手つなぎ
こんなに自然に手が繋ぐようになったのはいつからだっただろう。
ふたりで歩く時はいつもどちらからともなく指が絡まる。
それは別に当たり前のこと。
それは買ったばかりの磁石みたいなもの。
わたしは初めて手を繋いだときを思い出した。
それは随分前で、手を繋いだこと以外は殆ど忘れてしまっているくらい記憶は薄い。
いつものように並んで歩いてふと互いの手に触れたとき。
その時もどうしようもない位今と変わらないわたしときみだった気がする。
いつの間にかふたりの指は絡まって、ふたりとも同じくらいの強さで互いの手を握った。
手を繋ぐ意味なんてわかってなくて、それも今と変わらないし
手を繋げば何故だか気持ちが共有できるきがしているのも今と変わらない。
ただただ手で繋がっていることが幸せで、温かくて、ただ並んで歩くだけよりもずっと有意義に感じた。
見た目はゴツゴツしたきみの手さえ、手を繋げばふわふわした雲みたいに思えるくらい嬉しくてわたしは手を繋ぐのが好きになった。
それからずっと二人で歩く時、きみとわたしは手を繋ぐ。
「…なんで手、繋ぐんだろうね」
ふとわたしは強弱をつけてきみの手を握りながら呟いた。
「簡単に繋がれるからじゃない?」
すぐに返ってきた返事に2回瞬きをした。
「……簡単に繋がれるって?」
「…ほら、人間の体で一番簡単につながれる場所だと思わない?」
きみの言葉をきいてわたしは繋いだ手を見つめる。
キス、は歩きながらできないし
二人三脚も正直かなり不自然だ。
他につながれる場所は、ときみのことを頭のてっぺんから足の先までジロジロ見てみたけれど思いつかない。
「……あ、…そうなのかもしれない」
一通りきみの体を見てから思いついたようにパッと顔をあげるときみはくすりと笑った。
きみは返事をする代わりに強弱をつけてわたしの手を楽しそうに握る。
なんだかわたしは嬉しくなる。
ただ手が繋がってるだけなのに、
ただ手で繋がってるだけなのに、
こんなにわたしの中に太陽が出てきたみたいに体がポカポカするのはどうしてだろう。
「…じゃあさ、繋がる意味は?」
どうして繋がる必要があるんだろう。
ますます不思議になってきみに聞くけれど、今度はきみもすぐに返事は返ってこない。
「…なんでだろうね?」
答えは返ってこない。聞き返されてしまった。
ふたりで先までずっと続く田舎の道をみつめながら首をかしげる。
「………なんでもいっか、…」
きみの顔を見ながら一度立ち止まってわたしは笑いながら言った。
一度だけそっときみから手を離して、もう一度丁寧に手を繋いでみる。
「…やっぱここがしっくり来る」
きみはキョトンと目を丸くするけどそんなのお構い無しに繋いだ手をブンブンとふってもう一度歩きだす。
「はぐれないように!……ね、」
なかなかついてこないきみにわざとあきれたように振り向くと、いままでよりずっと強くきみの手を握って歩き出した。
感謝しなきゃいけないひとは、
繋がれる手を作ってくれた神様と
手を繋ぐことを思いついたどこかの町の人
それからわたしと手を繋いでくれるきみ。