【安全買い】
「儲かるでしょう。絹織物は遠くに行けば行く程、いくらでも高く取引されると聞きます」
「そういう傾向はありますね。でも私の財産はあまり増えていませんよ」
「そんなはずはありません。人に教えたくなくて儲からないふりをしているのではありませんか」
ダンクさんは足を絨毯にすり付けました。
「嘘なんかつきませんよ。少しご説明しましょう」
ボルドさんはダンクさんとボーたちを腰掛けに座らせました。
腰掛けは暖炉の向かいに低いテーブルを囲んでコの字型に並べられていました。
滑りの良い刺繍の入ったクッションに包まれて、ベッドよりも柔らかいすわり心地でした。
「確かに絹織物は元値の何十倍の値で売れる時もあります。でも私の財産がそんなに増えていないのも本当なんです。そうだ。君たちにはそれがなぜだかわかるかな?」
ボルドさんはなぞなぞ遊びのようにボーとカグーに訊きました。
あえてボーたちに訊くことで、少しむきになっているダンクさんを落ち着かせようとしたのかもしれません。
「何十倍の値段で売れてもお金が残らない理由があるんだね?」
商品が高値で売れたらすぐに財産が増えそうです。
ボーは一生懸命考えましたがなかなか思い当たりません。
カグーはあまり悩みもしないで見当をつけました。
「旅が長くて馬二頭と一緒だからかしら」
「カグーさん、やはりあなたはとても賢い。確かにそういう一面もあります」
ボルドさんはカグーににこりと微笑みかけました。
「故郷で仕入れて何日もかけて遠くで売る、そしてまた何日もかけて故郷へ戻る。実際私の旅は一回に何ヶ月もかかるのが普通なんです。その間にも私も馬も食べたり泊まったりしなければならないしね」
「毎日売り買いするお店のほうが儲かるのね」
「そうですね、そのようなお店の方がが有利な点も多いですね」
ボーもカグーの頭の回転が速いのに感心しました。
「待ってください、そうは言っても普通のお店などと比べたら絹織物の取引は桁違いの儲けが出るのではないですか?」
ダンクさんはカグーの考えに納得できずに粘りました。
「はい、私の場合はちょっとしたお店よりは大きなお金を動かしていると思います」
ボルドさんはダンクさんの考えも間違えていないと認めました。
「やっぱり」
「でも、財産が増えていないのも本当で、その理由は儲けを使ってしまうからなのです」
「無駄遣いですか?」
「無駄ではありません、売り上げたお金のほとんどを安全を買うために使ってしまうのです」
その説明だけでは誰も要領を得ないので、ボルドさんはさらに詳しく説明をしました。
「一人で知らない土地を旅をすると言うのはかなり危険なのです。高価な荷物を何十日もかけて運んで、売った後は何百万もの金を何十日もかけて持ち帰る、たった一人なので悪漢に狙われでもしたらひとたまりもありません。そこで私は身の安全にかなり多くのお金費やしているのです。それが財産が増えないわけです。もし絹織物の売買で儲けたいのであれば、私と同じやり方ではなく、大人数で武装して隊商を作った方が実際的でしょう」
カグーは難しい仕組みを理解しながら聞きました。
ボーは半分くらいしかわかりませんでした。
たくさん使うくらいならそもそも高く売らなければ良いのにと思いました。
ダンクさんはボルドさんの説明は理解できた上で、それでも釈然としない様子です。
ダンクさんの表情を見てボルドさんはさらに付け足しました。
「ダンクさんは、私と一緒にいる間に私がどんな事にお金を使っていたか覚えていますか」
ボルドさんに導かれてダンクさんは共に旅をした記憶をたどりました。
「たとえば、初めて会った日に大金を出して車輪の修理を急がせたのもそれが理由ですか」
「そうです」
「それではあの時は、間に合わない取引なんていうのも無かったんですね」
「はい、ありませんでした。あの町では二件も焼け跡を見かけたので長居をしたくなかったのです」
ダンクさんはちょっと考えました。
「火付け泥棒に会う危険を減らしたのですか?」
「はい、そうです。火付け泥棒に限らず、治安の良くない町に長居はしないようにしています」
「いつも宿屋の選びが慎重なのも、朝早く出発するのも危険を避けるためなのですか」
ダンクさんには思い当たるふしがいろいろとあるようでした。
「それらも私が普段からしている気遣いの一つです。大金をはたいてでも安全に旅をするのが私のやり方なのです」
「さて、無駄の多い私のやり方では財産は増えないと納得した上でなら、この先しばらくの間私のやり方をお教えしますよ。何回か取引を見るうちにはダンクさんに向いているかどうかもわかるでしょう」
「そうします。ありがとうございます」
ダンクさんは絹織物の商売を学ぶチャンスを得たことでやる気満々でした。
「良かったね」
ボーはと言いました。
「ああ、ボルドさんは知識も豊富だし気前も良いし、まだしばらく御一緒できるのだけでも運がいい」
ダンクさんは喜びました。




