【花】
しかしこのおしゃべりさんは、ちょっとの沈黙でも我慢ができずに辺りを見回して口を開く口実を探しました。
「こちらはよっぽどのお金持ちなのでしょうね、置いてある物がいちいち高級品ですよ」
「本当に初めて見るような物ばかりだわ。あそこの絵なんか本物の人よりずっと大きく描かれているわ」
カグーはとんでもなく大きい肖像画を指差しました。
実際その顔だけでボーの身長程もあります。
「本当にあんなに大きい人がいたら、僕丸呑みされちゃうな」
ダンクさんは立ち上がって部屋にある物を見てまわりました。
皆は目でダンクさんを追いました。
ダンクさんは戸棚の前で停まり、中を覗きました。
「ボルドさん、お金持ちの家で一枚だけ飾られているような皿が重ねられてますよ。バラにしても高く売れそうな器がセットで揃っていますよ。すばらしいですよ。一体何十人分あるんだろう」
ダンクさんは興奮しながら棚を覗き込んでしゃべりました。
ボルドさんは行儀良く座ったままダンクさんに頷きました。
ダンクさんは隣の戸棚へ進もうとしましたが、目が釘付けになって足だけが進み変な姿勢になりました。
「ああ、中身に目を奪われていたが、棚自身がまた素晴らしい。これは高いですよ」
そんなダンクさんにボーは話しかけました。
「ねえ、ダンクさんあれは何なの?」
「ん?」
ボーが指差したのは天井から生えているガラスの花でした。
はるか高い天井から銅の赤いつるが生え、床から2.5㍍ほどの所でぐるっと半周回って上向きにチューリップのようなガラスの花を咲かせていました。
「これかい?なんだろう」
天井を見上げたダンクさんにも見当が付きませんでした。
「こっちにもあるわ」
カグーが布から覗く目で部屋の逆側を指しました。
部屋の中にはガラスの花が三つ、そっくり同じ形に花を咲かせていました。
「なんだと思いますか」
ダンクさんは少し眺めたあと、降参してボルドさんに訊きました。
「あれはたぶんガス灯じゃないかな」
やはりボルドさんには見当が付くようです。
「なんですか、それは」
「ろうそくのいらない燭台だよ。もしガス灯なら灯かりをともせるようにつるの中を燃料が通っているはずだよ」
「へえ、すごいんだね」
「ああ、わかりました。私はテルマイトの港で二十年間燃え続けている灯台というのを見ました。あれの小さいやつなんだな」
ダンクさんは天井を見上げながら部屋を横断して台の前で足を止めました。
台の上には本物と同じ大きさをした真っ白な鷹の彫像がありました。
「うーんこれは大理石でも無いようだけど何の石だろう?」
「見事な物ばかりですね。でも傷でも付けては大ごとですから、うかつに手は触れない方がいいですよ」
ボルドさんは軽く注意を促しました。
すると皆の向いている逆側から、低く力強い声がそれに応えました。
「どうぞ気軽にお手に取ってください」
屋敷の主人が部屋に入ってきたのです。
隣にはユメッソスさんが立ち、二人共にグラスを手にしています。
二人が部屋に入ると太った女中がお酒の乗ったワゴンを部屋に押してきて、そそくさと出て行きました。
屋敷の主人は玄関で見た長い青い上着を着てとても威風堂々としています。
ユメッソスさんはサテン織りの長いベージュ色のガウン姿でした。




