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ボー  作者: RENPOO
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【的を外さない若者の話】

昔、今より少し世界が広かった頃、あるところにお姫様がおわしました。

お姫様とは言っても、父親はすごく大きな国の王様ではなくて僻地の村の領主でした。

両親はお姫様を大変かわいがり、何にでも娘の名前を付けました。

例えば新しい花が見つかると姫の名前を冠しました。

料理人がおいしいお菓子を開発すると姫と同じ名前を付けました。

「領主様、馬小屋で猫が子猫を七匹も産みました」

「なんだと?それでは姫の名前を付けてやろう」

まあ、そんな具合でした。


お姫様は周囲に愛され健やかに成長されました。

美しくなったお姫様は毎日美しい服をお召しになりました。

お金、家柄、美貌、大きな声、大きい胸とお尻。

人が欲しがる物で彼女が持っていない物など何もありませんでした。


また、一人の若者がお姫様の村で働いていました。

この若者は一応伯爵家の跡取りでした。

ただ若者の家は代を重ねるごとに落ちぶれていました。

伯爵らしいチョッキの型は時代遅れ、腰にさす剣は中古、背中にしょった弓矢も自分の手作りでした。

若者は格好だけは貴族でも中身は平民よりも貧乏な着たきりすずめでした。

その上大したものを食べていないからやせっぽち。

要するにこの若者にとっては今身に付けている物だけが全て。

この他に彼が持っている物など何もありませんでした。


この頃、村は盗賊の被害で困っていました。

五十人組みの大きな盗賊団が夜な夜な村に入り込んでは、あちらのお屋敷こちらの大商店とお金の有りそうな所を襲っていたのです。

財産だけでなく命まで奪われた者も少なくありませんでした。

事態を重く見た本国は軍隊を駐留させ、領主様も守備兵を増やしました。

若者はこの守備兵として勤めていたのです。

ただ守備兵になった理由は高い志ではなく、わずかな手当てが欲しかったためでした。


さてお姫様は今月も二十人のお付きたちとアヒーラ神殿へ行かれました。

お勤めも無事に終わりお城への帰り道、雅な行列に目を付けて十人組みのごろつきが襲ってきました。

ごろつきは人数こそ劣っていましたが、馬に乗り武器も持っていたからたまりません。

「あーれー」

お姫様の行列はあっという間に蹂躙されてクモの子を散らすように逃げ出しました。


そこに悲鳴を聞きつけた三人の守備兵が駆けつけました。

ちょうど近くを警らしていたのです。

たった三人ですが三人共に若く勇敢でした。

その三人の中には例の若者がいました。

三人は馬上の敵を相手に三面六臂の活躍を見せ、瞬く間に二人のごろつきを討ち取りました。

騒ぎの中、馬に乗ったひときわ強そうな男がお姫様を小脇に抱えて連れ去ろうとしました。

若者はその男に斬りつけました。

若者の剣は手綱と男の指を二、三本切り落としました。

強そうな男はたまらず娘もろとも馬から落ちました。

男の落馬に気が付いたごろつきたちは、一斉に若者の周りに集まってきました。

若者と娘はあっという間に五、六頭の馬に取り囲まれました。

逃げ道を失った若者は天に向かって剣を掲げました。

「お前らもこの聖剣の露になりたいのか」

しかしはったりは通じませんでした。

馬上からの一太刀を受け流しただけで若者の聖剣はぽきりと折れてしまいました。

ごろつきどもは二人を囲み、不潔で凶悪な顔で騒ぎ立てました。

それでも若者は震える声で虚勢を張りました。

「絶対大丈夫。私の矢は外れないから」

若者は矢をつがえて構えました。

泥だらけの娘を元気付けるための言葉でしたが、ちょっぴり自分も奮い立ちました。


この二人の命もあわやと言う時に天の助けが現れました。

騒ぎを聞きつけた別の守備兵が三人駆けつけて来たのです。

三人だけの増援ではごろつきどもの方がまだ刀の数で優勢でした。

しかし、時が経つほど分が悪くなる事ぐらいはわかるのか、ごろつきどもは指を切られた男を馬に乗せると退散していきました。


騒ぎが終わってみると、守備兵のうちの一人は大怪我を負っていました。

若者の剣も折られてしまいました。

しかし一行は事なきを得て、二人を討ち取り一人を捕らえた事ができました。

「よくやった」

若者たち守備兵は城に戻ると領主様や副将軍様にお褒めをいただきました。


さて、ごろつきどもの正体はくだんの盗賊の一味でした。

彼らはすっかり村を見くびり昼日中にまで顔を出し始めたのです。

そして指を切られた男は盗賊の首領の弟でした

盗賊のねぐらでは首領の弟の指の仇をとろうと大盛り上がりです。

逃げられたお姫様をさらいなおして、一生弟の指の代わりにこき使ってやろうと言う事になりました。

しかしまだこの時は村の誰一人として、ごろつきどもが盗賊の一味だとは知りませんでした。

四十六人くらいの盗賊は日が沈むのを待つと村に忍び込んできました。


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