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ボー  作者: RENPOO
35/61

【厩】

馬車が母屋の裏手の厩に廻されると、ボーもカグーも覚悟を決めて外に出ました。

土砂降りの雨粒はばちばちと音を立てて身体に当たり、あっという間に下着の中までずぶぬれになりました。

「うわあ、すごい」

雨も風も見ている以上に圧力があり身体が自然にくの字になりました。

服は身体にへばりつき、たなびきました。

ボーの隣ではカグーが首をすくめて目と口を横いっぱいに広げました。


カグーはここまで大雨の中頑張ってきた馬たちを厩に入れて世話をしました。

ボルドさんは何回も往復してして大事な箱をいくつか厩に運びました。

その間にダンクさんとボーは幌を縄で縛りつけました。

「しっかりと結んでおかないと吹き飛んで、幌だけが先にレムールに行ってしまうかもしれないぞ」

ダンクさんは風に負けないように大きな声で言いました。

幌全体を縄でぐるぐる巻きするのですが、これは雨と風のせいで大変な作業でした。

普段のボーならどうということのない作業でもいっこうにはかどりません。

「もうすこし高いところだ。縄を二重に回すよ」

風は強く、大気の中を雨粒の波がうねっています。

幌は風を受けてばたばたと暴れ、じっとしていてくれません。

雨は嫌というほど顔に当たります。

下を向いていないと息も満足にできません。

その上両手で作業をしているので、目鼻口に流れてくる雨をぬぐう事もできません。

ボーは口を尖らせてふーふーと水滴を吹き飛ばしながら息をしました。

もうすぐ夏だというのに濡れた手はかじかんで、粗い縄を強く引っ張る時は切り裂けるような痛みが走りました。

ボーは惨めな気持ちになり、何度も雨のないところに行って仕切りなおしたいと考えました。


そんな中、ダンクさんは縄をかけながらすれ違うボルドさんに呼びかけました。

「あの樽は例の良いお酒ですよね?宿代としては高く付いたんじゃありませんか?」

「ははは、そうだなあ。しかし荷物がびしょぬれになると私はもっと多くの損をしますからね」

ボルドさんが次に荷物を抱えて通った時には、また雨の音に負けないように大声を出しました。

「そうか。今ついに、私にはあなたが大事にしている箱の中身がわかりましたよ」

ボーは作業どころか息をするのもやっとだというのに、ダンクさんはボーと同じ作業をしながら、会話をし、さらに荷物の中身を推量までしていました。

コツでもあるのかとボーはダンクさんの様子を伺いました。

でも特別な事は見つかりません。

ダンクさんも辛くて眉をひそめたり、目に入る雨にまばたきを繰り返したりをしています。

つまりダンクさんはボーよりも平気そうにしていても、決してボーよりも楽なわけではないのです。

ボーはそれなら僕だって負けるものかと思いました。

農場の仕事だってどんなに辛くても終わらなかったことなど無いじゃないかと言い聞かせました。

雨と風はボーがどう考えようがお構い無しに吹き荒れました。

「もうすこし強く引っ張ってくれ」

ボーは息をとめて思いっきり引っ張りました。


作業は辛くてとても長く感じられました。

それでも終わってみればほんの十分くらいだったのかもしれません。

「よし、こっちはおしまいだ」

なんとか全部の作業が終わると皆は一度厩の中に集まりました。

厩の中では、もう馬たちが草を食んでいました。

ボルドさんやユメッソスさんの馬の他にも立派そうな馬が何頭もいて、戸棚にはぴかぴかの馬具が並んでいます。

脇の壁際にはダンクさんの箱がいくつか積み上げられています。

びしょぬれの道連れたちはほっと一息つきました。

「やっと終わった」

「こんなもので大丈夫かな?」

「ありがとう。お疲れ様」

「すごい風だったね」

ボーは雫をたらしながら訊きました。

「あのお屋敷に入れるの?」

「ああ、そうだよ」

「あんなお屋敷に入れてもらえるなんてすごいね」

皆は立派な屋敷で雨宿りできる事を喜びました。

「私はここで荷物の番をしますね」

ところが、カグーは突然厩に残ると言い出しました。

「どうしたんだい?気遅れでもしているのかい」

「あんなすごいお屋敷に入れるんだよ。一緒に行こうよ」

「気兼ねをする必要はありませんよ、私たちは仲間なんですから」

皆が誘ってもカグーは厩に残りたがりました。

「せめてもの恩返しに、馬と荷物を見張らせてください」

「そんな必要はないよ」

「そうさ。この厩は嵐ぐらいじゃびくともしないし、泥棒だって今日は自分の家から出られないよ」

「あなたをここに置き去りにしたら、心配で眠ることもできません」

なかなかカグーは引き下がりませんでしたが、最後にはボルドさんがやさしく言い聞かせ、やっとみんなで母屋に向かうことになりました。


「また一度外に出るのか」

厩の扉をしっかりと閉じると、皆でさっきの玄関まで走りました。

階段まであと少しの所では、これまでで一番の突風が吹いて全員がいっせいによろけました。

一番体の軽いカグーは三~四歩は自分の思わぬ方角に歩かされました。

ポーチにたどり着いた時には、また全員が絞っていない雑巾ほどにびしょぬれになっていました。

真っ白な石のポーチの上には人数分の水溜りができました。

目の前にはぴかぴかの扉があります。

間近で見るとこの扉は巨人が中から出てきそうな大きさがありました。

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