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ボー  作者: RENPOO
26/61

【石】

ボーが石を差し出すと、ボルドさんは両の手のひらでそれを受け取りました。

「私は見立てが趣味なのです。旅をしていて出会う物や人が、どんな来歴でどんな物なのかを見極めるのが大好きなのです」

ボルドさんはふたの付いたかばんからごつごつした物を取り出して頭に取り付けました。

「時には、とんでもなく珍しい物や、びっくりするような価値のある物に出会う事もあります」

頭に取り付けた物は不恰好でつまみや目盛が付いた拡大鏡でした。

いかにも専門家の使うような仰々しい見た目は、ボーにはかえって格好が良く見えました。

「すごい眼鏡だ」

「ほほう」

ダンクさんもユメッソスさんもこの特別な眼鏡に目を惹かれました。

「そして時には、小さな傷がはるか昔にあった出来事を教えてくれる事もあります」

ボルドさんは話しながらレンズの横のつまみを調整しました。

「例えば、この目盛がこすれて消えかかっているのだって、前の持ち主がこの眼鏡を長年大事に扱ってきた事を語ってくれます。」

レンズを通すとボルドさんの目は元の大きさの三倍にも拡大されて見えました。

緑がかった茶色の瞳が三倍の大きさで動きました。

ボルドさんはその大きな目玉で小さな石を手の上で転がしながら観察しました。

「さて、この黒い石はよく光っているね。そして非常に軽い。これは歴青炭に間違いないでしょう」

「れきせいたん?」

「はい、歴青炭は質の良い石炭です。皆さんが燃料に使うあの石炭です。

非常に滑らかできれいな球体になっているのは河の流れが長年かけて磨いたためでしょう。

もちろんこんなに小さくては燃料にもなりませんし価値も無いけれど、とてもきれいですね」

ボルドさんは鑑定した石を大事そうにつまんで隣に手渡しました。

小さな石炭は手から手へと渡され順々に眺められました。

「見事にまん丸だ」

「つるつるしているな」

瀝青炭が回し見されている間に、ボルドさんはとがった円錐形の方の石を調べました。

丸い石よりもさらに時間をかけて、いろいろな角度から覗き込みました。

「これは珍しい、これはただの石ではありません。

前世紀の生き物の体の一部です。

私は専門家ではないので正確にはわかりませんが、大きさや形から察するに、トカゲか鳥の爪なのかもしれません」

「ううん、それは石だよ」

ボーは触った時の質感が爪とは明らかに違っていたのでそう言いました。

「その通り、今は石です。

しかし、生き物の死骸がたまたま腐らずに長い年月がたつと石になる事があるのです。

こういうものは化石と呼ばれています。

歯とか骨のような腐りにくく硬い部位が化石になりやすいのです。

そして大概はもう居ない種類の生き物です。

というのも化石ができるまでの、百年を千回繰り返してもまだ足りない劫というような期間のうちには、その子孫でさえも死に絶えてしまうのが普通だからです。

これもおそらく、今はもう居ない生き物の体の一部なのでしょう。

化石は珍しい物なのですが、お金を出して求める人はいないでしょう」

そしてすぐに値踏みをした事を詫びました。

「いや失礼、お金に換算する必要は無いのに、値踏みをする仕事なものだから癖が出てしまいました」

残念ながら、ボルドさんの鑑定では二つの石には価値も無ければ、ボーの話が本当だという証にもなりませんでした。

それでも皆は順々に化石を廻して見ました。

珍しいと言う見立てのせいか石炭より興味深く眺めました。

「これが生き物の爪?」

「普通の石とどうやって見分けがつくんだ?」

誰もが化石を見るのは初めてでした。


ボルドさんは石が皆の手を一周して戻って来ると、細くて長い皮紐を取り出して縛りはじめました。

ごつごつしわしわの指は見た目以上に器用に動いて、ほどなく環を作り上げました。

ボルドさんはその環になった黒い革紐をボーに渡しました。

「これなら無くなりにくいと思うけどどうだろう?」

飾りがあまりにも小さいので、一見結び玉があるただの紐のようにも見えます。

でも良く見るとちゃんと二つの石がしっかりと縛り付けられています。

ボルドさんは、ボーが石を身に着けていられるようにしてくれたのです。

ボーは喜んでそれを首から下げました。

が、

「うん、すごく良いや。ありがとう」

ボーは大喜びでお礼を言いました。

ダンクさんはボーの首に下がった紐を見て言いました。

「どこかの部族のお守りみたいだな」

ボーは首から下がった紐の先を持ち上げて見直しました。

「こんなお守りがあるの?」

「ああ、昔、どこだったかの山に住む少数民族がそんなお守りを首にかけていたよ」

ボーは自分のお守りの結び目を摘み上げました。

ユメッソスさんはボーのお守りを大して見もしませんでした。

「似合うぞ。ご利益は無いだろうがな」

ご利益が無くてもそんな事はボーにはちっともかまいませんでした。

「格好良いわ」

カグーは、その紐同然の首飾りをほめました。

そしてボルドさんにねだりました。

「私にもあの紐をくださいな」

カグーはボルドさんから革紐を受け取ると後ろ髪を編み始めました。

ボルドさんはカグーが黒い革紐をおめかしに使うのがわかると、

「こんなのもあるよ」

と、さらに二本、赤と青に染められた革紐を引っ張り出しました。

「まあ素敵」

カグーはそれらを受け取ると髪を編みました。

小さい指はすばやく同じ動作を器用に繰り返しました。

ユメッソスさんは貧乏くさい首飾りも若すぎる女の子のおしゃれにも興味が無いようでダンクさんに弓の話を持ちかけました。

やがてカグーは編みあがった後ろ髪を前に回して、ボーに見せました。

「どうかしら?」

三色の革紐は格子状に編まれて、さっきまであんなに広がっていたふわふわした黒髪を一本にまとめていました。

華やかな赤や青の色が顔の近くにあると、カグーの瞳はより黒く映えます。

前髪の陰になっていた額や頬もはっきり見えて、いっそう表情も明るく見えました。

カグーは太い眉を大きく上げてわくわくと返事を待っています。

でも、ボーはなぜか照れてしまって思った言葉を素直に言えませんでした。

若い女性に見つめられるなんて初めてだったからかもしれません。

「すごい上手だね。手探りだけで頭の後ろを良く編めるね」

一方、横でそれを見ていたボルドさんは簡単に言いました。

「おお、とてもかわいくなりましたね」

カグーはうれしそうにボルドさんににっこりと微笑みました。

ボーは自分もそう言えば良かったとちょっと後悔しました。

そして、昨日の鶴もこんなかわいい女の子だといいな。いや、それよりもカグーがあの鶴だったら良いのにと思ってしまいました。


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