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戒結の儀  作者: 三歩
第一章
8/11

在り方

夜明け。少しずつ太陽が僕が住む街に、太陽の光が降り注ぐ。少しずつ昇っていく太陽と一緒に、町に街に住む人たちも動き出す。いつもどおりの毎日。

 僕はというと、昨日帰宅してから眠れずにいた。目を閉じてベッドへ横になっているが、意識があるまま目を閉じている。いつか眠れるという期待はしていなかった。基本は頭を置くべき枕を、腕の中で抱いていた。お風呂上りのシャンプーの香りが仄かにするのが、少し気分を紛らわしてくれている。


(「痣が肩まで進行していただけだ。安静にしておけば明日の朝に背中まで退く。」)


 昨日、僕が意識を失ってから草薙が保健室に運んでくれたことを知った。日が暮れて辺りが暗くなっていたが、草薙は僕が目を覚ますまで近くにいた。それから目を覚ましてみれば体の心配に始まって、


(「痣の進行が早いぞ、この馬鹿が。無理に引き出そうとしただろ。あれほどの小規模な異変でしか形成されなかった亜神に苦戦するなら、役立たずでしかない。」)


 グサグサと来る罵声と説教。


(「いいか、今のお前は他の巫女と違って一人だ。力の消費が多くなるのは分かる。だが、お前が一番分かっているだろうが今日も言っておく。」)


 草薙が言っていた言葉を、頭の中で何度も繰り返していた。


(「お前が死ぬことは、この街が死ぬことになる。もしお前が最後の巫女となっていれば・・・わかるな。」)


 巫女に選ばれたからこそやるべきこと。それは、僕が一番理解しているつもりだ。


「そんなことわかってる、ばーか。」


 だから、アイツにそんなこと言われて腹が立ち、こんな感じで悪態をついている。でも、その苛立ちは僅かであり、本当に恐いのは最後の言葉だけ。


(「お前が死ぬことは、この街が死ぬことになる。もしお前が最後の巫女となっていれば」)


「亜神がこの世界に降り立つ。巫女として戦ってきた亜神がそのまま出てくる。」


 答えを繰り返すうちに、呟いてしまう。亜神の姿が、脳裏を何度も過ぎる。

 あんなものがもし現実となったら、人間はどうやって戦うのだろう。何度も何度も倒して、戒結ノ儀を行ったとしても、亜神は生命が存在する限り生まれ続ける。


 終わりが見えない。いつまで戦えば良いのだろう。


 亜神に負けそうになった瞬間を思い出しては、また頭の中で会話が繰り返される。


 ピピピピピピピ・・・・


 それは唐突に、携帯電話の音が響いた瞬間になくなった。一瞬電話だと気づいて体を起こしたが、この携帯が鳴らすリズムを聞いて肩を落とした。


「もう七時半か。どうせなら目覚ましを切っとけばよかった。」


 僕がこうなってしまうことを予想したのか、草薙は休むよう僕に言った。今日は学校を休み、安静にすることが決まっている。思い出したから、ゆっくりと僕の体が傾き、ボフっと布団へと体がまた倒れる。


「さすがに、今日は出ないよね・・・。ふ・・・あぁ。」


 欠伸がでた途端、眠気が一気に襲ってきた。外から聞こえる人の声や車が走る音、太陽の日差しは部屋の温度を少しずつ上げ、心地よくなってくる。そして雀がベランダで小刻みに鳴いているもんだから、直ぐに眠ることができそうだ。久しぶりに、熟睡できる。


(「それとお前、昨晩のメールを最後まで読んでないだろ。」)


 唐突に、最後の最後で草薙の一言が思い出された。


「そうだ・・・、そんなこといってた。」


 このタイミングで頭の中に出てくるとは、邪魔な奴。とりあえずもう一度体をなんとか起こして、パソコンの起動スイッチを押す。いつもの通りメールを確認すると、新着が一件あった。


「あ。」


 送り主の名前を見て驚いた。鏡さんからだ。既読メールを画面いっぱいで見る限り、この一通以外は草薙からの『報告 ○日』という件名で始まる内容だ。鏡さんからのメールにある件名は『おはようございます。』であった。草薙のメールを読み返す前に、まずはこっちを見るため中身を開く。


「もう学校へ行ってると思うから、メールにて失礼します。昨日草薙から報告を頂いた、亜神について。

 今回は恐らく、『孤独の中でもがく心』、『自らの在り方を失った心』だと思う。

 助けを求めていたようだが、近くに自分を救ってくる者はいなかった。自分が持つ苦しみを解き放つべく、何度も抗おうとしたが、叶わないまま埋もれてしまったことで雷という別の形がこの世界に現れた。そんな中で、自分が持つ苦しみを解き放つべく更に変異をしようとしたが、南雲さんのお陰でそれ以上の被害が出ずに済んだ。

