【絹】
執事さんが下がるとボルドさんは皆に向かって言いました。
「何とかなりましたね。これで明日はのんびりとレムールの町を目指せますね」
「何とかなったどころじゃないですよ。こんな豪華なお屋敷で休めるとは思いませんでした。それにこの機会に貴族の方々とお近づきになれるかもしれないし、このお屋敷でも一儲けさせてもらえるかもしれません、」
ダンクさんは少し興奮しています。
「ほら、この絨毯のすごいこと。足の指が埋まってしまうくらいだ」
ダンクさんは布の服のすそを翻して足踏みをしました。
ボーが足を引きずってみると、足の裏に毛皮のような滑らかなさわり心地を感じました。
「まるで部屋中が牛の背中みたいだ」
「そうだね。ベッドなんか無くてもここに寝たらさぞいい夢が見れるだろうね」
ダンクさんはぴたりと足踏みを止めてボルドさんの顔を見ました。
「そうだ、ボルドさん。あなたが大事にしている商品が何かさっきわかったんですよ」
「ああ、そういえばさっきも言っていたね。覗いたわけではないんだろう?」
「もちろんです。あなたが箱を運び入れてるのを見た時にひらめいたのです。厩に避難させた箱の中身は織物、それも絹織物でしょう」
「正解です。良くわかりましたね」
ボルドさんはにこりと笑いました。
「やっぱり!」
自分の予想が当たったのでダンクさんは指を鳴らして喜びました。
こんなに喜んでいるのですから、ボルドさんの商材が何かというのは、ダンクさんにとって大きな謎だったのに違いありません。
ただ、ボーにはそれがどんな物なのかさっぱりわかりませんでした。
「きぬおりものって何?」
「布地だよ。光沢があって美しく軽くて丈夫、しなやかで肌触りも良く吸湿性にも優れているという最高の織物なんだ」
ダンクさんはボーにもわかるように教えてくれました。
「へえ」
「そんな素敵な布だが、この糸を作る技術を知る者は少ない。なにやら虫から作られているらしいんだけど、その虫がここいらにはいないんじゃないかな」
「虫から作る糸」
「うん、とにかくとても珍重されている。この辺りではよっぽどのお金持ちしか絹織物の服は持っていないだろうね」
「そうなんだ」
初めて聞く筈です。
ボーには全く縁の無い高級品でした。
ダンクさんはボルドさんに訊きました。
「ボルドさん、絹織物は儲かるのでしょう。私にもあなたの商売を教えてもらえませんか?」
「私の商売は楽でも無いし大儲けができるものでも無いですよ」
ボルドさんはやさしく断りましたが、ダンクさんは納得しませんでした。




