【来襲】
その夜、若者は寝入りばなに叩き起こされました。
城に賊が侵入してきたからです。
「兵隊が大勢寝泊りしているお城に乗り込んでくるとはなんと大胆なやからだ」
同じ部屋の仲間たちは飛び起きるなりすぐに迎え撃ちに行きました。
でも若者には剣がありませんでした。
若者は窓から外の様子を伺いました。
城の中の何ヶ所かからは火の手が上がっており、暗闇の中から騒ぎ声もします。
賊は放火の混乱に乗じて目的を果たすつもりです。
ただ若者にとって幸いな事に武器庫はまだ無事に見えます。
若者は武器庫へ向かって走りだしました。
塔を抜けて中庭に出ると人影がありました。
暗い壁際に数人集まっているようです。
目を凝らすと中心にいるのは領主様とお姫様でした。
二人の足元では苦しそうに側近がうめいています。
中庭の隅に追い詰められたお二人は、あわやと言う場面でした。
盗賊二人と向かい合っています。
盗賊たちは剣を突きつけながらにじり寄り、丸腰のお二人はお互いをかばい合いながら震えています。
若者は駆け寄りながら弓を射ました。
暗がりなので矢はどこをどう飛んだかわかりません。
でもとにかく盗賊の一人がもんどりうって倒れました。
若者は思わず言いました。
「領主様に当たらないで良かった」
残った盗賊は次の矢が飛んでくる前に植え込みの陰に逃げ込みました。
そして大声で仲間を呼び始めました。
「ここに領主と娘がいるぞ」
領主様は若者が到着するとお礼や挨拶よりも先に注文をしました。
「おお、なんとかいたせ」
言われなくても新手を呼ばれちゃじゃかなわないのは若者も同じです。
若者は領主様たちの前に立って次々と矢を射掛けました。
ところが植え込みに邪魔されて、矢は大声を上げる盗賊まで届きません。
「武器庫へ逃げましょう」
折れていない剣が必要な若者は王様に提案しました。
しかし武器庫へと続くお花のアーチをくぐって鎧武者が現れました。
見たことも無いほどの大男です。
鉄兜をかぶったひげ面で太い指には指輪を十個もはめています。
高い眉弓の下のぎらぎら光る鋭い目がこちらを睨みました。
自己紹介をされなくてもすぐにわかりました。
彼こそが盗賊の首領でした。
王様とお姫様と若者は、行き先を変更したくなって後ろを振り返りました。
しかし若者が中庭に入ってきた入り口からは別の鎧武者が二人も入ってきました。
こちらは首領ほどの大男ではありませんが、鎧兜の他に盾まで持っていてしかも二人組みです。
まだ距離こそあるものの、挟み撃ちの形です。
三人は行くも戻るもできずに立ち止まりました。
鎧武者の後からは騒ぎを聞きつけた衛兵隊が駆けつけて来ました。
盗賊の騒ぐ声は城の兵隊たちも呼び寄せてくれたのです。
若者は天の助けと手を振って歓迎したいくらい喜びました。
ところが衛兵隊は狭い出口から出てくることができません。
広い中庭で待ち構える部下二人を相手にしなくてはいけないのです。
その上、この鎧武者の二人は上手に盾まで使いこなしています。
きっとこいつら幹部は兵隊上がりか何かに違いありません。
先頭の衛兵が力尽きると、次に控えていた衛兵も同じように二人を相手で戦うことになりました。
後ろの衛兵たちは広い中庭に出てくることができません。
二対一でも充分卑怯なのに、さらに植え込みに隠れていた男までがこれに加勢に加わりました。
援軍の侵入が阻まれ、一人ずつ血祭りに上げられているのを見て首領はほくそ笑みました。
そして刀を掲げてゆっくりとすり足で領主様とお姫様に近づいて来ます。
つまり、二人の前で弓をつがえている若者に向かってです。
盾も持っていないのに隠れもしなければ歩みを止める気配もありません。
矢が当たったら痛いと思うのですが、もしかしたらすごく我慢強い人なのかもしれません。
若者は首領の物怖じしない態度に不気味さを感じながら弓を射ました。
矢は音を立てて首領の頭のすぐ上辺りの幹に刺さりました。
どうやら首領は強運の持ち主のようです。
若者は矢筒から次の矢をつがえました。
でも次の矢は最後の一本でした。