 

 よくニュースでも見ると思うけど、無差別な人の感情が起こす事件が在り方を失った人の姿なのだと僕は思う。その人の苦しみに気づける人がいれば、亜神に付けいれられなかったかもしれない。


 数件前の情報として、無数に現れる腕は確認されている。内容は似ていて、手足を動けなくして本体が攻撃。その時は、〈巫女が2人〉だから問題なく戒結ノ儀を行えたらしい。」


 巫女が2人。そこに僕の目が留まった。草薙がそういえば、何か言いかけていたような気がする。


「確か、今のお前は1人だ・・・みたいなことを。」


僕は直ぐに受信フォルダへと戻り、草薙からのメールを開く。面倒くさい台詞が長いのでクルクルとダイヤルを回して画面をスクロールする。そして、ようやく当てはまる言葉を見つけた。


「まだ亜神の活動は衰えていない。いい加減に力の使い方をコントロールしろ。 

 あと、お前の学校に巫女が来る。人数は2人で、お前と同じ歳だ。受け入れるクラスは新谷が担当するということは、お前の教室だろう。明日ホームルームが終わり次第、一度屋上に来い。」


 と、書いていた。だが、昨日は結局「体休めろ」「痣が引くまで」という話で終わっていて、結局詳しくは聞いてないままとなっていた。直ぐに聞きたいが、草薙は教師であるため今は学校かも。向こうから連絡するということで、また夕方まで待つとしよう。


「あ、鏡さんのメール。」


 思い出した、まだ最後まで読んでいなかった。再び鏡さんのメールを開き、続きの文章を探す。



「その時は、巫女が2人だから問題なく戒結ノ儀を行えたらしい。亜神の強さには定まる結論がまだないから、これから出会う亜神によっては更に苦戦するかもしれない。なんとかこの巫女と南雲さんが共闘できれば、少しは消耗を抑えられると思う。

 亜神の活動、巫女の動き、戒結ノ儀。これらは全て、南雲さんにしか聞こえない<声>が何よりも必要となってくる。南雲さん、亜神との戦いが続くかもしれないけど、どうか気をつけて。私は私なりに、南雲さんから頂いた情報を元に、もっと亜神のことを調べてみる。少しでも南雲さんの力になれるよう頑張る。それが、私が南雲さんに出会って気づいた、私の役目でもあるし、そんな自分で在りたいから。

 引き続き、報告をお待ちしてます。 鏡。」


 自分で在りたい。鏡さんの言葉に、僕の心臓が少し鼓動を強く打った感覚が伝わる。心を打たれた、そんな気がした。


「僕も鏡さんと出会うことができて、自分の在り方を見つけています。巫女になってしまったことは変えられないけど、僕自身を見失わないように、頑張ります。」


 自然と出た言葉だったが、気づいたら返信メールへとそのまま打ち込んでいた。送信ボタンを押し、メールが流れた。後は鏡さんが見てくれたら、それで安心する。

 ふと、鏡さんの文章の続きが隠れているのに気づき、僕は少しだけスクロールしてみた。


「追記:疲れを取るには温泉が効能らしいから、気晴らしに言ってみると良いよ。僕もたまに行ってるけど、あれは気持ち良い。是非、試してみて。」


 そこで、文章は終わっていた。しかし、最後の追記は一体・・・。


「鏡さんらしいといえば、らしいな。」


 唐突な温泉の効能で始まる気遣いが、ぎこちないように伝わってくる。でも、鏡さんの励ましも沢山伝わってきた。


「今日行ってみるかな。」


 一度睡眠を取った後で。パソコンを閉じ、ベッドへと横になって毛布を掛ける。今から、良く眠れそう。


「自分自身の・・・在り方か。」


 そう最後に呟きながら、いつの間にか僕は寝息を立てていた。


 意識がなくなるほどの深い眠りに付いた後、僕が住むアパートへと近づいてくる人がいた。

 赤色の長髪は黄色の細いリボンで結び、腰までの長さがある。身長は隣にいる少女と比べても高く、どこかの学校の制服を着ている。

栗色の肩まであるショートヘアーで、左の前髪を林檎のアクセントが付いたピンセットを付けている。そして、隣に居る少女と同じ制服を着ている。


「あらこんにちは。新しい入居の方達だね。」


 その2人に、管理人さんが挨拶をする。そしてその2人は、僕の住む部屋の隣へと案内されるのであった。



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