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戒結の儀  作者: 三歩
第一章
4/11

人は誰しも

 制服を着て、登校の準備を始める。鞄の中身を確認してみたけど、特に忘れ物はない。玄関に置いた通学用のシューズを履き、扉を開く。玄関の先には、町並みがあった。背の高さが同じ家々に、長方形の少し背の高いビルもあり、僕が通う学校の姿も見える。

 アパートの階段を降りて、自転車小屋へと向かう。


「あら南雲さん。おはよう。」


 歩いていると、降りてきた階段のほうから声が聞こえてきた。振り返ると、昇降階段の後ろから管理人のおばさんが顔を出していた。手には箒を持っており、庭を掃除していたみたいだ。


「おはようございます、管理人さん。」


 挨拶を交わした後、管理人さんは笑顔を一度僕にみせてくれた後、掃除へと戻っていった。僕も再び自転車小屋へと向き直り、ピカピカにこの前磨いたばかりの自転車に跨る。ペダルへと足を掛けて、アパートの塀を抜けて道路へと走り出す。今日はとても晴れていた。まだ梅雨入り前だから寒い日もあるけれど、今日は日差しも温かくて、思い切り自転車を漕いでも風が気持ちがよい。春には桜がとても綺麗に咲く商店街前の通りを抜け、少し急な坂を登る。道のりはとても覚えやすくて、学校に通い始めたあの時から今も助かってる。

 今日も無事に、学校に着いた。いつ見ても、ここの学校は大きかった。校舎は正面から見て3つ、この後ろにも後者が4つ程別に存在し、数えないと把握できない。因みにいくつあるのかまでは、僕は数えたことない。校門前で自転車を降り、そこから自転車を押しながら歩いていく。校門の前には挨拶をしている先生と、多分生徒会の人たちであろう、制服を着た男女が数人立って同じく挨拶をしている。


「おはよう。」


「おはようございます。」


 先生は生徒達と挨拶を交わし、生徒同士も挨拶を交わしていく。笑顔で楽しそうだ。そして僕も、校門をくぐった。


「おはようございます。」


 僕はまず、先生に挨拶をする。


「ん?あ、ああ。おはよう。」


 先生の挨拶は、他の人と違った挨拶をしてきた。少し真面目な顔をして、僕が横を通り過ぎるときに見ている視線があると、ちょっと感じた。そして、数人で立っている生徒達が僕の姿を見つけると、先程までの笑顔ではなくなっていた。


「おはようございます。」


「お、おはようございます。」


 僕の挨拶に答えてくれた皆、こんな挨拶を交わしてきた。緊張したように、挨拶する姿勢が固かった。そして彼らも、僕が横を過ぎる間も視線を僕に向けていた。実際は、周りにいる一緒に校門をくぐってきた皆も、僕を見ていた。でも、僕は慣れ始めていた環境だから、気にはしていない。皆が慣れるのには時間がかかると思う。遠くから見れば、藍色に統一されたブレザー制服の中に、青いリボンと長襟のセーラー服を着ているのは、僕だけだ。


「南雲さん。おはようございます。」


 下駄箱で上履きに履き替えていると、男性教師が僕に声を掛けてきた。


「おはようございます。新谷先生。」


 僕が呼んだ新谷先生は、細身で身長が高く、白髪がある。でも、先生の年齢は誰が見ても、20代の先生にしか見えない。そして声も、とても若い。まだ未成年の私が言うのもなんだけど、本当に若い先生だ。


「教室に行く手間が省けたよ。ちょっと職員室に来てくれるかな。」


「はい。」


 新谷先生の後を、私は歩いてく。職員室に入り、


「ちょっと待っててね。」


 閉じた入り口を背に、新谷先生は自分の机へと向かうのを視線だけで追う。でも、やっぱり周りを見たくなったから、見渡した。

 十数人の先生たちが居るけど、皆声を出さずに黙々と作業をしていた。プリントを分け、名簿を開いて何か書いていたり、ノートパソコンを操作している。


「南雲さん、はいこれ。」


 声に気づいて前を向くと、新谷先生は僕へと何かを差し出していた。見てみると、『104』と書かれた手の平に収まる赤いシール。数字の上には学校の名前が書いてある。


「この間書いてもらった自転車通学のプリントの提出が終わったから、これを自転車の見えやすいところに貼っておいて。ここは校則が厳しいから、よろしく。」


 手渡してくれたシールの付け方を教え、最後は小声で言ってきた。確かに、教師が校則への文句を言っているなんて周りの人に聞かれてはいけない。


「わかりました。」


「それと、制服の手配なんだけど。」


 新谷先生は一度言葉を区切った。そして困ったように眉を寄せ、話してくれた。


「ごめんね、もう制服は残っていなかったんだ。沢山あると言っていたのに、本当に申し訳ない。」


 僕に頭を下げてきた。


「先せ。」


 僕は先生に頭を上げてほしくて声を掛けようとしたけど、一瞬だけ言葉に詰まってしまった。少し申し訳ないと思っていた僕の気持ちだったけど、凄く、申し訳ないお願いをしてしまっていた。すると、私の背後にある職員室の扉が開いた。



「橋本せんせー!この間言ってた話、制服取って置いてくれてましたかー?」


 元気良く、女子生徒が入ってきた。私は振り向かなかったから、頭を上げた新谷先生の後ろの席にいる橋本先生の表情が、よく見えた。


「・・・こ、こら!職員室で大きな声を出すな!」


 生徒の声よりも明らかに大きい声量で怒鳴る橋本先生。周りの先生達も驚き、こちらへと視線が集まった。


「えっ・・・!・・・あ。」


 震える生徒の声が後ろから聞こえる。最初の声は怒鳴り声に驚いた様子だったけど、次の言葉で恐らく僕に気づいたんだと思う。橋本先生は一瞬僕と目が合ったがすぐに逸らし、立ち上がると反対側の扉へと向かう。後ろにいた生徒も再び扉を開けて、廊下へと出て行った。2人が動いた後、静止していた職員室の雰囲気が再び動き出す。止まっていたときを思い返せばそう。


 制服の話が出たとき、先生達は僕と新谷先生のことを無視するかのように、視線を逸らし、何気なく作業をやり始め、聞かない振りをしていたからだ。


 僕は分かっている。だから、僕は何も思わない。


 そして、新谷先生も僕に対して、謝る必要なんてない。


「・・・先生、僕は大丈夫です。他の学校でも、今同じことになっているんですから。だから、大丈夫です。」


 僕は改めて先生に声を掛けた。本当に、優しい先生だ。


(痛っ・・・!)


 今、背中に痛みが走った。それは感覚が短かった。でも、次に起きることが分かる。すると突然、体が振動するほど轟音が聞こえた。


「な、なんだ!」


「地震!」


「違う、落雷だ!外を!」


 先生達が音に驚く中で、一人の先生が外へ指を差す。新谷先生は椅子から立ち上がり、窓へと集まっていく先生の姿を僕と一緒に見ていた。


 また、亜神が暴れてしまったんだ。

漫画から知識をまたひとつ頂いた。「簡単に『嫌い』に裏返ってしまう反対語の『好き』が消えないように、特別になるように、きっと『好き』になる気持ちに願いをこめてつけた『名前』が、『恋』なのでしょう。」深い。

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