【近道】
「何?では君たちは全くの知らないもの同士なのか」
ユメッソスさんはボルドさんたち一行がたまたま乗り合わせただけだと言う事に驚きました。
「知らない同士一緒に乗り合わせるとおかしいですか」
「いや、そうではない。この寂しい街道で四人も出会う偶然がおかしいのだ」
「そんなにここは行き来が少ないのですか」
「そうだとも、我輩の村からレムールまで馬で二日。その間、人とすれ違わないのが普通だ」
「そうだね。僕もこの街道を歩いた五日で馬二頭にしか会わなかったもの」
ボーが言うとユメッソスさんはあごを上げました。
「ん?昨日会ったのなら我輩の息子かもしれないぞ」
「昨日の朝の馬はね……そうだ赤毛の馬だった。若い男の人でずっとトロットで走って追い抜いて行ったよ」
「それは息子に間違いない。レムールで叔父の下に預けているのが昨日帰ってきたのだ」
「へえ、おもしろいね。僕ユメッソスさんより先に息子さんと出会っていたんだね」
「まあな。とにかくそれくらい本当にここは人通りが少ないのだ」
「そういう事ですか。実際にこの街道を歩いていたのはボーくんだけですよ。私たちはこの街道に出た時には既に三人乗り合わせていましたから」
そしてユメッソスさんはボーの故郷の山の位置を聞くと言いました。
「ああ、あの辺りの山には小さな集落がいくつかあるな。交通の便は悪いし貧しい場所だから税金も取り立てていない場所だ」
ユメッソスさんはボーの故郷を取るに足りない場所だというように言い捨てました。
「なるほどな。それではダンク殿たちの方はなぜこんな道を選んだのだ?」
「レーニングランデの町で聞いたとおりに来たのですよ」
「旅人には大河の東側の街道を勧めるものだ。一体誰がこんな近道を教えたんだ」
ユメッソスさんはお茶をこぼさんばかりに茶碗を振り上げました。
「おや、近道とおっしゃいましたか?」
「うむ、この街道は地元ではそう呼ばれている。向こう岸の方がいくらか人も住んでいて夜には泊めてもらうような家もあるからな」
「それでわかりました。私がばか丁寧に、レムールへの一番近い道と聞いたのがいけなかったのです」
ダンクさんはすっかり謎を解きました。
「ユメッソスさん、何で皆近い道を通らないの?」
ボーは訊きました。
「そうですよ。ユメッソス様、ここまで私たちはこの近道を通ってきたわけですが、決して悪い土地には見えません。平地も水も豊富ではないですか。この辺りにこんなに人が住んでいないのは何か理由があるのですか?」
「ふむ、それは二百年前の戦争の呪いのせいだと言われている」
ボーもカグーもユメッソスさんの顔をうかがいました。
「呪いですか?」
ダンクさんも真面目な顔でユメッソスさんを見ました。
「夜毎兵隊の死霊たちがこの街道を行進をするのだ」
「本当ですか」
「もちろん迷信だ」
ユメッソスさんは笑い飛ばしました。
「単なる噂だよ。そんなばかげた事はありっこない。その証拠に戦争が起きるはるか昔からここに人は住んでいない。その証拠にここに人が住まないのは戦争が起きるはるか昔からの事なのだ。実際は北にあるレムールのせいだ」
「レムールのせい?」
「うむ、我輩はそう分析した。北の土地の方がずっと恵まれているせいだ。大昔から数人数十人という単位でここに住み着いても次の世代には北に移動してしまうのだ。それほどにレムールの町や大農耕地帯の方が恵まれた土地なのだ」
ユメッソスさんの分析は確かに筋が通っていました。
「そうなんですか。そんなにレムールの町は良い土地にあるのですね」
ダンクさんも納得して腰を引きました。
「そういえばボー君の話がずいぶん後回しになってしまったね」
ボルドさんはお茶の入ったポットを掲げて皆を見回しました。
「さて、ボー君の不思議な話を聞く前におかわりが欲しい方は?」




