【カグー】
やがて客たちは食堂に招かれました。
食卓ではさらに二人の女中と一人の執事の姿がありました。
この大きな屋敷は人影が少なく見えていましたが、ちゃんと大きさに見合っただけの人が働いていたのです。
いつもは無視されこそこそしている使用人たちが主人の留守を聞きつけてのびのびと働きだしたのかもしれません。
その主人の席には空の食器だけが準備されていました。
ちょっと居心地の良くない食卓は大して会話も多くありませんでした。
でもボーは初めて見るご馳走を入る限りおなかに詰め込みました。
客たちは食事の後には二階にある寝室に案内されました。
大きな寝室にはやはり豪華な家具や調度品がいっぱいで、人数分以上にあるベッドも一つ一つがいっぺんに何人も寝れる程の大きさがあって、ふわふわの布団が敷かれていました。
大人たちは寝る前にちょっと一杯と、膝を突き合わせてお酒を酌み交わしました。
お酒の肴はさっきの出来事でした。
でも新しい真実は何も無かったので、さっきのは魔法だったのか、グランディスさんは豚になったのか、一体何が起きたのだろうか、結局は何度も同じ話を繰り返すばかりです。
この酒盛りの最中、ボーはカグーのベッドの横に呼び出されました。
カグーはボーと同じ色の借りた寝巻きを着ています。
カグーの乾いた髪は頭の上でソテツの木のように立ち上がっています。
ソテツの幹は三色の革紐で彩られています。
この髪型だと今までで一番カグー顔がはっきりと見えます。
「変かしら?」
ボーはまた思った通りに言えずにただ首を振りました。
今回も照れてしまったのです。
でもカグーはボーの照れた表情に満足して微笑みを返しました。
カグーはもうすっかり元気を取り戻していました。
さっきはあんなに取り乱していたのに、今ではこの部屋にいる誰よりもくつろいでいるくらいです。
「もう大丈夫なの?」
ボーが訊くと、カグーはにっこりと頷きました。
そして大人たちまでは届かないくらいの声で話し出しました。
「さっきあの豚がしゃべっていたでしょ?」
「うん」
「だからきっともう二度としゃべれないと思うの」
カグーに言われて、ボーは鶴にかけられた魔法を思い出しました。
「ひとたび人の言葉を口にした後には……」
カグーはボーにさらに近づいて、最高の笑顔を輝かせながら言いました。
「ありがとう」
そしてどこに隠していたのか、懐から果物を取り出して両手でボーに差し出しました。
今やっとカグーと同じだけの事を理解したボーは、カグーと同じくらいの笑顔でそれを受け取りました。
「どういたしまして」
「一つしか残ってないの。後は自分で食べちゃったから」
それは、ところどころ傷み始めている小さめの桃でした。




