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ボー  作者: RENPOO
25/61

【でっちあげ】

ボーは話し通しだったので喉が渇きました。

お茶を一口飲んで顔を上げると、全員がまだボーの顔を見守っていました。

「それで?」

話の続きを待ちきれなくなったダンクさんが訊きました。

「それからどうなったんだい?」

「これでおしまいです、鶴は戻って来ませんでした」

「おやま」

ダンクさんは口を丸くしました。

「今朝は昼過ぎくらいまで待っていたけど、鶴は帰って来ませんでした」

「そうだったのか」

ダンクさんは残念そうに言いました。

「うん、一本だけやけに高いフープ松、そこは通ったな、私も見かけたよ」

ボルドさんは馬車の上からあの木を見かけていました。

「この辺りで離れ松と呼ばれているやつだな、」

ユメッソスさんもその松を見知っていました。

「それを見て思いついたのかもしれないが、話の方はいまひとつだったな、もっと締まりのいい結末にした方が良いんじゃないかな?」

ユメッソスさんの感想はボーの話をまるきり信じていないものでした。

「作った話じゃありません、本当の話です。昨日の事なんです」

ボーは言いました。

でもユメッソスさんはにやにやしたまま否定しました。

「おとぎ話もいいところだ。本当だと思わせたいのなら、もう少し現実的にした方が良い」

その上親切にも、ボーの作り話の良くない所を指摘し始めました。

「まず魔法なんて現実には無いんだよ。もっと小さな子供だってそれくらい知っている」

「魔法があるかどうかは知らないけど、鶴はそう言っていたんだ」

「鳥の言った言葉ね、それもいかん。鳥は人の言葉を話さん。我輩は何百何千羽とあらゆる種類の鳥を射ってきたが、人の言葉を話す鳥なんか一羽とていなかった」

「鶴が人の言葉を話したのは間違いありません。絶対に本当です」

ボーは譲りませんでした。

「もしそれでも本当だと言い張るのなら、残念だが君は夢と本当の事とごっちゃにしているのだ」

「夢じゃありません、区別くらい付きます」

「それなら、はっきり目が覚めている今でも鶴と結婚したいなんて思うかね?」

ボーは言い返せませんでした。

結婚は鶴の希望でボーが望んだわけでは無いのですが、ボーにはうまく説明できなかったのです。

とにかく口ではボーには全く勝ち目はありませんでした。

ユメッソスさんの言う事の方がもっともらしいので、ボーの話はすっかりでっちあげのようでした。


「嘘も本当も、実際その場にいないとわからないものですよね」

ダンクさんは二人を取り持とうと笑いかけました。

しかしユメッソスさんは、勢いに乗って訊き返しました。

「ダンク殿はどう感じたのかね、まさか信じたわけではないだろう?」

「え、そうですね。いや、まあ信じがたい話です。ユメッソス様がおっしゃるように夢だったというのが一番すんなり受け入れられます」

ダンクさんは言いにくそうながらも、ユメッソスさんに同意しました。

でも、がっかりするボーを見て一言付け足しました。

「つまり、それくらい不思議な話だったよ」

「・・・うん」

慰めてくれてはいますが、ダンクさんの言い分はユメッソスさんの味方でした。

ボーはでっち上げだと思われるくらいなら自分だけの秘密にしておけば良かったと後悔しました。


「素敵な話だったわ。私は大好き」

カグーは明るくそう言いました。

しかもわざと嘘か本当かは口にはしませんでした。

ボーはカグーの気遣いをうれしく思いました。

「ありがとう。でも、素敵なところなんかあったかな?」

ボーには素敵に感じられる所なんか見つけられませんでした。

「ええ、とっても」

カグーはうっとりとそう言いました。


「まあ楽しませてはもらったよ。即席にしては上出来だった」

ユメッソスさんはお茶を飲みながらボーの話を褒めました。

さすがにカグーの意見にまでは文句は付けませんでしたが、それでも今の言い方にも作り話だという気持ちが含まれていました。

「そうだ、皆さんはこの後どうなったと思いますか?」

ダンクさんは明るい声で、少し話題をそらせました。

「この話の続きかね?」

「ええ、そうです。一体鶴に何があったのでしょう?」

「珍しいから池の向こうで狩人に狙われたのだろう。もう鶴がいる季節ではない」

ユメッソスさんは今度は縁起でもない事を言いました。

「確かに鶴は渡り鳥、今見かけることはありませんね」

ダンクさんはボーにちょっぴり遠慮しながらも、ユメッソスさんの意見をもっともだとほめました。

「いいえ、きっともう人の姿に戻っていて、じきにボーさんに追いつきますよ」

カグーは希望いっぱいの声で言いました。

「そうだね、今頃桃を手に君を探しているかもしれないね」

ボルドさんもカグーの意見に賛成しました。

桃を持ってボーを探す女の子、その姿を想像した時ボーは思いつきました。

「そうか、わかった。向こう岸で人の姿に戻ったから河を渡るのに時間がかかったんだ。今頃はあの木の下で僕を待っているんだ」

ボーは荷台から飛び出そうと立ち上がりました。

するとボルドさんは手を上げて引き止めました。

「迎えに行くのは良いけれど、せめて嵐をやり過ごしてからにしなさい。嵐は明日には過ぎてしまうだろうから、それまでは待った方が良い」

「そう、ボー君はそこに戻る必要はないぞ、」

続いてボーを引き止めたのは、なんとユメッソスさんでした。

でっちあげだから誰も待っていないと言うつもりだと、ボーは思いました。

「そこで女の子が待っているはずは無いのだよ。考えてみたまえ、人の姿に戻れたのなら、もう彼女は行きずりの男の嫁になる必要はないじゃないか」

ユメッソスさんはそう付け足して下品に笑いました。

ダンクさんはユメッソスさんの肩越しに眉を下げてやれやれという顔をしました。

ユメッソスさんの言葉は思ったよりもさらにひどい考えでした。

でも一貫性が無いおかげでボーはやっと理解できました。

ユメッソスさんは冗談を言っているだけで、ボーの話が本当かどうかなどは気にもしていないのです。

落ち着いて考えてみれば、ユメッソスさんはふざけているだけだし、ダンクさんだって貴族に気に入られたいだけなのです。

自分の話を信じてくれない人がいても子供みたいにむきになる事はないのです。

ボーはちょっとだけ張り詰めていた気持ちをふっと吐き出しました。

「それに、人の姿に戻っていると言うのも私たちの予想に過ぎません。まだ鶴の姿のままかもしれないのです。でもそれなら翼があるのだから、やはり鶴の方から君を探して飛んで来るでしょう」

ボルドさんはボーを安心させるように言いました。

順序だてて説明してくれるボルドさんの言葉には、ボーの話をばかにする気持ちは少しもありませんでした。

「そうかもしれないね」

ボーは落ち着いて答えました。

「そうだ、もしまだ持っているのなら、もらった石を見せてくれないかな?」

ボルドさんは訊きました。

ボーはボルドさんに訊かれてはじめて石の事を思い出しました。

あれからずっと懐に入れたきりにしていたのです。

もしかしたら、もらった石がボーの話が本当だった証明をしてくれるかもしれません。

ボルドさんに見せようとボーは懐に手を入れました。

しかし石はありません。

夢だったという考えが頭をよぎりました。

そんな筈はないと手探りを続けると、裏地の折り目の隅で指の先に小さな塊が当たりました。

懐から取り出された石は昨日見た印象よりさらに小さいものでした。


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