【灯】
「石なのにすごいんだね」
ボーは隣に座っているカグーにそっと言いました。
何しろボーは金だの宝石だのには縁が無く、目にするのは今日が初めてだったのです。
もちろん話では聞いた事はあっても欲しいと思った事さえありませんでした。
見ると、カグーは小さくなってうつむいています。
そして布にくるまれた顔を上げないまま小さく頷きました。
布の隙間から覗く視線もテーブルの上に落とされたままで、左肩に乗っている髪が冷たく光り、少し震えているようにも見えました。
ボーはダンクさんに声をかけました。
「寒いね」
ボーが目配せをすると、ボルドさんはすぐにカグーの様子に気が付いてくれました。
ボルドさんは眼鏡をかばんにしまうと、今度は金属でできた容器を出して言いました。
「グランディス様、私は雨に濡れたせいか少し身体が冷えました。これは先ほどの物とはまた別のお酒なのですが、お茶に少したらすと格別なんです。全員に行き渡るだけありますので、一杯お茶をご馳走してはいただけないでしょうか?」
「ああ、もちろん」
グランディスさんは、ユメッソスさんがつまんでいる指輪に顔を向けたまま軽く了解しました。
グランディスさんがひょいと手を伸ばして鈴を鳴らすとすぐにアリーさんが飛んできました。
アリーさんはグランディスさんにお茶と暖炉の火入れを言いつけられるときびきびと出て行きました。
ボーは皆が話しているテーブルからそっと立ち上がり、部屋に戻ってきたアリーさんに相談を持ちかけて、暖炉の前に台を持ってきてもらいました。
暖炉に火が入れられると火は明るく燃え上がりました。
嵐のせいで部屋の中は時刻よりも暗くなっていたのです。
ボーは皆のぬれた服と靴を集めて、その台や暖炉の回りに干しはじめました。
服を干すのに手が必要だったので、ボーは羽織っている布を半分に折って腰に巻きました。
丁度ボルドさん同じで上半身は裸です。
でももう上半身も頭も大方乾いていたし寒くはありませんでした。
アリーさんは暖炉に火を入れた後、天井から下がるガス燈に長い棒で灯を点けました。
長い棒の先はどういうつくりなのか、火を付ける間花びらに隙間を明けられるようになっていました。
天井から下がっているガラスの花は照明となって部屋を照らしました。
ろうそくよりもずっと明るい光で、ボーは思わずしばらく見つめてしまったほどです。
ボーが皆の服を乾かしていることに気が付いたダンクさんは手を上げてお礼の合図をくれました。
ボーはみんなの服を広げながら窓の外を見て、こんな大雨だと野生の動物たちはどこで雨宿りをしているのだろう、やり過ごせる場所があるのだろうかと考えました。
そして、あのかわいそうな鶴が雨をどうしのいでいるのだろうかと思いを馳せました。
ボーが席に戻った時には、ボルドさんもお礼を言ってくれました。
「助かるよ」
その時にさっきの女中がお茶の乗ったワゴンを押して部屋に入ってきました。
女中は孫がいてもおかしくないくらいの年のおばさんでした。
清潔な女中着とエプロンを身に着けています。
女中のおばさんは一言もしゃべらずに、きびきびとお茶を淹れました。
女中がお辞儀をして下がると、ボルドさんは白くて薄いカップにお酒をたらしていきました。
お酒で香りを加えたお茶にはグランディスさんたちも喜びました。
「なるほど、これはお茶によく合う」
「さっきの酒とは種類が違うのだな」
「はい、このお酒は珍しい果物から作られているのです」
香りの良い熱いお茶を呑むと、ボーの全身も内側からぽかぽかと温まりました。




