【弓】
ボーが席を離れている間に話題は売り買いの話に変わっていました。
きっとダンクさんたちがうまく導いたのでしょう。
「ユメッソス様、あなたがお持ちになっていた弓、あれは逸品です。あれならどこへ行っても欲しいという人はいくらでも見つかるでしょう」
「だろうね。自慢の弓だよ」
「あれを私に譲ってはいただけませんか?」
「売る?とんでもない、あれは一番のお気に入りだから常に持ち歩いているんだ。あればかりは死んでも手放せない」
「なるほど、お値段の問題では無いのですね。それではあきらめるしかありませんね」
「うむ、すまないな。家に帰れば売ってもいい弓が何十張りとあるのだがな」
ユメッソスさんは茶碗とグラスを置き換え、グラスの方のお酒を飲みました。
ユメッソスさんはお酒をたらしたお茶よりも強いお酒の方がお気に入りのようです。
「はい、あきらめますよ。お金持ちの方から物を買うのは難しいのです。何しろ私どもと違って小金を欲しがりませんから」
ダンクさんがまるですねているかのように言うと、ユメッソスさんはちょっぴりむきになりました。
「いやそんな事は無いのだよ。手放して良い物だってたくさんある。本当にあの弓だけが特別なのだ」
ダンクさんは、眉を下げた笑顔をユメッソスさんに向けました。
「どうせお愛想で言っているんでしょう」
するとユメッソスさんは愛想ではない事を示しました。
「よしそれでは我が家に来る事があれば見せてあげよう」
「本当ですか?えーと?」
「おお、河を上流に戻って行けばムイサナナと言う村がある」
ユメッソスさんは自宅の場所を教えました。
「ムイサナナの?」
この辺りの地理にあかるくないダンクさんはユメッソスさんの言葉を聞きながら場所を想像していきました。
「小さな村だから迷いはしない、城は一つしかないからすぐわかる」
「ああ、はい」
なんと、ユメッソスさんは一つしかないお城を自分の家と言いました。
「まあ村とは言え、さらに南のキクオン国よりは大きいんだがな。何しろ百年程昔まではムイサナナは一つの国だったのだ」
ユメッソスさんは少し自慢げに、この地元の者なら誰でも知っている常識を教えました。
「はい、ありがとうございます。近いうちに必ず伺いますので、その時には見せてください」
ダンクさんはすごくうれしそうに言いました。
ユメッソスさんが結構な村の領主だとわかったからです。
弓の買取交渉には失敗しましたが、領主様のお城に客として尋ねて行く事ができる身になれたのです。




