【家】
農場から家のある山のふもとまでは、歩いて四日もかかりました。
こんな遠い田舎から九歳の子供を連れて来たなんてびっくりでした。
でもとうとう見覚えのある山並みが現れました。
意気揚々と昼までかかって山を登ってみると、家族が居るはずの家には知らない人が住んでいました。
その家族は、前の住人たちは何年も前に相次いで死んだらしいと言いました。
僕は、手紙が届かなくなってから何度も不吉な想像をしていました。
もしかしたら母が手を痛めて字がかけなくなったのかもしれない、もしかしたら父が重病でそれどころではないのかもしれない、それともまだ小さい弟が死んでしまって……
でもまさか家族四人全員が死んでしまったなんて言うのは想像もできませんでした。
僕は帰る家も家族も無くして山を降りました。
道が平らになるほど山を下った頃に、やっと集落の人に詳しい話を聞けば良かったと思い付きました。
でも、わざわざもう一度山を登って、家族の死んだ話を聞きなおす気にはなれませんでした。
山を振り返ってももう家は見えず、木々がごうごうと風に揺られていました。
僕には木のざわめく音も自分の周りを吹く風も、とても遠くに感じられました。
僕は来た道を引き返しながら、楽しげなふしで歌を作りました。
「悲しくなんかないさ
今一人ぼっちになったわけじゃない
二年前から一人だったんじゃないか
六年も前から会えなかったんだもん
今更悲しくなんかないさ」
でも、歩きながら歌うその歌はやせ我慢だったので涙がこぼれました。
ただ、この辺りは田舎なので人に涙を見られる事はありませんでした。
強い風だけが何度も僕を追い抜いていきました。
やがて、あきれるほど高いフープ松が道の脇に一本だけ生えている場所まで来ました。
もう陽が傾き始めていたので、僕はその大木の根元に寝転がりました。
そして、腕枕の向こうに街道を眺めながらつぶやきました。
「どうしよう、農場に戻ろうかな。給金をもらえば好きな物を買って食べる事もできるぞ。でも農場でなくてもいいんだ。ハックさんは昔町で、キーンさんは炭鉱で働いていたって言うぞ、僕は鍛冶屋や馬飼いになっても良いし、海で暮らしたっていいんだ。やり方はわからないけど自分が農場主になったってかまわないんだ」
「でも今はおなかが減ったな」
僕は家までたどり着ければ何か食べれると思っていたのです。