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戒結の儀  作者: 三歩
第一章
3/11

始まった日と始まる日

「今日は、大樹のような姿となった亜神でした。とても大きく成長をしていて、苦戦してしまいました。」


『大樹か。その特徴は以前の情報からも記録がある。歪な成長をした体に、無数の触手が生えている。流れ出る体液には毒となる瘴気があり、まともに浴びれば触れた箇所から痺れ、酷い場合は意識を失ってしまう。

 この亜神が生まれる原因としては、『我慢しなければいけない心』と『成長できない心』が壊れたからだ。」


「我慢。自分の気持ちを、抑え続けていたから。」


『形が人間から離れれば離れるほど、そういった成長する観点からの原因が大きいみたいなんだ。その亜神が成長を続けていくと、起きる天変地異としては、噴火が確立として起きていたところだ。以前の攻撃性の高い『欲求が強い心』『自分を変えたい心』で生まれたあの亜神だと、天変地異は地震。』


 鏡さんは時節口調を変えながら、僕に教えてくれる。時節、耳からは本や紙をめくる音が僅かに聞こえてくる。電話をするときは、いつもこんな感じ。教えてくれる内容には確実というものでは無いと、鏡さんがよく言う。でも、鏡さんはこうした現象を調べているらしく、亜神のことに関してもとても詳しい。


『―今日も情報をありがとう。また少し、亜神のことについて調べる内容が深くなる確信がいくつか増えた。』


「お役に立てて何よりです。僕も、少しだけ勉強させていただきました。」


『・・・南雲さん。』


「はい。」


 鏡さんの口調が、また少し変わった。これは、どんな感情なんだろう。少しだけ、無言の時間が流れた。

そして、鏡さんの声が再び聞こえた。


『・・・また明日からも、学校頑張って。」


鏡さんは、役目だからと言って会話を誤魔化すことがよくある。素直じゃない人だなと感じるけど、それは本当なのかもしれない。それほどに、鏡さんの気持ちを抑えなくてはならない程、役目が重要だから。そんな鏡さんが、ほんの少し、本当の鏡さんに戻る瞬間があった時、僕は気づけるようになった。


『・・・気をつけて。私も全力で、君を助けられる方法を探すから。』


「・・・鏡さんも、無理しないでください。僕もこの世界を、鏡さんを守って見せます。」


 役目だから。そんな言葉を言わない瞬間。それが、唯一僕達に残った、人間であった時の心なのかもしれない。




 眠りについた僕の中に、またあの時の光景が夢に出てくる。


 突然の地鳴り。地面が割れ、一瞬で段差が出来上がる。建物が亀裂と共に崩壊し、崩落した物が行き交う車や人間を押し潰していく。亀裂が無数に増え始め、揺れの恐怖におびえた人たちの足元にも亀裂が走り、割れた地面へと人が落ちていく。


 崩れ落ちる騒音よりも、人々の絶叫が耳を劈いていく。そしてその光景は大通りから高くなっていき、街を空から見ていた。巨大なビル群が縦に崩れていったり、横に入った建物の亀裂から横に倒れていく。亀裂から土煙が立ち昇り、人が住む街を次々に飲み込んでいく。やがてその亀裂の中でも、巨大な亀裂が街を囲むように走っていた。無数の建物を囲むように広がる大きな亀裂が走るたびに、人や建物、木々や乗り物が飲み込まれる。やがて囲んでいた亀裂が、円状に出会った。



 街が、陥没した大きな穴へと、落ちていく。


 そこで、暗闇に変わった。




 瞼を開くと、窓から朝日がカーテンから差し込んでいた。横になっていた体を、僕は起こした。ベッドから立ち上がり、カーテンの前に立つ。


「今日が始まった。」


 僕は1人呟き、カーテンを手で握る。ゆっくりとカーテンを開け、窓が姿を現し、朝日が視界へ大量に当たり、眩しくて少し瞑る。そして大きな窓を開けると、幅の狭いベランダがある。ベランダへ視線を落とし、少しして朝の明るさに目が慣れてきた。



 僕は目を開けると、光景が視界に入ってくる。


 小鳥が十数羽、僕のアパートの上を通り過ぎ、視線の先へと飛んでいく。前を見ている間、ずっと鳥の姿は見える。太陽も、少しだけ浮かぶ雲も。


 そして、境界線が地平線の彼方まで続く、大きな穴も。



 都市がひとつ、陥没してから30日が経った。そして今日が、31日目として始まる日。

音楽を聴きながら小説が浮かびます。このお話が生まれた音楽は、完結したお話のあとがきでお伝えします。

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