【大事なもの】
ユメッソスさんはこの話を聞くと喜びました。
「わはは何と間抜けではないか」
カグーもこの話を聞いて笑いました。
ボーはちょっと遅れて笑いました。
「あそうか」
するとユメッソスさんはボーの鈍い反応も面白がりました。
ボーはちょっと恥ずかしい思いをしました。
笑い声のあと、ダンクさんが訊きました。
「ユメッソス様、あなたの町にも面白いお話はたくさんあるのでしょうね」
「もちろんだよ。女子供が集まるとよく昔話が語られているぞ」
「そうでしょうそうでしょう、良いですね、昔話。できることなら一つくらい聞いてみたいです」
「なに、我輩がか?我輩はそういうのは得意ではない」
「そんなつれない事をおっしゃるんですか?よそ者の私どもは今聞き逃してしまったら二度と聞く機会が無いというのに」
ユメッソスさんは本当に苦手なのか困った顔をしてあごひげをしごきました。
「ダンク殿はそんなに昔話を聞きたいのか?」
「はい、旅先に伝わるお話を聞かせていただくなんていうのは大変結構な事です」
「どちらかといえば無くても良いものだろう」
「え?」
「世の中には他に大事なものがいくらでもある。例えば食べ物とか呼吸や塩などだ。欠かしては生きてはいけない物こそが大事なんだ。貴殿ももっとそういう物に興味を注ぐべきではないかな」
話をしたくないからなのか、ユメッソスさんは昔話をくだらないと言い出しました。
「ああ、なるほど。そういうものは大事でございますね」
「昔話なんかはなくても死なないじゃないか」
「なるほどごもっともです。私の話好きも単なる道楽に過ぎないのですね」
ダンクさんはユメッソスさんの風向きが変わった事に気がついてあっさりとあきらめてしまいました。
「あらユメッソス様、生きるのにはちっとも必要がなくても大事な物はありますわ」
カグーは当たり前のように言いました。
「ほほう、例えば何かな?」
「例えば・・・・・・そうです。ユメッソス様だって娘さんがいなくても生きていけますよ」
カグーはにっこり微笑みました。
ユメッソスさんはあごひげをしごきながら少し考えました。
「見事。こんな若いお嬢さんに一本取られてしまった。ひとつみやげ話をとらせてやらねばなるまいな」




