【指輪】
ユメッソスさんは皆に見えるように中指から指輪を外すと、それをボルドさんに差し出しました。
「先ほどの目利きは見事だったが、グランディス殿にも見せてもらえるかな」
「はい、喜んで」
ボルドさんは気軽に了解しました。
ボルドさんにとっては出世や賭けの話よりも、こういう話のほうがよっぽど心安いのです。
「それではお預かりします」
ボルドさんは両手で大事そうに指輪を受け取りました。
そして顔から少し遠ざけたところで、返したりかざしたりといろいろな角度から眺めました。
「この指輪は六、七十年程前に作られたものです。
表面が平らで浮き彫りになっているのは封蝋をするためです。
通常このような物は単純な作りであまり装飾はしないのですが、これには全体に見事な細工が施され星も埋め込まれています。
台座は金で埋めこまれた宝石は小さいですが上質なものです。
印璽なので普通ならそのご家族の方以外には無用ですが、この指輪は非常に立派なので、装飾品として欲しがる方が大勢いらっしゃるでしょう。
実用品なので細かい傷はありますが、大きく価値を損なう程ではありません。
おそらく安く見積もっても数百万、庶民に手の届くものではありません」
ボルドさんは鑑定が終わると指輪を両手でユメッソスさんに返しました。
ユメッソスさんは受け取った指輪をグランディスさんに手渡しました。
「いかがかな。ボルド殿の眼は大した物だと思わないか。もちろんこの指輪は今初めて見せたのだよ」
グランディスさんは指輪が説明された通りの物か眺めました。
「なるほど。よくそんなにすらすらとわかるものだ、大した鑑定眼だ」
グランディスさんは指輪を返しユメッソスさんが受け取りました。
「貴殿もそう思うだろう。確かにこれは妻の曽祖父に当たる方が作らせたらしいから、年代もおよそその辺りだ。家長の証にと引き継いだ時に良い物だとは教えられていたが、実はそこまでとは思っていなかった。我輩には少しきついのだが我慢をしているだけの価値はあるのだな」
ボルドさんは褒められても控えめに話をしました。
「指輪がきつい時は、サイズをお直しする事もできます。腕のよい職人ならぴったりのサイズに直しても継ぎ目一つ残しません」
「そうか、それは良い事を聞いた。では腕のよい職人も紹介してもらえるかな?」
「申し訳ありません、私はこの地方に来たのが初めてなので、職人の知り合いはおりません」
「ふむ、なるほど。それもそうか」
ユメッソスさんはグランディスさんから返ってきた指輪をまたぎゅっと指に押し込みました。
そしてグランディスさんとボルドさんを交互に見ました。
「どうだね、貴殿も座興に何か鑑定してもらっては?ダンク殿も別にかまわないだろう?」
「もちろんですとも。お安い御用です。いささかでも泊めて頂くご恩返しになればと思います」
ボルドさんがそう言うのを聞くとグランディスさんもその気になりました。
「よし、何か見てもらおう。珍しい物と私自身が価値を知らない物、どちらが面白いかな」
「もちろんどちらでも結構です。ただ私にもわからない物がたくさんあります、どうぞ私の苦手なものじゃありませんように」
ボルドさんはグランディスさんたちに聞こえるように祈りました。




