【ユメッソスの願い】
ユメッソスさんは窓の外を見ました。
「ああ、今日は帰れそうにないからもう急いではいないのだが、一日も早く貴殿に相談をと思って来たのだ」
「おや、それはどんな事でしょう?」
「実は、近々私は登城することになりそうなのだ」
「それはそれは、おめでとうございます」
グランディスさんは小粋にグラスを傾けました。
ボルドさんもダンクさんも、
「おめでとうございます」
「それはすごいですね」
と続けて祝福しました。
ボーは言いそびれてしまいました。
実は登城の意味もわからなかったのです。
「貴殿も知っての通り、私の妻は新王の姪に当たる」
グランディスさんは頷きました。
「麗しのサナナ姫ですな」
「たしかに十五年前は誰が見ても麗しかった・・・」
ユメッソスさんは若かりし頃の奥さんを思い描きました。
「あいや、ともかく、サニーの父の口利きで城勤めができそうなのだ」
「良い機会を得ることができましたな。それではこれからは義理のお父上のご期待に応えるよう努めなければなりませんな」
「いかにもその通り。これからはサニーに任せてふらふら遊んでいるわけにはいかないのだ」
ユメッソスさんはひょいとグランディスさんを指差しました。
「それでここからが相談なんだが、ほら我輩は狩りならまあまあ人並の自信がある、いや自分で言うのも何だが弓の腕だけをとれば狩人にも引けを取らない。おそらく国で三本の指には入るだろう」
ボーは登城の意味がお城で仕事を得たという事だとやっと理解できたのに、ユメッソスさんの話は遠まわしすぎて、またわけがわからなくなりました。
「しかし我輩は城には特に親しいものも居ない。一方、貴殿のお父上は先王にお仕えしていたし、貴殿自身もまつりごとには相当お詳しい」
ここまで聞くとグランディスさんには話の全体が見えたようです。
肘掛に片肘を突いたままの姿勢で、声には出さず口の形だけを、
「あーなるほどね」
と動かしました。
ユメッソスさんはそれには気付かずに続けました。
「いやいや謙遜なさらずとも結構。貴殿はお父上からかなり仕込まれておられる。その力を我輩に貸して欲しいのだ。先代様亡き今、登城のチャンスは貴殿にとっても良い話だと思うのだ」
「つまり、私を一緒に城勤めさせたいのですね」
グランディスさんは興味の薄そうな声でそう言うと、二本の指でつまんだグラスを回しました。
「我輩は、義父に良い顔をしたいだけではないのだ。お城で出世ができたなら念願も叶うだろう」
「念願ですか」
グランディスさんは、片方の眉を軽く吊り上げました。
「我輩は、わが国をアイエイア一番の鹿狩り名国にしたいのだ。しかし志だけは高くともわが国は国別対抗戦でまだ一度の優勝すらした事が無いのだよ。ここ十六年、つまり我輩が参加するようになってからですら、準優勝が一度しかない。必ず例の二国のどちらかが優勝しているのだ。人口でも弓矢の性能でも決して引けは取っていないわが国が優勝できない理由がわかるかね。これはひとえにあの二国の方が鹿狩りが盛んだからなのだ。
同じだけ盛んであれば絶対引けはとらないのだ。鹿狩りが盛んでないことがわが国の競技人口と意識の低下を招いているのだよ」
ユメッソスさんは自分の国の鹿狩りが盛んでない理由を分析して問題点を説明しました。
しかしユメッソスさんの狩り仲間とは違い、ここにはその意見に共感する人は居ませんでした。
グランディスさんは執事がそっと置いていった皿の上の肴をつまみながらますます興味なさそうに聞いていました。
「我輩にはそれがわかっていたので四年前の惜敗のその日に、伯父を通じて国内鹿狩り大会を毎年開催するよう上奏したのだ。ところが、それを聞きつけたあのリットン将軍が、
『わが軍は槍で無双と評判なのだから、何かの大会を催すのであれば槍術こそがふさわしいでしょう』と強引に槍術大会にすり替えてしまったのだ。きゃつは私や伯父よりも立場が強いのをかさにきて、横から入って来て話をひっくり返してしまったのだ」
ユメッソスさんの鼻息は荒くなりました。
「きゃつめは自分が槍兵あがりなものだからそんな事を言ったのだ。わが国に槍が大事だというのなら両方の大会を開催すれば良いだけではないか。我輩はあの日に、いつか再び鹿狩り大会を上奏して、あの老いぼれ将軍の鼻を明かしてみせると誓ったのだ!そのために我輩は冠位が欲しいのだ。あわよくば将軍か大臣にだ。我輩にはあの老いぼれに一言で却下させないだけの地位が必要なのだ!」
憎い将軍の顔を思い出してユメッソスさんはだんだん早口になり、最後は一気にまくし立てました。




