【魔法の秘密】
外で突風が吹くと室内の気圧が急激に変化しました。
それを合図に、いつの間にか忘れていた現実の感覚が聞き手たちに戻ってきました。
グランディスさんは小粋に軽く両手を広げて見せました。
話はおしまいという意味です。
まず初めに口をきいたのはユメッソスさんでした。
「この最高大臣というのは……」
しかしグランディスさんは続きをしゃべらせないように話をさえぎりました。
「さあ、どうでしょう?」
ユメッソスさんが何を聞こうとしたのかはわかりませんが、少なくともボーの話の時のように茶化そうとしたわけでないのは確かです。
「今の話は……」
続いてダンクさんが口を開きましたが、疑う事が失礼に当たるかもしれないと思い途中で口ごもってしまいました。
「もちろん本当にあった話だ」
しかしグランディスさんは今回も先回りをして答えました。
信じることができなくても当然だという顔です。
そんな中、ボーは思った事を素直に聞きました。
「妖術と魔法は違うの?」
グランディスさんはボーに答えました。
「魔法という言葉は、偶然や手品などと境界がわからないからな。本物の術師は魔法などというあやふやな言葉は使わないのだ。意味は一緒だ。言葉だけの違いだ」
ボーは、やっぱり魔法は存在するんだ、このグランディスさんは魔法に詳しいんだと確信しました。
「魔法って、何でもできるの?」
「何でもだ。食べ物を出す事もできれば、金も作り出せる。物に命を吹き込む事さえできる。妖術は万能だ。術者の技量さえ充分なら、人の思いつくあらゆる事が可能だ」
グランディスさんは自慢げに言いました。
「でもそれなら、妖術王のおじいさんも奪い合いなんかしないで、魔法で作れば良かったのにね」
「ふむ。もっともな意見だ、」
グランディスさんは認めました。
「しかしあの老人には何を作れば良いかすらわからなかっただろう。そしてそれを作るだけの技量があったかどうかも疑問だ」
ダンクさんはまた質問をしました、ただし今度は充分に言葉を選んで。
「呪文を言うときにルールがありましたね。何かをしない限りとか言っていた、あれは何でしょう?」
「うむ、良く気がついたな、妖術には打ち破る条件を添えて唱える必要があるのだ。ただしこれは適正な重みのある言葉でなければならない。専門的には反言量が合わなければならない、と言うのだが、これにも定まった律があり、正しく設定するには才能と訓練が必要なのだ」
グランディスさんはすらすらと得意げに説明しました。
明らかに魔法の事となると今までよりずっと饒舌でした。
「まあ、そこが妖術の本質なのだが、詳しくは言わない。どうせ君らには理解できんだろう」
「うん、ぜんぜんわからないや」
ボーにはグランディスさんの専門的な説明はさっぱりでした。
「それで、グランディスさんも妖術を使えるの?」
ボーがすんなりと訊くと、周りの皆はどきっとしました。
もしこの世に魔法があるならば、やけに詳しいこの若者も魔法使いなのではないかと疑い始めていたのです。
「いや、」
グランディスさんはあごを振りました。
「残念ながら使えない。長年自分なりに研究を続けたが、ついに秘術を教えてくれる師匠を見つける事ができなかったのだ」
それを聞くとユメッソスさんもダンクさんも安堵の息をつきました。
逆に、それを聞いたボーは心の中で叫びました。
「師匠を見つければ魔法を教わることができるんだ!」
ボーは今、自分の知りたかった事の一部を手にしたのです。
ずっと心配顔をしていたボルドさんはおそるおそるグランディスさんに訊きました。
「もしやグランディス様は、今のお話に出てきたそのお宝を探していらっしゃるのですか?」
「いや、違う。今の話は魔力を持つ品の一例に過ぎない。世の中には魔力を持った品が他にも数多くあるはずだ。私はそういう物が欲しいのだ」
ボルドさんはそのお宝じゃないと聞いて少しだけ安心しました。
魔法使い同士の戦いに巻き込まれでもしたら大変です。




