ、ベッドは2人分だ。まさか私達が来るために準備したのかな?あの管理人さん。」


 指差し確認の後に、凜へと尋ねる燈香。


「どうだろう。準備が良すぎる気もするが、使用した感じのある家具を見ると、前に住んでいた人も私たちと同じような2人組だったのかもしれない。シーツとかはさすがに無いけど、ある程度の物を揃えればひとまず大丈夫そうだ。」


 荷物を壁の隅に置く。


「じゃあ燈香、ひとまず部屋の中を掃除したいから、お買い物に出かけよう。」


「うん、わかった。」


 お財布を捜している凜の提案にのった燈香はブレザーを脱ぎはじめた。


「燈香?着替えるの?」


「学生服のままだと、大人の人に怒られるって、美智子ちゃんが言ってたから。ばれないように着替えておかないと。」


 燈香はクローゼットへと向かい、中をあけてハンガーを取り出した。ブレザーを掛けて、カッターシャツを脱ぎ、同じくハンガーへとかける。


「うぅ・・・、やっぱりまだ朝は少し冷えるね。」


 キャミソール1枚となった上半身で、燈香は両肩を手で撫でる。すると、凜が自分の着ているブレザーに手を掛け、燈香へと近づいた。


「もう、美智子はサボりの常習犯なんだから、あまり鵜呑みにしたらいけないよ。」


 溜息と苦笑の表情を浮かべながら、ブレザーを同じく脱ぎ始める凜。


「あれ?凜ちゃんも着替えるの?」


「学生服のままだと大人からものすっごく!怒られるって、美智子が言ってたからよ。」


 燈香の問いかけにそう凜が答えると、2人は顔を見合わせて笑った。



 僕はといえば、ガタゴトと隣から聞こえる雑音のおかげで、目が覚めてしまった。


「誰だろ。大家さんが掃除でもしてるのかな。」


一度聞こえ始めてしまった音は、もう目を瞑って意識しても消えることはなかった。ひとまず、顔を洗ってさっぱりしよう。

雑音というよりは、物を置くような音。空いていた部屋に新しい人が来ると大家さんが言ってた。ということは、僕のいる学校に転校生。それはつまり、巫女。


(巫女が新しく来ると言っていた。隣に住む学生が、僕と同じ巫女なのか。)


そう思うと、少しばかり緊張してきた。学校で会うかと思ったが、挨拶を交わすのはわりと早いのかもしれない。知らないふりして居留守を使うのも何だし、挨拶だけしておこう。ついでに買い物にでも。時刻は9時を回っていた。

僕は出かける支度を整えると、靴を履いて扉を開けた。すると、同時に隣の部屋の扉も開いた。通路を塞ぐ形に開かれているので、私は一先ず自分の部屋の扉を閉めた。


「燈香、お財布持った?」


「大丈夫だよ、凛ちゃん。」


声が二つ聞こえた。やはり巫女なのには間違いなさそうだ。すると、扉が閉められはじめ、姿を現したのは2人の女の子だった。扉に鍵を閉めるポニーテールの女の子と、今私と目を合わせた栗色のショートカットの女の子。そして扉を閉め終えた女の子も、僕に気がついた。


「初めまして。お隣に住むことになりました龍造寺燈香です。よろしくお願いします。」


「初めまして。東郷凛です。」


燈香と名乗った女の子は柔らかく笑顔で紹介を終えると頭をペコっと下げ、凛と名乗った女の子はさっぱりとした挨拶の後少し頭を下げて挨拶をしてくれた。


「初めまして。南雲歌月です。」


3人で挨拶はとりあえず交わしたが、さてどうしようか。いきなりだと思うけど、巫女がどうか聞いてみるかな。


「君も、巫女か?」


先に聞いてきたのは、凛であった。僕は草薙から話を聞いていたから予想はしていたけど、2人も僕の情報を聞いていたのだろう。


「うん。」


僕は返事をして頷く。答えを聞いた2人は少し驚いた表情を浮かべ、顔を見合わせた。それから凛は僕を見ると、真剣な眼差しで提案する。


「よかったら、ゆっくり話ができる店を知らないか?」

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